「はっぁ！！はっぁ！！」

　息が上がる...。

　前回、シエルさん可愛いハイエートを倒したのを見た時、自分の可能性を見出した気がした。

　けど、倒したのはあくまでシエルさんだ。

　人は覚醒でもしない限り、いきなり強くなったりすることはない。

　限界まで上がり切った呼吸で、エレクトリック・スネークの目を見る。

　次に何をしようとしているか、どこを狙っているのかをなるべく冷静に判断する。

『もし命の危機を感じた場合には、儂が変わるからの。逆にそれ以外の場合には一切助けもしないし、助言もしない。一人の力で戦ってみよ』

　感謝します...シエルさん。

　歯をむき出しにして威嚇をしてくるエレクトリック・スネーク。

あの時、シエルさんはどうやっていた。

所作を、仕草を、挙動を...見逃すな。

全神経を集中させろ...。

　すると、尻尾の動きが激しくなる。

間違いない。尻尾で攻撃をしようとしているのだ。

　であれば、俺が間合いのギリギリに入って、尻尾で攻撃したところをバックステップで躱す...。

イメージはできた。あとは...実行するだけだ。

　そうして、一歩踏み出した瞬間、そのまま首を伸ばし噛みつこうとしてくる。

　しまった！！尻尾は囮か！？

逃げられない...！

　その瞬間、エレクトリック・スネークの首がポトンと落ちる。

「来光、大丈夫！？」と言い、斗和が駆け足で俺のところに駆け寄って、心配そうに体に傷がないかをこまめにチェックする。

　また...助けられた。

今度は斗和に。

俺は...本当にどうしようもないな。

　シエルさんに助けられて、斗和に助けられて...。

先ほど千能寺に言われたことはまさにその通りであることを証明しているようじゃないか。

　心の中では違うと否定していても、どうしようもない現実がそこにあった。

もう、乾いた笑いしか出なかった。

「...情けないな。本当...。俺は...結局、何の才能もない...人に嗤われるだけの...人生だ」と、ナイフを強く握りしめる。

自分の無力が...こんなに辛いなんて。

「そんなことない。来光は頑張ってるよ」と、斗和は優しく俺の背中を摩る。

　結局、その後も他のEランクモンスター【リリック・ゾンビ】や、【ビッグ・ハムスター】などについても、単独で倒すことはできず、斗和を頼ることになってしまった。

　シエルさんの動きを見て、あたかも自分が強くなった気になっていたが、所詮、俺は俺。

何も...変わらないのだ。

　そうして、モンスターの一部を切って、家に持ち帰ることにした。

一応、俺の戦闘シーンの撮影も行っていたが、残念ながら動画で使えるレベルのものはなかった。

　本当に自分が情けなくなってしまう。

『奏凪殿、勘違いしとるの』

『...勘違いですか？』

『儂が操るお主と、お主が操るお主が同じと思っていないか？』

『違うんですか？』

　すると、『少しだけお主の体を借りても良いか？』と、提案をされる。

『今は...斗和が居るんですが...』

『問題ない。お主の喋り方を真似すればいいのじゃろ』

『そういうことなら...』

　そうして、視点が入れ替わる。

『人間はいきなり強くはならない。お主の言う通りな。だからこそ、見て盗むのじゃ』

『...はい』

　そのまま、ナイフを器用に手で回し始める。

『経験で得られるものは非常に大きい。相手の動き、目線、フェイク、自分の動きに対する反応の仕方...。例えば、弱者を演じることで油断した強者を倒すことだってできる。経験次第では強いフリも弱いフリもできるのじゃ』

　目の前に現れたのはEランクモンスター【レッド・スパイダー】だった。

「...斗和。悪いがちょっと撮影してもらっていいか？」と、ちゃんと俺のふりをして斗和に話しかける。

「...いいけど...大丈夫？」

「あぁ。今ならできる気がするんだ」

モンスター名：【レッド・スパイダー】ランク:【E】

巨大化した真っ赤な6本足の蜘蛛。

大きさは2mほどであるが、大きさの割に攻撃力はない。

吐き出す糸の粘着性はかなり高く、一度触れてしまうと魔法などを使わないと剥がすのは困難。

体の色は赤。

命の危機を感じると自爆をするという特徴がある。

『弱点は足じゃ。足さえ抑えれば大したことはない。では、どんな手段があるか？例えば足元に冷気を出す魔法を使って滑らせる。こういうのも有効手段じゃな』

「［冷却の号令。我使うは氷の魔法。挑みし悪逆に氷冷の天罰を。5級魔法【氷の踊り】］」と、完全詠唱の魔法を使う。

　すると、ツルツルと滑り始めるレッド・スパイダー。

『さらに弱点は足の関節部分じゃ。ここは曲げたりするからどうしたって柔軟性が必要じゃからな。当然、防御力は弱くなる』

　そのまま足の関節にナイフを突き刺していく。

　1本、また1本...

　そうして、6本の足全ての関節にナイフを突き刺すと身動きは取れなくなる。

『自爆は勘弁じゃからな。ここから仕留める。奴は間接も動かせず、足元には氷。もはや、動くことなどできはしない。あとはゆっくりと調理すればいい』

　そうして、もう一度完全詠唱で『氷の踊り』を使う。

　対象は蜘蛛の足。

　ナイフが突き刺さったまま、氷で凍結されたことにより、完全に身動きが取れなくなる。

『こうすれば、放置していても関節の傷口から出血し続けいずれ動けなくなる。一撃入れるだけが倒し方ではないということじゃな』

　前回とは違う戦い方であっさりとEランクモンスターを倒すのだった。

「...すごい。来光...すごい！一人で倒したよ！」と、少しジャンプをしながら嬉しそうにそういった。

「あー、いやいや！たまたまだよ！たまたま！」

『これでわかったじゃろう？戦い方について。まだまだお主は実践が足りないからな。儂のように戦えないことは何も恥じることではない。じゃが、もし本気で強くなりたいなら、ありとあらゆるモンスターと戦うか、その戦いを見て学ぶことじゃな』

　感心した...としか言いようがなかった。

モンスターを倒すのに必要なのは、強烈な一撃だとは限らないということ。

　持久戦だって立派な戦い方だ。

　俺は焦りすぎていた。

少しずつ...少しずつ強くなるんだ。

　次に目を開けるといつもの自分に戻っていた。

　そのまま、身動きが取れなくなったスパイダーに近づく。

　俺もいつか一人でこういう風に...。

それにはやはり自分より格上の人に稽古をつけてもらうのが一番だ。

「...斗和。俺に修行をつけてくれないか？」

「...え？修行？」

「あぁ」

「...いいけど」

　こうして、俺は斗和に授業をつけてもらうことになったのだった。

　◇同日　同時刻　日本某所にて

　ビルの中にある広い会議室の中で、4人はそれぞれ好きなように座っていた。

「ぷふぁ...」と、まるで生き返ったような声を上げながらタバコを吸う男。

　男の名前は本庄力也。

国内ランキング5位／世界ランキング15位【SSSランク】

別名【力略の王者】

圧倒的な握力と筋力により、圧倒的な力で制圧する超攻撃型冒険者。

年齢は25歳であり、趣味は魚釣りである。

　見た目は2m近い身長、丸太のような太い腕に、片目に眼帯をしており、一度見れば忘れることはないだろう。

　どんなダンジョンもその筋肉で切り抜けて、SSランクのダンジョン攻略は20以上、SSSランクダンジョンも5つ攻略してる。

噂だが、趣味の影響もあってか、超巨大Sランク海流モンスターを片手でつり上げ、そのまま握りつぶしているとか...。

　また、ダンジョン攻略で受け取った報酬のすべてを寄付することでも有名である。

「あの...ここ禁煙ですけど。というか、今の時代、紙タバコOKなビルなんてほとんどないと思いますけど」と、嫌な顔をしながら煙を払う女性。

　女の名前は墓崎雫。

国内ランキング3位／世界ランキング13位【SSSランク】

別名【盤石の姫】

あらゆる魔法を使いこなし、ソロでもパーティーでも抜群の立ち回りをする超万能型冒険者。

年齢は17歳であり、趣味は裁縫である。

　見た目はどこにでもいるような華奢な女子高生だが、所作全てが流麗で隙が一切ない。

　中学生の時点で単独でSランクを次々に攻略し、国内で名を馳せると高校生になると、都内に拠点を移し、様々な有名チーム同行する形で経験を積み、現在は世界でも有数の魔法使いとして、名を広めていた。

　学生でありながら無償で冒険者を目指す子供たちへの講演や学校訪問を行っている。

「いやー、けど〜、国がOKと言って、散々嗜好品としてばら撒いて中毒にさせたくせに、今更NGなんておかしいだろ？そもそも、日本は大麻すらNGの時代遅れ国家様のくせに〜。タバコも酒も推奨しませんなんて、厳しすぎやしないか〜？」と、チャラそうな見た目をした若者がつぶやく。

　男の名前は蘭　涼冥。

国内ランキング2位／世界ランキング8位【SSSランク】

別名【完壁の王子】

ダンジョン攻略率100%であり、今だに掠りひとつついたことがないほどの鉄壁を誇る超防御型冒険者。

年齢は22歳であり、趣味はフィギュア鑑賞である。

　見た目はしゃべり方の通り、チャラチャラしているが、ダンジョン攻略数は日本最多である。

　日本でSランクダンジョンのモンスターが溢れかえった際、単独で入り口を守り、全市民が避難するまで一匹のモンスターもダンジョンから逃がさなかった。

「...」と、男は無言を貫く。

　男の名前は極義　正義。

国内ランキング1位／世界ランキング3位【SSSランク】

別名【悪魔の天敵】

SSSランクダンジョン攻略数25個は世界トップの記録である。しかし、お金目的ではないため、ダンジョン攻略報酬はいつも全額寄付に回している変わり者。

そして、配信者としても有名であり、【極】という名前で活動していた。

　寡黙で何かに意見することはほとんどないが、日本で最も有名なダンジョン冒険者であり、世界で3本の指に入るほどの冒険者である。

　多額の資金を費やし、ダンジョン内でも配信ができるようにダンジョン内にインターネットを繋げ、世界で初めてダンジョン冒険者配信を行ったことで、不透明だったダンジョン内での活動が明確となった。

　そうして、世界で冒険者【極】の名前が広まり、黙々とダンジョンを攻略するその姿に多くの人々が憧れ、それ以降の冒険者に多大な影響を与えた。

　また、フォロワーは1000万人であり、冒険者をしていれば知らない人はいないほどであった。

　そんな4人が集められていたのは、東京にあるとあるダンジョン施設である。

　集められた理由は一つ。

　例年より多い、ランク外モンスター出現についてである。

　すると、扉が開き、黒スーツを纏った30人ほどの外国人が中に入ってくる。

　彼らは全員MCIのメンバーである。

「待ち合わせ時間に遅刻とは良いご身分ですなぁ〜」と、蘭が煽る。

「遅れて申し訳ございませんでした。それでは早速、本日お集まりいただきました件についてお話しさせていただきます」と、眼鏡をかけた白人の男はあくまで事務的な謝罪を済ませると来て早々本題に入る。

　スクリーンを出してくると、そこに映されたのは世界各国で報告されているランク外モンスターについてであった。

「25年前のノストラダムスの大予言からダンジョンでは稀に、ランク内のモンスターが現れる事象が確認されています。しかしながら、ここ1年ほどはその頻度が急上昇。それにより。既に300名ほどの冒険者がその被害に亡くなっています」と、スクリーンの画面を指さしながら無表情で伝える。

「原因は分かってるのか？」と、極義が質問する。

「具体的な原因は不明です。しかし、ここ1年で頻度が上がったことを考えれば、かの大王が活発化しているのか...または裏で糸を引いている人間がいるかのどちらかでしょう」

「何？つまり人類に裏切り者がいるとでも言うんですか？」と、相変わらず不機嫌そうに墓崎が呟く。

「あくまで可能性の話ですが」

「てことは、つまりもしそんな人間がいるとしたら、それは日本にいるってことですよね。わざわざあなた方が私たちを呼び出したわけですから」

「はい」と、全員を疑うような目つきでそう返答する。

　あまりにも突拍子もない話に皆が押しだまる。

「...それで？もしかしてですが、上位5名ではなく、じゃあ4名が集められたということは、その疑いがあるのは日本ランキング4位の【式波セシル】ということですか？」と、極義が質問する。

「...あくまで可能性の話ですが」

「確かに、彼女の得意としているのは召喚魔法...。しかし、何のために...」

「理由は不明です。そこも含めて現在調査中とお考えください。そして、可能であればMCIとしてはあなた方にも協力してもらいたいと考えています」

　その言葉に全員が首を縦に振った。

こうして、本格的な対応策と対処方法について話し合いが始まるのだった。

　そんな話を盗み聞きする一人の少女がいることを誰も知らなかった。