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第6話 エッチと、嫌な奴

◇12:00 駅前


 駅前で買い物をしたいという斗和の希望があったため、買い物を済ませた

後にダンジョンに向かうことになっていた。


 そのため、こうして待ち合わせの時間丁度に来たわけだが...。


 斗和は遅刻か?珍しいな...。

それから約15分ほど経った頃、前髪を触りながらやってくる。


「ごめん、待った?」


 白を基調としたワンピース...更におしゃれなカバンを下げ、耳に髪をかけ、その耳には俺が昔あげたイヤリングをつけていた。

昔は格好など全然気にしなかったのに、最近はファッションに結構気を遣うようになった。


 普段よりすこしお洒落でかわいいその姿に思わず目を奪われる。


「うん。ちょっと待ったね」

「...そこは俺も今来たところって返すのが常識でしょ」


『儂もそう思うぞ』と、シエルさんも同調してくる。


「というか、買い物終わったら荷物を預けてダンジョンに行くんだろ...?そんな軽装で行くのか?」

「別にいいでしょ。どうせEランクのダンジョンだし、この格好でも問題ないから。てか、来光だって1,000円均一ショップで買ったようなやっすい装備なんだし、対して変わらないでしょ?」と、少し鼻で笑いながらそんなことを言ってくる。


「な、なんだと!なめんなよ!千均の装備はすごいんだぞ!防具も剣も傷薬もダンジョンで必要なものがたったの1,000円で買えちゃうんだぞ!すごいだろ!」と、ふんふんと鼻息を荒くしながら熱弁する。


「はいはい。大体が海外から取り寄せた粗悪品でしょ。傷薬だって何が入ってるかわからないし...あんまり使わないほうがいいと思うけど」と、更に煽るようにそう言ってくる。


「...てか、そもそも今日は何を買うんだよ。俺も居ないといけないのか?」


 すると、ジト目で見つめてくる。


「...あのねぇ、無償で来光の配信を手伝ってあげてるんだよ?たまのデー...か、買い物くらい付き合ってくれてもいいでしょ?」と、少し怒ったように言ってくる。


「それは...そうだな」

「というか、女の子と二人で買い物を嫌がるようじゃ、彼女なんて一生できないよ?」と、楽しそうに言ってくる。


「...別に。彼女なんてできる予定もないしそんな心配はいらないから」

「ふーん?けど、最近コメント欄で女子っぽい子が居たけど。もし、そういう子が会いたいって言っても絶対会っちゃだめだからね?」と、お母さんのような忠告をしてくる。


「会わないっての...そんな見ず知らずの人になんか。てか、買い物って何を買うの?」と、過保護な幼馴染に呆れつつ質問する。


「今日はちょっと新しい服が欲しいかなって」と、お店を指す。

「服ねぇ...」


 正直、俺にはファッションセンスなどかけらもない。

自分の服はまだしも女子の服など全く分からないのだ。


『ほう。現代のファッションについては儂も気になるの』


 どうやらシエルさんも乗り気のようだ...。

 そうして、駅の中に入ると、斗和はお気に入りの店があるのか、ぐいぐいと進んでいく。


「最近、結構おしゃれになってきたよな」

「...何?気づいてたの?」

「そりゃ...それくらいは気づくけど」

 すると、持っていたカバンで軽くたたかれる。


「いった!なんだよ」

「そういうのは...言葉に出しなさいよ」と、少し嬉しそうに言う。


『この童貞男』と、わざとらしい女声みたいなのを出すシエルさん。

『おい、ジジィ!何勝手につけたしてんだよ!』

『誰がジジィじゃ!童貞が!!』


 そんな不毛なやり取りをしながら、斗和はお店に入っていき、物色を始める。


『ほほぉ...。いろんな服があるもんじゃな。しかし...なんというか、男性心をくすぐるものも多いの』

『1000年前の女性ってどんな服装だったんですか?』

『日本の場合は基本的には小袖という着物のようなものが多かったの。じゃが、儂の生まれた国ではゆったりした服が多かったかのぉ』


 まぁ、平安時代の日本となるとやっぱそういう服がメインなのか。

てか、生まれた国ってことは...。

名前とあの時の見た目でわかっていたが、どう見ても日本人ではなかった。

西洋風の見た目っぽいし、あっち出身なのかな?


『というか、女性の服の露出が激しすぎんかのぉ?足は丸出し、胸のサイズは丸わかり、透けるんじゃないかっていうくらいに薄い服...。あれか?痴女が増えたのか?』と、訝しげに嘆く。

『女子の服の基準は可愛いかどうかが多いですからね。機能性よりデザイン重視なんですよ』

『...ふーん、エッチじゃん』


 ...いつの間にそんな言葉を覚えたんだよ。

しかし、男女問わずオーバーサイズシャツとかは流行ってるし、ファッションは一周するという通り、すでに何周もしているのだろうか。


 すると、斗和が小走りで近づいてくる。


「...こっちの服と...こっちの服。どっちがいい?」と、黒いタンクトップのように袖がないワンピースと、白いVネックの少しゆったりした感じのシャツを持ってくる。


 白いVネックのほうはだいぶ胸元が緩いというか...。


「...うん...こっちはちょっと胸元危なくないか?」

「...何それ?...私の貧乳に文句でもあるわけ?」

「いや...そういう意味じゃ...」


「はいはい、どうせ胸も背も小さいですよ」と、やや怒りながら黒いワンピースの試着しに行く斗和。


『奏凪殿は本当駄目じゃな。はぁ...仕方ない。この後はすべて儂に任せるのじゃ。奏凪殿は儂の言ったことをオウム返しすること』

『...わかりました』


 そうして、試着室の前に立って、斗和が出てくるのを待っていると、ゆっくりとカーテンが開く。


 そこに現れたのは色のおかげもあってか、普段より大人な雰囲気の斗和だった。


『いいと思うよ。斗和は白い服も似合ってるけど、こっちのほうが大人ぽくて俺は好きだよって言うのじゃ』

『なっ!?//恥ずかしいんだが...』

『はよいえ』


「...どう?」

「...斗和は...白い服も似合ってるけど、こっちのほうが大人っぽくて...俺は好きだよ...」

「!!//そ、そう...//じゃあ...これは...買うね...//」と、頬を赤く染めながらカーテンを勢いよく閉じる。


『な?儂すごいじゃろ?』

『...はい』


 それから2着ほど服を購入すると、斗和は満足したようで、そのままダンジョンへ向かう。


 そのまま、事務局に設置されているコインロッカーに荷物を預けて、受付に向かうとそこには宮野さんがいた。


「こんにちは、宮野さん!ダンジョンに行きたいんですけど!」

「おっ、誰かと思えば、来光くんじゃーん。あれ?今日は珍しくお連れさん

がいるね!あー、たまに配信を手伝ってるのってこの子だったんだ!」と、

立ち上がり、まるで俺を待っていたかのように立ち上がり、楽しそうな笑みでテンション高くそう言う。


「...何?来光はこの人とどういう関係なの?」

「どういうって...?宮野さんは俺の配信の古参ファンであり、ダンジョンの受付嬢...みたいな関係?」

「...そう」と、服の裾を強めに握ってくる。


 すこし雑談をしてから、ダンジョンカードを提出する。


「はーい。読み込むからちょっとまってね...。って、あなたCランクなの!?すごいわね!」と、斗和にも同じようなテンションで話を振る。

「...ありがとうございます」

「いやーびっくりしたわ...。それで?今日は何ランクを受注するの?」

「そうですね!出来れば...Eランクに...」

「はーい、ちょっと待ってね~」と、受注手続きをしに行く宮野さん。


「あっれぇ〜?誰かと思えば落ちこぼれ冒険者配信者のライコウくんじゃ〜んw」と、後ろから声を掛けられる。


 振り向かなくてもそれが誰かはわかる。

それでも振り向いて、「...千能寺くん」と声に出す。


 千能寺大吾

高校時代のクラスメイトであり、ことあるごとに俺に突っかかってきて、色々と嫌がらせをしてくる人だ。


 派手な金髪に派手な装備...Bランクの冒険者だが、冒険者の実力というよりお金に物を言わせた装備を纏うことでランクを上げている。

更には後ろの取り巻きは日本でも4人もその恩恵を受けており、悪い意味で有名なチームだった。


 具体的にはまず【黄金の盾】という1枚100万円する盾。

SSランククラスが使うような盾であり、防御力については日本製品では最高レベル。

見た目は名前の通り、黄金でできており、光があるところでは眩しさで目を瞑りたくなるほどである。


 次に黄金剣という【1振1000万円】の剣。

同じくSSランククラスが使うような剣であり、攻撃力は日本製品で二番目といわれるほどのレベル。

見た目は名前の通り、鞘すら金で出来ている。


 最後に【AIスカウター】というメガネには自動防御システムが組み込まれており、見えない場所からの攻撃に対しても自動で体が動き、躱してくれる世界レベルで最新の技術の装備などが挙げられる。



「またFランダンジョンで雑魚狩りかぁ?いやー、暇人はいいねぇ!俺なんて大学行きながらダンジョン攻略しているからそんな暇なくってさー。いやー、本当に羨ましいよ。フリーターネタ配信冒険者はw」というと、後ろにいる男二人と女二人もバカにしたような顔でこちらを見てくる。


 学生時代の嫌な記憶が一気にフラッシュバックする。

…高校を卒業すればもう関わらなくて済むと思っていたのに...。と、思わず見えない角度で拳を握る。


『なんじゃ?このいけすかない若者は』

『...幼馴染です』


「...あはは。そ、そうだね...。千能寺くんは大変だもんね...」と、取り繕った笑みを浮かべる。


「そうそうw俺は大変なんだよ~」と、無理やり肩を組んでくる。


「てことで、俺の代わりに大学に出てくれないか?ほら、お前も栄純えいじゅん大学入りたかったはずだろ?お前は知らないと思うけど、大学って緩くてさ~。誰が来てるかなんて分からないわけ。だから、俺の代わりに出席したら良くない?そしたら俺は楽できるし、落ちこぼれのお前もあの憧れの大学の授業に参加できるんだぜ?win-winで最高じゃん!w」と、今度は堪えきれず声に出して笑う後ろの人たち。


 ...俺は進学の予定だった。

けど、結局その大学には受かることはできず、現在の状況に陥っていたのだ。


 そういうことをすべてわかったうえで、彼は俺の傷口に容赦なく塩を振りかける。


「...」と、嫌な顔をしながら俯いていると、肩に乗った手を振り払い、そのまま俺のてをぎって、距離を取る斗和。


「あれ?誰かと思えば、お金に物言わせて実力に見合わないダンジョンに行って配信してる割には、ぜーんぜん人気がない千能寺くんじゃない?」と、心底馬鹿にしたような顔をしながら強気に煽る。


「おいおい、人気がすべてじゃないだろ?俺はだれかと違って人類のためのダンジョン攻略してるんだから。というか、網風、強情に俺の誘い断るのはやめようぜ。ソロでCランクに成れるほどの実力があるんだ。俺のチームに入れば、Bランクなんてすぐなれるぜ?」と、今度は俺なんて視界に入っていないように、堂々とチームに誘い始める。


「そしたら、Bランクの特権で専属のマネジャーもつくし、めちゃくちゃ生活が楽になるぜ?更に俺とお前ならAランクだって夢じゃない。というか、そんなクズのお守りなんてしてても未来はねーぞ」と、離れた距離を埋めるように近づいて、見下したようにそういった。


「絶対いやよ。誰があんたの手なんか借りるか」と、獅子に喧嘩を売る猫のような眼差しで真っ向から喧嘩を受ける。


『なんなら今すぐ儂が変わって絞めてやろうか?』

『気持ちはうれしいですが...大丈夫です』



 すると、そのタイミングで宮野さんが戻ってくる。


「ちょっと、ダンジョン受付でもめ事なんていい度胸ね~。局長に報告するわよ」と、宮野さんが睨みながら千能寺にそういった。


「っち」と、そのままどこかに去っていく千能寺に「べー」っと舌を出す宮野さん。


「...ありがとうございます。宮野さん」

「ああいうお坊ちゃんタイプは昔から大っ嫌いなのよ!はい、手続きは終わったから入っていいよ!」と、大分ご立腹そうにつぶやく。


「ほら、手続きは終わったんだし行くよ」と、斗和に手を引かれながら連れていかれる。


 ◇


 ダンジョンの中に入ると、斗和が改めてつぶやく。


「本当...ムカつくやつ」と、ふんすかしながら歩く。


「あはは...俺は気にしてないから大丈夫だよ」

「私は気にするの」と、口を尖らせその苛立ちをぶつけるようにモンスターを片手間に倒していく。


『儂もむかついておるぞ』と、ふんすかしながらシエルさんも同調する。


 そりゃ、俺だってむかつくかむかつかないかで言えばむかつくわけで...けど、千能寺の言ってることは概ね正論である。

人類の役に立っているのは明らかに向こうであり、俺ではないのだ。


 だけど、それは少し前のことだ。

俺も今は...ガチダンジョン冒険者を目指しているのだ。


「はい、切り替え切り替え。それで?今日は何の配信するんだっけ?」と、いつものような笑顔でそう質問してくる。


「あ...うん。この前やった【ダンジョン飯!倒したモンスターの美味しさTierランキング作ります!】のpart2を撮ろうかなって。Eランクダンジョンなら前回とは違うモンスターがいると思うし...」と、Eランクのモンスターの一覧をスマホで見ながら確認する。


「...あれやるの?モンスターなんておいしくないでしょ」と、ドン引きしながら聞いてくる。

「まぁ、あの配信自体は人気だったからね」と、微笑む。


 すると、早速モンスターが現れる。


モンスター名:【エレクトリック・スネーク】ランク:【E】

よくいる蛇より少しだけ胴体が太く、全長尾は1mほどのやや大きめの蛇。

色は白色。更に、下水道からあふれてくるような、独特なにおいを放つ。

歯には強力な毒が仕込まれており、更に危険を感じると電気を放つのが特徴である。

基本的には単独で行動することが多く、仲間と共闘することがない。

雑食で何でも食べ、人間すら食べることがある。


「...んじゃ、さっさと倒しちゃうね」と、魔法の剣を空中から取り出して、構える。

「待って、斗和」

「...何?」と、少し首をかしげる。


 そう...斗和を連れてきたのには理由がある。

ある程度自分の身の保証がされたうえで...俺は今の自分の実力を確認したかったのだ。


 前回のあれはあくまでシエルさんのサポートありきだった。


 でも、これからはある程度自分の力で戦えるようになりたいのだ。


 もし...前回のあれが運やまぐれだったとしても...、その運やまぐれを使いこなせるように...。


「俺が...やる。何かあったらその時は...頼む」

「...来光?」


 そうして、俺は片手にナイフを握り、戦闘態勢を取る。

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