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第2話 大賢者と、ダンジョン

 この世界にはダンジョンが存在する。


 ダンジョンと冒険者にはそれぞれランクがあり、F~SSSまで存在し、ランクが高いほど強いモンスターが現れ、冒険者が対処を行う。


 また、ダンジョンにはそれぞれ制限時間が設けられており、その期間を超過するとモンスターが地上に溢れてしまう。


 ダンジョンが出現するとすぐに政府から該当のランク宛にSMSが送られ、連絡を受け取った人はソロだったりパーティーを組んだりして、ダンジョン攻略を行う。


 そのため、政府は常にダンジョン冒険者の募集を行っている。

しかし、ダンジョン冒険者とは命がけの仕事であるため、喜んで冒険者になる人は少ないため、多額の報酬と特権を餌に冒険者を集っているのが現状である。


 冒険者以外にも政府が開発した戦略級魔法兵器や、MCI(Magic ControlInvestigation)というアメリカに本部がある、対ダンジョン用の組織なども各国に配備されており、様々な手段と国と国同士が手を取り合うことで、モンスターが地上に溢れることはほとんどなかった。


 しかし、それも25年前までの話である。


 ◇


「...ふむ。なるほど。つまりは25年前まではダンジョンはある程度落ち着いていたということじゃな」と、シエルさんは足を組みながらそう呟く。

「そうですね!まぁ、ダンジョンのおかげで世界の国同士が手を取り合うことができたからこそ、それまでは人間同士の争いはほとんどなかったのですけど...。冒険者のレベルが上がったことと、各国の戦略級魔法兵器も国によって質や量に差が出てきたことで、国同士が争うきっかけになってしまったんですがね」

「安心せい。それは昔も今も何も変わらぬ。人間とは常に何かと戦わないとやっていけない生物なのじゃ」と、つまらなさそうにそう呟く。


「...そうなんですね」


 少し咳ばらいをした後に「ちなみに特権というのはどういうのがあるんじゃ?」と、質問される。

「そうですね...。一例を挙げると、SSSランクは治外法権って言えばいいんですかね?法律を破っても捕まらないとか、SSランクだと他の冒険者に命令できる権利とか...そういうのがありますね!ちなみにFランクの俺はなんの特権もないですね笑。...俺はガチでダンジョン攻略とかはしてないので、人類の役には立っていないというか」と、やや自虐気味に笑ってそういった。


 すると、少しだけ俺を見て優しい微笑みを見せる。


「...そうか。けど、そこには奏凪殿なりの正義があるのではないか?」


「...そうですね」


「なら、そんなに自分を攻めなくてもよいのじゃ。話を戻そうかの。それで?25年前まではそうだった...ということは現在は状況が異なるのじゃろ?」


「...はい」


 それから続きの話を始める。


 ◇


 それは今から25年前の1999年7月31日のこと。


 きっとこの時代を生きている人であれば、絶対忘れることはないと思う出来事があった日だ。


『1999年7か月、空から恐怖の大王が来るだろう』


 これはノストラダムスの大予言であり、その予言は悪いことに的中してしまうのであった。

 この日、世界のあらゆる地域で異常気象が発生し、日本でも夏だというのに雪が降ったのだ。

 そして、人々が空を見上げていると、何かが空からやってきた。


 真っ黒なローブのようなものを全身に纏い、白い仮面をつけ、右手にはダイヤモンドで出来ているだろう魔法の杖が握られていた。

 さらに、その大きさは月と並んで見えるほどに大きく、世界各国何処にいてもその姿が認識することができた。


 全世界の人間が生唾を飲んだ。


 そうして、杖をトンと空中にたたくと、晴天の空は真っ黒に染まり、黒い雨が降り注ぐ。

 全身が警報を出していた。今すぐ逃げろと。

そんな、不吉とか不穏とか恐怖とかそういう感覚をすべて混ぜ合わせたような、何とも言えない最悪の空気が流れる。


 それはまさに予言通りの恐怖の大王に相応しい存在であった。

すると、その大王と思われるやつはこちらに向かって手を伸ばす。

 次の瞬間、ダンジョンにいるはずのモンスターが突然地上に現れるのだった。


 理解のできない状況に人類が混乱する中、それでも冒険者達が立ち上がり、政府は戦略級魔法兵器を使い、各国のMCIも協力し、対処に当たる。


 そんな中、恐怖の大王はその様子をただじっと見ていた。


 その様子は...まるでアリの巣に水を入れて慌てるアリたちの様子をあざ笑う子供の如く、純粋故に残酷な悪の姿だった。


 奴の手にかかれば制限期間などを無視して、いつでも地上にモンスターを出現されることができるということが証明された瞬間でもあった。


 それはつまり、大王の手にかかればいつだって人類を滅亡させられるということを暗に示したのだ。


 それでも人類は満身創痍になりながら、何とか出現したモンスターを全て倒し終える。


 すると、ため息をつきながら、その恐怖の大王は人類を見下しながらこう

言った。


『我は今、復活した。貴様ら人間の平穏は本日を持って終わった』


 それはまさに言葉通りであった。


 以前とは比べならないほどにダンジョンの出現頻度は上がり、現れるモンスターのレベルも上がった。


 人類は再び人間同士の戦いを辞め、お互いに手を取り合い、ダンジョン攻略に尽力した。


 それから現在に至るまで...日本はダンジョン先進国なため、地上にモンスターが溢れる自体に陥ったことはないが、一部の国では無数のモンスターが溢れかえっており、人類は少しずつ、そして確実に住処を奪われていっていた。


 それが25年前に起きた『ノストラダムスの大予言』であった。


 ◇


「やはり...というべきなのじゃろうな。儂がこうして仮の姿で復活できたということは、奴もまた復活したということ。しかし、儂同様、肉体を手に入れてはいないようじゃな」と、不敵な笑みを浮かべる。


「恐怖の大王について何か知っているんですか?」


「うむ。とりあえずありがとう。儂の話をする前に先にいくつか質問しても良いかの?」と、少し表情を緩ませ柔和な笑顔で俺に問いかける。


「何ですか?」


「まずは現時点でSSSクラスのダンジョンはいくつ残っているのじゃ?」


「確か...日本では2個。世界規模だと100個はあるかと。日数が迫っているのは数個程度だと思います!」


 すると、シエルさんはゆっくりと立ち上がり髭を触りながら、天井を見上げながら「...そうか」と、呟く。


「...何かありましたか?」


「...ふむ。いや...何でもない。しかし、国同士で手を取り合ってというのはいいことじゃろうな」

「まぁ、いい点もあり悪い点もあるって感じですけどね」と、苦笑いをしながら返答する。


 確かに一見すれば、自国だけでなく他国との情報共有を行いながら、市民を危険から守ってくれるわけだが、政府との折り合いが悪い時も多く、あくまで権利はアメリカにあるため、勝手な行動をされても手を出せないという問題点などがあった。


「ふむ。なるほど。では奏凪殿もここにはダンジョン攻略で来たということじゃな?しかし、先ほどダンジョン攻略はしていないと言っていたはずじゃが...」


「まぁ...一応ダンジョン攻略はしているんですが...俺の場合はFランクの最弱冒険者なので...ネタ配信っていうか...ダンジョンお笑い担当みたいな?」と、なんで説明していいか分からず変なことを言ってしまう。


「ネタ配信?」

「はい!例えば、モンスター同士を戦わせてみたり、モンスターのおいしさランキングを作ったり...今は絶賛ゴブリンとかくれんぼをしている最中でした!」

「...モンスターを戦わせる?おいしさランキング?ゴブリンとかくれんぼ...?それをして...いったい何がどうなるというのじゃ?」と、少しだけ怪訝な表情を見せる。


「えっと、一応その様子をこのカメラで撮ると...世界の人が見ることができる...みたいな?な」


「...世界の人が見れる?...ふむ。詳しいことはわからんが...血で血を洗ったこのダンジョンが今や一つのアトラクションのように使われているということじゃな?だとしたら...そうじゃの...驚きというか...その...ちょっと言葉に出来んな」と、困惑する。


「あ、そ、そういえば、さっきチラッと1000年とか言っていた気がするんですけど...」


「そうじゃの。色々教えてもらったし、今度は儂の話をするとしよう。儂は1000年間ここで眠っていたのじゃ」と、遠い目をしながらそう言った。


「...そんなこと...あり得るんですか?」

「儂は1000年ほど前、大賢者と呼ばれていた」


 そうして、大賢者シエルさんの昔話が始まった。

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