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解決 28

 次の日の朝、内弟子の早朝稽古が終わった後、伊達は御岳を事務所に呼んだ。昨日はみんなが熱くなり、冷静な話ができなかったからだ。特に御岳の場合、昨日の伏線になった部分については話だけでしか知らなかった分、いきなり本番になったような感じだったはずだ。そういうこともあるので、改めてきちんと話しておこうと思ったのだ。

「御岳君。昨日は驚いただろう。前に話していたことが、こんな形で起こるとは私も思わなかったが、良い形で収束して良かった。いくら何でも、もう黒田たちが来ることはないだろう」

 昨日のことがうまく解決したことに、伊達も安心した様子で語った。一番心配していたのが怪我の問題だったが、普通の稽古でありそうな程度で収まったことにも安堵していた。

「そうですね。でも、改めてここで教わっていた空手はすごいんだなあって思いました。自分も元気だったらあの場に立っていたでしょうね」

 昨日、戦いの場に出られなかったことを残念に思う様子で御岳が言った。たしかに昨日の戦いは、ドタバタするものではなく、武術的な一瞬に決まるといった戦いばかりだった。御岳もスポーツ的な次元ではない意識で伊達の下で武術の稽古をしていた分、本物を見たといった思いだったのだ。自分の身体は思うように動かないが、頭の中ではみんなの動きにシンクロさせ、御岳自身も戦っていた。熱い思いは共に持っていたわけだ。

「うむ。ところで、みんなの様子を見ていてどう思った?」

 伊達は内弟子の長男としての意見を求めた。以前のことを知らない分、別の視点からの見方・考え方があるのではと考えたのだ。

「昔より団結力が増したように思います。もちろん、以前からみんな、一つのことに向かって一生懸命やっていましたが、それ以上のヤル気と連帯感を感じました」

 伊達が感じたことは御岳も感じていたようだ。

「私もそう思うが、その流れになったのは、実は君が入院した後からなんだよ。少しずつだけどね。これまで君が内弟子のリーダー的な存在だったが、束ね役がいなくなったために、自分たちで何とかしなければ、という意識がわいてきたんだろうな」

 伊達の立場としては、御岳が自分と同じような視点でみんなを見ていたこと、並びに他の内弟子の成長を感じさせる状況に、少なからず喜びを感じていた。

「なるほど。じゃあ、自分がいなかったことが逆にプラスに作用したわけですね。先日、卒業の話をさせていただいた時、口はばったいようですが、これから大丈夫かなって思っていたんです。でも、今の先生のお話と、昨日のみんなの様子を見て安心しました。みんなと離れるのは心残りですが、今後は自分の道を行きたいと思います」

 御岳にとっては複雑な心境だが、もともとの目的であった整体術の部分では先日の話でお墨付きをもらっており、一応の結果を出したと考えていた。後に残るみんなのことが気になっていたが、昨日のことでまとまっている様子を見、最後に残った心配も払拭された。そういう意味では、黒田たちがやってきたのも、御岳を次のステージに上らせるためのことだったのかもしれない。そう考えると、物事の起こりは前向きに捉えることができる。今の御岳には、そういった思考が当然のように思えていた。

「ところで先生。もう卒業の話は決まっているので、みんなにはなるべく早く話したほうがいいと思うんです。昨日、自分を除いても一つにまとまっていたんだし、このままいるとみんなの気持ちの中に、また変な依頼心のようなものが芽生えるかもしれません。卒業すると言っても2度と会わないわけではないし、一つの区切りです。それを示すのも今、というタイミングが良いと思います。できたら自分に話をさせていただきたいんですが、いいですか?」

 そう言う御岳の顔は清々しかった。変に感情的にならず、物事のけじめが分かった上で話していた。そこには、3年以上にわたる内弟子修業の集大成といったものが見えた。

「分かった。では、全員をここに呼んでくれ」

「はい」

 御岳はみんなを呼びに行った。

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