伊達たちが道場を出ると、黒田たちはその後を少し距離を取った状態でついてきた。数分後、今日の稽古場になる河川敷に着いた。伊達たちはまったく普通の感じで土手を降り、屋外稽古を始めた。黒田たちはまったく眼中にない、といったそぶりだ。
黒田たちは、土手の上から伊達たちを見ている。精一杯の虚勢を張り、腕を組んで斜に構えたり、いわゆるヤンキー座りをして、睨みつけるような感じになっている。威嚇しているつもりなのだろう。
稽古を始めるに当たって、伊達はその意義を説明した。
「今日はこれから実戦を想定した稽古を行なう。だから場外のラインはない。それぞれ戦いのエリアは異なる。また、道場の中は場が整っているが、屋外では思ってもみないことに遭遇する場合がある。そのため、常に周囲に気を配りながら戦う、といった稽古になる。そこでは素手だけでなく、武器を使った戦いもあるので、そのための稽古もこの場で行なう。それから今日は、自分の持っている力がどれくらいのものかを自身で体感できるよう試割も行なう。これは素手の場合だけでなく、武器の使った場合もやっていく。最初は組手からだ。各自防具を着けて」
伊達は黒田たちにも聞こえるような感じで、少し大きめの声で言った。
当然、黒田たちの耳に入っているはずだが、表面上は平静を装っている。
ここでの組手は1本勝負だ。技ありはない。防具がなければ確実に相手を倒した、というレベルが判断基準になるので、多少のことでは1本にならない。しかも、実戦を想定しての稽古なので制限時間もない。やるほうにとってはかなり過酷な稽古だ。加えて、ここでの組手は審判である伊達は、なるべく途中で組手を遮らないことも伝えた。実戦では審判が途中で戦いを止めるといったことはなく、劣勢の状態でも自力でそこから脱出しなければならないからだ。今回の組手が、限りなく実戦に近い条件での稽古であることを、改めて強調した。
しかし今回は、稽古は半分で、他に黒田たちへの威嚇が含まれている。このことは、内弟子全員が暗黙のうちに了解している。だから、万が一のことを考えて、体力を温存しておく意識は持っている。場合によっては多少演技をし、オーバーにひっくり返るようなことも考えている。もっとも、それが見え見えであれば逆効果なので、繰り出す技は本気で行なう。
そのような意識で、まず松池と堀田の組手が行なわれた。