「私もそう感じた。だから実際にやってくるかどうかははっきり断定できなかったが、おそらく黒田とかいうリーダーが発破をかけたのだろう」
「たぶんそうだと思います。黒田というのはしつこい性格で、人の前では虚勢を張りますが、タイマンになったりすると腰が引けます。本当は弱いんです。だから数に頼んで来ていると思います」
「そうか。それじゃあ、その黒田にこちらには手を出せない、と思わせればいいわけだ。ならば圧倒的な力の差を見せつければよけいなトラブルに発展させずに済む」
伊達は昨日の作戦のバージョンアップという手を考えた。いつも伊達が説いているように、不要な戦いを避けるための方法を採ることにしたのだ。
「なるほど。具体的にはどうすればいいですか?」
高山が尋ねた。方向性は理解したものの、具体的な方法論については内弟子たちは頭に浮かばない。高山は代表して尋ねた形になった。
「一つ、策がある。これからみんなで屋外稽古を行なう」
「えっ? 外で稽古ですか。あいつら、外で待っていますよ」
高山が言った。他のメンバーもその意図が分からず、キョトンとした表情になっている。
「だからやるんだ。今、来ている連中全てが怖がるような内容にする。昨日来ていた北島が感じたことを全員に感じさせるんだ。大怪我するのが分かっているのに向かってくるのはいないだろう。リーダーの黒田のハラが座っており、今回の行動が本気であればそれでもやるだろうが、龍田君の話だと虚勢を張るタイプで、本質的には弱いという。だから、圧倒的な力の差を見せることで戦う気持ちをなくさせる。これも兵法だよ。しかし、それでも効果がない時には、相手がかかってくるかもしれない。そういう時、ここで乱闘になったらどうなる? 近所の方に迷惑をかけるわけにはいかない。だからあえて外に行くんだ。本当に乱闘にならないよう、圧倒的な力の差を見せつける意味で、それをアピールするような内容にする。みんなもそのつもりで…」
伊達はみんながきちんと意識して事に当たるよう、一人一人に目配せをしながら話した。
「分かりました」
全員の気持ちが揃った。