次の日の午後、黒田を筆頭に約20名が道場の近くに集まっていた。各々格好は異なるが、いかにも暴走族といった出で立ちで、ヘルメットをかぶったり、頭に何か巻き付けていたりする。手にはバットや木刀、角材を持っている者もいる。
思った通り、内弟子たちしかいない時間帯を狙ってきた。表情が分かる者については、明らかに興奮している様子が伺える。
だが、奇声を上げたりしているわけではない。へたに騒ぐと近くの住民がすぐに警察に通報すると考えているのか、思ったより静かだ。もともと道場は人通りが多いところにあるわけではなく、多数の人がこの光景を見ているわけではない。しかし、それだけに普段見かけない異様な雰囲気になっており、あまりその状態が続けば近所の住民が騒ぎ出す可能性がある。まだおとなしくしているが、いつまで静寂を保っているかは分からない。
それだけに、一旦その緊張の糸が切れた時には何をしでかすか分からない、といった無気味さもある。
黒田たちは、道場のほうを睨み付けている。無言で圧力をかけているつもりなのだろうが、気で圧するようなことは武術の稽古では当たり前にやっている。だから、龍田たちへのプレッシャーにはならない。
だが、奇声を上げなくても近所の手前、そのままにしておく訳にはいかない。警察に通報するという手もあるが、また形を変えてやってくるのは十分考えられる。そのようなしつこさは、N県からわざわざやってきていることからも分かる。だから、この問題は自分たちで解決するしかない、と伊達も含め考えていた。
「やっぱりやつら、来ました。どうしましょう」
龍田が伊達に尋ねた。自分のことで伊達をはじめ、他のみんなにも迷惑をかけたという申し訳なさが言葉に滲んでいた。しかし、今は目の前の出来事をどう回避するかが大切だ。これだけの人数ならば、乱闘になった時には怪我人も出るだろう。近所の人への迷惑も考えなくてはならない。伊達は策を考えた。
「たしか昨日見ていたのは北島だったな。その時の様子はどうだった?」
伊達が龍田に尋ねた。
「激しい稽古だったので、随分びびっていたようでした。最初はちょっと嘗めたような感じで見ていましたが、だんだん表情が緊張していくのが分かりましたから」
龍田が言った。