10分後、龍田が伊達のところにやってきた。松池はいない。込み入った話になりそうということで、同席を遠慮したのだ。龍田は伊達の前の椅子に腰かけた。もうこの時点からうなだれている。まるで御岳が病気のことを打ち明けた時のようだ。
伊達はその様子から、何があったのかを尋ねた。
「どうした。最近、元気がないみたいだが…。何か悩み事か?」
伊達は龍田の目を見て話しかけたつもりだが、龍田は目を伏せたままだ。口も開かない。数分間、沈黙が続いた。
これでは埒が明かないので、再度伊達から話を切り出した。
「事情を話してもらわないと、何も解決ができないじゃないか。他のメンバーも心配しているし、君の悩みは一人だけのことじゃないと考えてくれ」
その言葉に龍田は顔を上げ、伊達の目を見た。生気のない目であったが一応見た上で、静かに話し始めた。
「実は、俺の昔のことと関係があるんです」
いつもと異なり、声に張りがなく、モゴモゴした感じのしゃべり方になっている。
「昔のことと言うと?」
伊達の目が、少しきつくなった。
「暴走族に入っていたことはご存じでしょう」
伊達が心配していた展開だ。最近の龍田には昔の面影はないが、変な引きずり方をしていないかという心配は、どうしても付きまとっていた。それが本当になったのかと思ったのだ。
「知っている」
ここは厳格な感じで返事した。
「そのことなんです」
「まだ、その時の連中と付き合っているのか?」