機先を制された感じで、2人は余計に恐縮した。先ほどまでの少し浮かれた気分が、どこかに飛んでしまっていた。
「さっき御岳君が電話をくれてね。それで昨日の君たちのことを知ったんだ。まあ、うまく争いを避けたということなんで不問に付すが、御岳君も君たちのことを心配してたよ。…いかんな、病人に心配をかけるようじゃ」
伊達は2人をしっかり見据えて言った。しかし、いつもの教えをきちんと聞いてくれたことに、内心嬉しく思っていた。
そういう話をしているところに龍田と松池がやってきた。
「聞いたよ、2人ともゲーセンで何かあったようだね」
龍田が妙に嬉しそうに言った。もともと喧嘩好きな性格なので、そういう話はすぐに乗ってくる。伊達にしても、特に龍田には注意しているが、堀田の件が龍田の場合でなくて良かったことは幸いだと思っている部分もある。龍田の場合、すぐに手が出る可能性があるからだ。随分おとなしくなってはいるし、一応教えは聞いているようなので以前のようにすぐに手を出すことはないと思われるが、場の勢いということがある。
もっとも、そういう可能性を考慮して、松池と組ませて見舞いに行かせたわけだが、前回は今回のようなことはなかった。
その分、今回の話は龍田が変に意識していた。頭の中では自分の場合だったら、と考えているかもしれない。ここはもう一度、みんなにきちんと内弟子としての心得を説いておかなくてはならないと、伊達は考えた。
「こら、龍田君。あおるようなことを言うんじゃない。2人とも、普段の言いつけを守って喧嘩はしていない。無用な争いを避けたことは、賢明だった。改めてみんなに言っとくが、喧嘩はいかなる理由があろうとも御法度だ。それに反する場合は内弟子を辞めてもらう。破門だ」
伊達は喧嘩の道具にするために武道・武術を教えているのではない。その意味が分からない者には一切教えない、ということを改めて明言した。
その後、堀田の怪我のことなどを引合いに出し、喧嘩をした時、結果として相手に負傷させた時のことを考えさせた。その上で、その場合の社会人としての責任や、その取り方などについて重ねて説明した。
同時に、武の哲学はそもそも戦いの技術でありながら、実は不戦の意識が根底にあることを再度説いた。対極の位置関係となる両者をどう統合し、自分の生涯に活かしていくかが武道として学ぶべき大切なことであると強調した。
血気盛んな年頃で、武の表面に興味津々の段階ではなかなか理解しにくいということは伊達にも分かっているが、だからこそ繰り返し説かなくてはならない。
4人とも黙ったまま、伊達の話を聞いていた。