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入門 3

 数日後、高山から伊達に電話が入った。

「先生。あれからまた両親や会社、友人などにも相談しました。だけど、やっぱり内弟子として頑張りたいと思います。無理ですか?」

 たぶんもう連絡はないものと思っていた伊達には意外な返事だった。

 だが、ここで安易に認めてしまったら、高山にとって良い経験にはならない。ごり押しで世の中が自分の都合の良いように動くものではないということを教えなければならないし、もう一歩踏み込んだ心構えを試したいと思った。

「高山君。情熱の程は分かった。では、もう一度ゆっくり話そう。今度、いつ来れる?」

「ありがとうございます。では、週末が休みですから、来週の日曜日に伺います。この前と同じ時間でよろしいですか?」

「分かった。では待ってるよ」

 伊達は高山の本気の気持ちを知り、内心喜んだ。その気持ちが動作にも現れ、受話器の置き方が心なしか柔らかかった。

 しかし、若気の至りという言葉もある。本当に高山に後悔しないだけの気持ちがあるかどうか、日曜日の面接でしっかり確かめるつもりだった。



 約束の日曜日。

 高山は時間通りに伊達のもとを訪れた。

 事務所のドアの取っ手に手をかける高山には、まだ扉が重く感じられた。前回訪れた時ほどではないが今日、どんな話になるか、それが心配だったのだ。

 扉を開け、伊達のいるところに行った。なるべく気丈に振舞おうと、背筋を伸ばし、目はしっかり正面を向いていた。

 今度は前回のような緊張はないが、それでも入門を許可されたわけではないので、良い返事を聞くまでは落ち着かない。そういう気持ちで再度、伊達と顔を会わせた。

「先生、ありがとうございます。おっしゃったように、もう一度自分の将来も含めて考えてみました。確かに先生が言われるように周りの人たちからは引き留められました。でも、決意が固いことを話すと、しかたないか、といった感じで理解してくれました」

 再度の訪問で、決意が固いことをアピールする高山。以前にも増して強い口調で気持ちを伝えた。

 だが、短期間で終了するようなものではないのが内弟子修業だ。

 そこでは自我を殺すことを要求され、贅沢な生活もない。就職先の一つ、といったようなものではないのだ。

 内弟子は普通では学べないものが学べるが、その部分だけを眺めていては足元を掬われる。美味しいところだけを食べるようなことはできない。伊達はこの部分を高山に理解してほしかった。

「高山君の気持ちは分かったが、実際の内弟子の生活は知っているかい? 思っているより厳しいよ。同じ年齢の人のように遊べないし、会社務めのような定期的な休みもない。就職のような感覚でいては、とても務まらない世界だ。分かってる?」

 伊達の表情は厳しかった。

 内心、高山の再訪問は嬉しかったが、何年も続く内弟子修業は甘くない。厳しい眼光に耐えられないような心では途中で投げ出してしまうのが落ち、と考えている伊達にとって、多少演技してでも高山の本気度を試したかったのだ。

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