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入門 2

「高山君。君は今、二度目の入門志願をしたんだよ。その意味は分かるかい?」

「えっ?」

 その問いかけに、高山は言葉が詰まった。これまでのことを謝れば、すんなりと認めてもらえるものと期待していたところがあるからだ。

 もちろん、多少のことは言われるかもしれないと思っていたが、問い掛けの内容に戸惑いを覚えたのだ。

「今回の訪問は、いわゆるお客様として対応していたけれど、内弟子の再志願という話であればお断りする」

 伊達は明確に内弟子入門希望を断った。そして、その理由を諭すように語り始めた。

「最初の出会いを戦いに置き換えてごらん。そこで何らかの勝負がついているのが武術だ。今の時代はいろいろな大会があって、たとえそこで負けても再試合は可能だけど、武術の意識から言うならば、それは無い。教育的意味を込めた試合であったり、そういう場での再試合は現代だからいいだろうけれど、武道や武術の心まで学ぶ内弟子には、再試合の意識は無いんだよ」

 伊達のこの言葉に、高山は肩を落とした。自分のほうから一回は断ったような形になっていたから、まったく予想していなかったわけではなかったが、改めて断わりの理由を聞かされたことは、重く響いた。

 しばらく、無言の状態が続いた。

 高山にしてみれば、断られたからといって帰っては、意を決して上京した意味が無い。あらためて伊達に食い下がった。

「確かに、前回は私のほうに問題がありました。図々しくまた押しかけて、先生の貴重な時間をいただいたことを申し訳なく思いますが、自分もよくよく考えてのことです。実は両親にも職場にも内弟子のことは話してあります。両親も自分で決めたことならと、納得してくれました。職場の人からも説得されましたが、自分の気持ちを一生懸命伝えたら、分かってもらえました。来月一杯で辞めることになっています」

 この時の高山の表情は違っていた。何とか自分の気持ちを伊達に伝えようと、一歩も下がらないといった気迫さえ感じられた。その間、高山の目は、しっかり伊達の目を真正面から見ていた。

「おいおい、それじゃ、こちらの返事も待たずに決めたのか? そりゃ、無謀というものだよ。…気持ちは分かるけどね」

 伊達には今度は本気だということがこの言葉から分かったが、勢いだけで決めてよいものではない。もう少し話を聞いてみることにした。

「では尋ねるが、内弟子になって、何を学びたい?」

「先生は空手と整体をやっていらっしゃいますね。武道・武術は活殺自在でなければならない、と本に書いてありました。自分はそこに共感したんです。自分が目指す武道もそこに行き着きたいと思いました。だから地元でお世話になった先生にも相談しましたが、スポーツ空手、競技空手の先生だからなかなかピンときませんでした。整体の先生や学校もいろいろ調べました。でも、やっぱり自分が目指すものはなかったんです。あらためて本を読んでみると、やっぱり自分が目指す空手は先生のところ以外にない、と確信したんです。お願いします。内弟子、許可してください」

 先ほど以上に強い口調で話した。自分の思いを伝えたい、そういう気持ちが言葉の中に溢れていた。

 だが伊達は、冷静に対応した。

「入門の時は、皆そういう感じで来るんだよ。会社には辞めると言ってきたということだけど、まだ実際には辞めてないでしょう? だったら、こちらで断られたと言って、辞めると言ったことを謝って、取り消してもらいなさい」

 高山の心意気は買ったが、将来に関わることだけに簡単に許可を出すわけにはいかないし、ここですぐに心が変わるようであれば厳しい内弟子修業はできないと考え、一旦は地元に戻り、もう一度よく考えるよう、高山に促した。

 ある意味これは、再入門願いをした高山への試験でもあった。願いを断られ、熱くなった気持ちが落ち着いてもなお、変わらないようであればそこでもう一度考えることにしたのだ。

 内弟子というのは、就職でもないし、身分が保障されるものでもない。本気で打ち込む強い心がないと務まらない世界だ。後々、あの時は若気の至りだった、といった言葉が出ないよう、最初の段階で厳しくしたのだ。

 もちろん、それで二度と訪れない場合はそれまでの縁だった、ということになる。高山にとっても、本気度が試される機会になった。

 そのような意図があったことは高山が知るところではないが、大学を出ても就職に困る時代に、せっかく入社した会社を蹴って、あえて違う道に入る意味を再考させたかったのだ。

 ただ、高山としては、自分なりに決意してきただけに、何か釈然としない気持ちが残った。

 だが、今ここでこれ以上食い下がっても無理だと理解した高山は、後日連絡する旨を伝え、地元に戻った。

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