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70.大文字邸

===== この物語はあくまでもフィクションです =========

============== 主な登場人物 ================

大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。

愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。

青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。

橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。

増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

右門一尉・・・空自からのEITO出向。

斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者の1人。

久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。

結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。

物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。宅配便ドライバー。

小田慶子・・・依田の婚約者。

南原蘭・・・伝子の高校のコーラス部の後輩南原の妹。美容師をしている。

服部源一郎・・・伝子の高校のコーラス部後輩。シンガーソングライター。

山城順・・・伝子の中学の書道部後輩。愛宕と同窓生。

福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。

福本(鈴木)祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。福本と結婚している。

藤村警部補・・・高速エリア署刑事。

早乙女愛巡査部長・・・白バイ隊隊長。

池上葉子・・・池上病院院長。

江南(えなみ)美由紀警部補・・・警察犬チーム班長

副島はるか・・・伝子の小学校の書道部の先輩。書道塾を経営しているが、EITOに準隊員として参加。

ジョー・ジョーンズ・・・オスプレイパイロット。


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午前9時。大文字邸。

愛宕が正面玄関から入って来る。高遠が出迎える。

「へえ。入ってすぐの部屋が高遠さんの書斎兼執務室ですか。」と、愛宕が感心した。

「一応、小説家だからね。ここで使っているPCは、実は用途を限らせてある。」「小説のみ、ってことですか。」「いつ、誰が押し入るかも知れないから。まあ、セキュリティーは抜群だけどね。大文字伝子亡き後、悠々自適って感じに見せている。ここに自由に出入り出来るのは、愛宕さん、青山さん、編集長、江南さんくらい。」

奥から、みちるが出てきて言った。「私も正面から入りたいな。」「ダメ。みちるちゃんはEITOの一員でもあるからね。」「ふうん。」「高遠さん、先輩は?」「さあ、さっきジュンコと遊んでいたけどね。奥に行こうか。」

3人は、『どんでん返し』を押して、奥のエリアに入った。庭に行くと、ジュンコが尾を振った。「いないね。2階かな?ひょっとしたら。」と高遠は言った。

吹き抜けの階段を上って、2階に行き、「伝子さん!」と高遠が呼ぶと、「ここだ。北側の部屋。」3人が行くと、伝子が腕組みをして窓の方を向いて立っていた。

「西側の部屋がAVルーム、南側の部屋がゲストルーム。北側と東側がまだ、未定だ。どうだ、二人とも。何かいいアイディアはないか?」「アイディア?使い道ですか、先輩。」「うん。」愛宕は唸った。

「お仕置き部屋?」「衣装部屋?」「他には?」愛宕夫婦は二人とも首を振った。

「好きに使え、って言われているけど、流石に広すぎるとなあ。」と、伝子は言った。

「まあ、コーヒーでも飲もう。」4人は階下に降りていった。チャイムが鳴った。

「一階が無人の時は自動ドアもロックがかかるんだよね。」と、高遠が説明した。そして、ロックを外しながら、ドアホンに「どうぞ。」と言った。

編集長が入ると同時に、高遠はどんでん返しを開いた。

「忍者屋敷よね。秘密の出入り口も奥にあるし。」と編集長は言った。

高遠は、また、どんでん返しを開いて、編集長を奥に導いた。

ダイニングキッチン。5人でコーヒーや紅茶を飲んでいると、EITOルームと高遠が名付けた、EITO用のPCのある部屋に移動した。画面に理事官が映っている。

「珍しいメンバーだな。まあ、いい。あの女は高島裕恵という女盗賊でね。お堂から出て来たのは、その配下だ。念の為、エマージェンシーガールズを配置して良かった。アキレス腱を切ったんだが、池上先生の見立てでは、後遺症が残るだろう、とのことだ。しかし、大文字君。気に病むことはない。警部の言った通り、悪党なのだから。それと、キーワードの謎は解けなかった。知らない者は知らない。そんな情報だからな。副島さんに叱られたよ。無理に弓矢を弾かせることはなかったのに、と。急に来られなくなったのは、書道教室の生徒が交通事故に逢った為だった。愛宕、聞いているな。」

「はい。どうやら生徒が急に道に飛びだしたらしいのですが、撥ねた運転手が高齢者で、済まない済まないと泣いて母親に謝りながら、自ら110番をしたそうです。」

「気に病むな、というのも無理な話だ。だが、当面は大文字君。指揮官として腕を振るってくれ。現場のリーダーとしての資質は唯一無二だ。だが、敵の攻撃を交わし、先手を打っていく君の頭脳は誰もが認めている。これからは益々闘いが厳しくなるに違いない。だからこそ、世間体では亡くなったことにした。墓も作った。」と、理事官が言うと、編集長が「墓まで?徹底しているのね、理事官さん。」と驚いた。

「僕はもう、墓参りしましたよ。みちるは嘘泣きして。」「失礼ね。演技って言うのよ。ここは褒めるとこよ、ねえ、高遠さん。」

「まあね。」と高遠は笑った。

久保田管理官のPCが起動した。「第2高速で事故発生。救急車が通過中、前を走っていたトラックから大量の段ボールが落ち、トラックが、そのまま逃走。「こくふ」のトラックに似ているが、違うという報告だ。救急車が横転。幸い火災にはなっていないが、現場は混乱している。救急車は怪我人を搬送中で、救急隊員がどうなっているのかも分からない。」

理事官が叫んだ。「アンバサダー。緊急出動を命ずる。裏山のオスプレイで本部に戻れ。」

「了解。学。後は頼む。」伝子はみちると共に、庭の横を駆け抜け、裏山に通じる通路を走った。見ていた編集長は呟いた。「サンダーバード?」

オスプレイの中。「今日は、ジョーの番か。よろしく頼む。」と運転席に伝子が声をかけた。「オッケー、アンバサダー。」

EITOベースゼロ。司令室。

「今、MAITOも現場に向かっている。別のオスプレイで、金森と馬越を向かわせた。」と、理事官が言った。

「了解しました。金森、馬越。救急隊員と患者を搬送。病院に到着次第、職員に引き継げ。あつこ。散らかった段ボールを調べろ。早乙女さん。警部。高速の交通整理。なぎさ、増田、大町は高速の外の担当だ。」

伝子がテキパキと指示を与え、理事官も口を添えた。「段ボールの片付け自体はMAITOに任せろ。新兵器があるそうだ。」

高遠が連絡をしてきた。「逃走中のトラックの情報が赤木君のチームから入った。国道を福島県方向に向かっているらしい。愛宕さんたちに知らせた。高速エリア署の藤村さんにもね。」「よくやった、ダーリン。位置情報をなぎさのジープのナビにも知らせてくれ。」

「おねえさま、私とあかりは?」「待機だ。」

伝子は、みちるの問いに短く答えた。

「こちら早乙女。出入り口に検問を設けて、片側車線通行を知らせています。現場に今、金森さんたちが到着。救急車の人間を外に出しています。その向こうに、警視たちが段ボールに爆発物がないか調べています。それと、現場の手前の車のドライバーには、爆発物があるかも知れないので、一旦料金所方向に歩いて戻るよう説得しました。」

「了解した。」伝子が息を継ぐ暇もなく、「MAITOが到着したようですね。」と、渡が言った。

伝子と理事官が睨んでいるモニターに、金森たちと救急車の人間を乗せたオスプレイが離れていくのが見えた。代わって、MAITOのオスプレイが現れた。

あつこが、異常なしのサインを送って、離れた。MAITOのオスプレイからホース状のものが降りてきて、液を噴射し始めた。段ボールの溶解液だ。すぐに場所を移動したオスプレイは、以前伝子たちを救出した爪の改良版を下ろし救急車をつかんで去って行った。

逆走してきた、空自のバキュームカーが溶解液を、あっという間に吸い込んで行った。

片側通行規制は解除され、徐行して進行するよう、案内板に点灯メッセージが流れた。

福島県近くの国道。トラックが通常のスピードで走っている。愛宕と青山警部補のパトカーが追いついてきた。高速エリア署の藤村のパトカーも追いついて来た。

なぎさのジープも追いついて来た。トラックが止まった。

EITOベースゼロ。司令室。「『血』が救急車のことだとして、『段ボール作戦』が段ボールをばらまくこと?それだけかしら、おねえさま。」とみちるが言った。

「そうか。愛宕。危ないから近寄るな!」愛宕には通じなかった。

国道。。既に愛宕と青山警部補はトラックに近づこうとしていた。

なぎさのジープのナビに声が入った。「なぎさ。トラックに爆発物がある。誰も近寄らせるな!!」

伝子の声に敏感に反応したのは増田だった。愛宕と青山の足下を狙ってシューターを放った。二人は止まった。なぎさと増田は走って行って、二人に覆い被さった。

耳をつんざく轟音が響いた。何かの破片が、なぎさや増田を襲った。

愛宕の警察無線に声が入った。「愛宕、無事か?応答せよ。」久保田管理官の声だった。

一方、なぎさと増田のイヤリングに信号が入った。長波ホイッスルだ。オスプレイからだった。長波ホイッスルとは、犬笛の様な音波で、決められた暗号の信号を送れる。

EITOベースゼロ。司令室。

「よくやった。みちる。愛宕は無事だ。」みちるとあかりは抱き合って泣いた。

モニターに久保田管理官が映った。「大文字君。対向車線を走っていた車から、段ボールが散乱した際、男が段ボールと一緒に飛び降りた、という情報が入った。トラックの前の乗用車に男は乗ったのではないか、と言うので、Nシステムで、その黒いセダンをチェック、錦糸町方面に向かっていることが分かった。ああ。救急車の後続車になった車が黒いセダンにサーフィンルーフがあったと証言してくれたので特定出来たんだ。」

「了解しました。オスプレイで白藤と新町を向かわせます。」と伝子が言うと、みちるとあかりは頷いて、オスプレイに乗り込む為に走り去った。

オスプレイの中。「見つかったよ。着替え済んだ?」と、運転席からジョーが声をかけた。「オッケー!!」みちるとあかりは、乗員に手伝ってもらい、縄梯子で地上に降りた。

錦糸町のあるバー。「まだ開店していませんよ。」と店の中のバーテンダーが声をかけた。「ハロウィン?お嬢さん達、気が早いね。」

みちるとあかりは、容疑者の二人の周りを回った。「おっぱいおっぱいブルーンブルーン」と言いながら。

突然、それを終えると、みちるとあかりは二人に手錠をかけて逮捕した。そこへ、藤村警部補が入って来た。「マスター。二人が注文した分は、残念ながらキャンセルだ。」そう言って、連れ立って出ていった。

翌日。午前10時。EITO用のPCのある部屋。

「理事官。これで、『段ボール作戦』の事件と『血』の事件が解決ですね。」と依田が言った。「決めつける理由がないからな。全くお前は・・・。」と言いかけると、「おっちょこちょいなんだから。」と慶子と証拠と蘭と栞が唱和した。

「また言われた。」と依田はしょんぼりした。

「まあ、ともかく、今回は大きな犠牲者が出た。救急隊員と救急車に乗っていた患者は助かったが、自爆テロ・・・いや、自爆テロに見せかけた殺人は防げなかった。」と、理事官は寂しそうに言った。

「トラックドライバーは、被害者ってことですか。」と物部が手を挙げて言った。

「うむ。愛宕や青山警部補は一佐と増田のお陰で助かった。あの爆風でも何かしらの破片は飛んだ筈だが、新しいスーツは軽量の割に丈夫だ。それで、あの運転手だが、シートベルト以外に座席に爆弾抱えたまま固定されていた。死ぬ間際に娘へガラケーで電話をしていた。運転免許証の欠片から住所を割り出し、家族に連絡した。娘は既に、警察に相談をしていた。彼は、居酒屋で酔い潰れた所を拉致、括り付けられていた。段ボールが落ちた時に目覚めた。前のセダンから自動操縦していたらしい。運転手は覚悟を決めて、走らせた。彼は福島県出身でな。東日本大震災以降、トラック運転手として働いていた。」

「それで、土地勘のある、福島方面の人気の無いところに運ぼうとしたんですね。」と福本が言った。

「卑劣なやり方だな。それを『作戦』と呼んでいたのかな?」と、高遠が言った。

「それで、セダンに乗った男女だが、元はストリートパフォーマーだった。コロニーのお陰で実入りが無くなって、金を積まれて時期を待っていた、という。全て、『死の商人』の女の作ったマニュアル通りに行った、そうだ。」と理事官が言うと、「実入りが無くなって、の所だけ共感出来るな。僕も、芽が出なかったら帰って来い、って親に言われています。シンガーソングライターって簡単には仕事来ないんですよね。」と、服部が言った。

「あ。MAITOの装備凄いですね。」と山城が言うと、「空自も『災害用』として色々開発している。東日本大震災の教訓だね。がれき処理、結構時間がかかったからね。陸自だけでは限界がある。」と理事官は応えた。

「そんな所だ。みんなよく頑張った。」と理事官が言うと、「あらあ。DDで頑張ったのは、大文字くぅんだけじゃないの?」と編集長が割り込んだ。

「あ。僕は一応DDメンバーですね。」と、愛宕は言った。

「ところで、『おっぱいおっぱいブルーンブルーン』って、どこで流行っているんだ、と藤村警部補が言っていたぞ。」理事官は笑いながら、画面を消した。

「みちる、あかり!ちょっと来い!!」伝子は二人の耳を掴んで奥の部屋に消えた。

なぎさが高遠から『応急セット』を受け取り、その部屋に入って行った。

南原夫妻がやって来て、南原が高遠に「またやらかしたの?」と尋ねた。

皆が一様に頷いた。

―完―


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