目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
66.「お前が大文字か?」

======== この物語はあくまでもフィクションです =========

============== 主な登場人物 ================

大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。

愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。

青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。

橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

渡辺副総監・・・警視庁副総監。

金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。

増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

右門一尉・・・空自からのEITO出向。

久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。

結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。

物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。宅配便ドライバー。

小田慶子・・・依田の婚約者。

南原蘭・・・伝子の高校のコーラス部の後輩南原の妹。美容師をしている。

服部源一郎・・・伝子の高校のコーラス部後輩。シンガーソングライター。

山城順・・・伝子の中学の書道部後輩。愛宕と同窓生。

福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。

福本(鈴木)祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。福本と結婚している。

藤村警部補・・・高速エリア署刑事。

早乙女愛巡査部長・・・白バイ隊隊長。

=======================================


午前9時。コスプレ衣装店。

みちるが入って来ると、店長が揉み手をしてやって来た。

「これは、白藤様。いつもお世話になっております。今回はEITO様への大量発注の御提言ありがとうございました。クリーニングやメンテナンスは責任を持って行わせて頂きます。それで、今回は、どんなお召し物を?」

「そこに、二人隠れているよね。」「は?」みちるの言葉に店長は驚いた。

物陰から、結城警部と新町あかりが現れた。

午前10時。喫茶店。

「愛宕君から頼まれたのよ。」と結城は言った。

「今日はショッピングで散財するかも知れない、って。愛宕警部補は超能力あるんですか?先輩。」と、あかりは屈託なく言った。

「あれば、警視正にまで行ってるって。」と、みちるは言った。

「押しかけ女房だったって聞いてますけど。」と、結城が言った。

「まあね。その頃は、まだ世間を知らなかったのよ。」

「猫かぶりしていたんだよな。」3人が振り向くと、伝子が笑って立っていた。

「署長が巧みに隠していたんだろうな。あのじゃじゃ馬を使いこなしたのは大文字君だけだ、って前に署長が言っていたよ。」「じゃじゃ馬?ひどーいい。」

結城とひかりが、笑いをこらえていた。「警部。ひかりの教育係、もういいですよ。」

「私はクビですか?」「いや、よく育ったってことです。充分戦力になってきた。」

「ありがとうございます。先輩。いや、アンバサダー。」「どっちでもいいよ、あかり。但し、『おねえさま』は、まだ早い。」

「何か試験があるんでしょうか?」と、結城が尋ねると、「まずは私と『寝て』からかな?」と伝子が応えた。

「冗談ですよ、警部。この頃、お義母さんの影響か、変な冗談ばかり言っているんですよ。」と横から高遠が言った。「お待たせ。新しいコーヒーカップ、買いましたよ。」

「じゃ、またな。」「もう帰るんですか、先輩。」とあかりが言うと、「ああ。これから子作りなんだ。」と真顔で伝子は応えた。

伝子の自動車車内。「警部が困ってましたよ。もう、いい加減変な冗談止めてね、伝子。」「うん。」

伝子のスマホが鳴った。テレビ電話だった。草薙だ。

「事件ですか、草薙さん。」「事件です、これから起こる。」「いつから予言者になったんですか?」「エリアからすると、第二高速に向かっていますね。」「ええ。久しぶりに渥美山ロープウェイに乗ろうと思ってね。」「取り敢えず、アンバサダーが助手席なら都合がいい。ハンドル左上に赤いボタン増えてますよね。」「ええ。いつの間に?」「押してください。」

伝子が赤いボタンを押すと、助手席ダッシュボードの上にスマホサイズのタブレットが出て来た。

「メンテナンスのついでに改造しました。高遠さん、伝子カーなんて呼ばないでくださいよ。AIが危険をキャッチしたら、押すボタンを誘導します。ガイダンスが出るんです。10分ほど前、大文字さんの自動車と同じ車種が、『煽り運転』に逢いました。実際は、『大文字か?』と尋ねただけで、違うと言ったら、去って行ったそうです。その車は間もなく追いつくでしょう。特別通信でEITOと繋がっています。DDバッジ押さなくてもピンポイントで捕捉しています。ガイダンスが間に合わないようなら、こちらでサポートします。」

テレビ電話は切れた。

その、煽り運転らしき自動車はすぐに現れた。割り込んで来たので、仕方なく高遠は路肩に駐めた。

男達が下りて来た。男の一人が窓を叩いた。「お前が大文字か?」と、男は伝子に問いかけた。伝子はガイダンスに従い、タブレット下方にマークが出ている水道の蛇口のようなボタンをタップした。ウインカーの掃除をする為の洗浄液が男目がけて2方向から発射された。

「何すんだよ!」と拳銃を持ったままの男は言った。「おまいう。」と言いながら、伝子はガイダンスに灯った手裏剣のマークのボタンをタップした。男にシューターが発射され、男達は両手両脚が麻痺した。

シューターとは、うろこ形の手裏剣のような飛び道具で、先端には麻痺材が塗ってある。普段は、伝子達がワンダーウーマンやエマージェンシーガールの格好で闘う為の武器の一つでもある。

それでも、男は拳銃を撃ってきた。しかし、フロントガラスはヒビも入らなかった。

タブレットにスピーカーボタンが現れたので、伝子はタップした。

「何の用かな?無理な追い越しは交通違反じゃなかったかな?」外に出た伝子の声は変声器と通した声だった。男達がサイドウィンドウに近づこうとした時、後方からパトカーがサイレンを鳴らして、やって来た。更には、白バイがバックで走って来た。

「何だか騒がしいようでしたが、何かありましたか?ああ、言い逃れは署で伺いましょう。ドライブレコーダーを見ながら言い訳してください。」

パトカーから降りて来た、高速エリア署の藤村が言った。そして、伝子に敬礼した。

白バイから降りて来た、早乙女巡査部長も伝子に敬礼した。

高遠は、後を任せて、発進した。

「ロープウェイは、今度ね。」「怖いだけだろ、学。」「怖いです。色んな意味で。」

翌日。午前10時。EITOベースゼロ。会議室。

「無事で良かったよ、大文字君。」「理事官。私の自動車、大改造したんですか?」と、伝子は言った。

「不服かね?君を守る為には全力を尽くすさ。草薙、説明してやれ。」

「昨日、体験された通り、フロント、サイド、リア。全ての窓は防弾ガラスです。ワイパーの洗浄液は、敵の攻撃用にも使えます。角度変えるだけですけどね。昨日はシューターだけ発射しましたが、こしょう弾も発射出来ます。あのタブレットは、センサーで攻撃を分析し、対処するAIが組み込まれています。ドライブレコーダーの映像を同時録画して、指定場所に送信します。指定場所は警視庁です。」と、草薙は説明した。

「補足しますと、警視庁から暗号メールの形でEITOに転送されます。」と河野事務官が言った。

「アンバサダー。先日の襲撃に鑑みて、あの自動車は空も飛べます・・・と言いたいところですが、短い時間ですが中に浮きます。それと、先日のように、何者かが自動車の下に細工する為に潜り込むと、センサーが働き、シャッターが降り、文字通り車内に閉じ込められます。」と、草薙は自慢げに話した。

「それで時間がかかったのか。まるでボンドカーじゃないですか。」と伝子が言うと、「EITOのジェームズボンドだね、ボンドガールではなく。」と理事官は笑った。

「あの、二人組だが、妙なことを言ってね。『女王様を殺し損なった』と。警部。女王様について話してくれ。」

理事官に指名されて、結城警部は立って説明した。「先日、不覚にも私は誘拐されました。どうもマフィア組織のことは知らなく、我々のこともあまり知らないようなので、『女王様に傅く宗教団体』に所属しているのだ、と説明したのです。女王様とは、アンバサダーのことです。」と結城は説明した。

「つまり、寺のどこかに盗聴器があって、『死の商人』が聞いていた?それをあの二人に教えた、と。何故?あの二人は確かに拳銃を所持していたけれど・・・。」と伝子は考え込んだ。

「大文字君。もう一つ謎がある。あの二人は元ヤクザの組員だったんだが、今は用心棒的に一時的にヤクザの組織に請われると参加しているそうだ。まあ、派遣社員だな。ある日『死の商人』がやって来て、成功報酬は、この3倍だと100万円をポンと置いて行った。あおり運転の争いを装って狙撃なんて楽勝だと思って、実行してみたら、想定外の展開だった、と。そして、ヒントになる『キーワード』を言った。足を洗ういいチャンスだから、と、何か知らないかという問いに対する答を言った。キーワードは『橋』だ。どんな橋かは分からない、と言った。」

「理事官。罠ではないでしょうか?」と、理事官の説明後、なぎさが言った。

「恋愛ボケしていないようだな、一佐。」「そ、それは・・・。」となぎさは顔が真っ赤になった。皆、呆然とした。それほど、考えにくい性格だからだ。

「罠、ってどういうことだ、なぎさ。」「あ。はい。おねえさま。この頃の動きを見ていると、ターゲットの優先順位を変えたんだと思います。日本壊滅の為の一番の障害になっているのは、大文字伝子。それなら、罠を張って、何とか先に大文字伝子を亡き者にしようと。各作戦は、言わば、その為の餌。囮。」

「一佐の言う通りだ。大文字伝子はキーワードがあると、それを解いて、先回りをする。ならば、そのキーワードをくれてやるのが、早手回しだ。そう考えたとしてもおかしくはない。」と筒井が入って来て言った。

「今まで、奴らは皆作戦を失敗してきた。何故だ?大文字が想定外の動きをするからだ。虚産主義者は、考え方が偏っている。それが最大のウィークポイントと分かっていても、変更出来ない。だからこそ、大文字の『無手勝流』が勝つ。罠に乗っても、勝てばいい。今は、取り敢えず、キーワードを解くのが先決だ。理事官。EITOの使命は、テロリストの思いのままにさせない、ことじゃなかったんですか?」

筒井の言葉に、「私もそう思います。まずはキーワードかと。多分、その『橋』は水管橋ではないと思います。」と、あつこは言った。

「水管橋の事件は、ぼやかしてはいても、何かあって、見学会が遅れたみたいな報道はしていたから、彼らの連絡の行き違いで、水管橋事件を知らない、ということは考えにくいと思います。」発言したのは、増田だった。日頃目立たないから目立った。

「増田も成長したな。こっそり、こしょう弾を撃つ練習をしていることを私は知っているぞ。」と理事官が言うと、増田は照れていた。

「よし。後方支援は任せて、まずは謎解きだ。みんな、情報を集めてくれ。」と伝子が閉めた。

午後5時。伝子のマンション。

「ええ。橋は橋でも建造物とは限らない。そう考えると、こういう可能性もあるかな?と。」

伝子は、思いつきを、EITO用のPCで理事官に話していた。

「いつだね、それは?」「明後日です。パレードは12:30からと15;00からです。」

翌々日。正午。言問橋、吾妻橋、永大橋、勝鬨橋の近くには、警備が強化された。

そして、合羽橋地区の『かっぱ橋道具まつり』の為、商店街は歩行者天国になった。

午後12時半。第一陣パレードの東京消防庁防火パレードがスタートした。

午後2時半。第二陣の小学校ブラスバンドパレードがスタートする直前。行列の切れ目を、一人の男が、ふらふらと歩いていた。

行列に混じっていた、外国人の男性グループと、ある女性のグループが走って行き、取り囲んだ。女性の一人が、空き店舗に連れ込むよう指示し、外国人の男性グループが店の外で母国語での談笑を始めた。

空き店舗内。「何かクスリを飲まされているわ。」と言いながら、なぎさは男の上着を脱がせた。起爆装置の付いたダイナマイトを腹に巻いていた。「誰かがリモコンを持っている。早くしないと。」

「やっぱり。あつこ、解除をお願い。みちる。おねえさまに報告。」となぎさは指示した。

あつこが、男の体の起爆装置を解除している間、みちるは伝子に報告し、なぎさはEITOに報告していた。

言問橋近く。伝子は報告を受けていた。「さっき、時限装置付きの爆発物を警邏の巡査が発見。今、処理班が作業に当たっている。」久保田警部補が横から言った。

「浅草方面出口に向かう不審者を警邏が職質して逮捕した。」

伝子は電話を切って、久保田警部補に、「やはり、同時攻撃の予定だったようですね。」と言ったら、「パニックが目的でしょうね。火薬量はそんなに多くないかも。」と久保田警部補は応えた。

伝子のスマホが鳴った。「警部。そっちは、勝鬨橋どうです?」伝子はスピーカーをオンにした。「爆発物が見つかりました。処理班の作業が始まりました。それと、そわそわして勝どき駅に向かう不審者を警邏の巡査が逮捕しました。」

永大橋に行っていた中津警部補から『異常なし』と、伝子のスマホに連絡が入った。

また、吾妻橋に行っていた、藤村警部補からも『異常なし』の連絡が入った。

空き店舗内。愛宕がストレッチャーを押して、入って来た。みちるとあつこが手伝って、ストレッチャーに乗せる間に外国人男性になぎさが言った。「ジョーンズ大佐。助かったわ。また、みんなで囲んで救急車までお願い。」「了解。」

愛宕達が出ていくと、「なぎさ。あの方達は?」とあつこが尋ねた。「以前、合同訓練した時の仲間なの。理事官に頼んで、EITOに出向して貰うことになった。他の人は、アメリカ陸軍のお仲間。今日は、浅草巡りに来ていたので、『ついで』に手伝って貰った。」

「ついで?」あつことみちるは顔を見合わせた。

第二パレード。ブラスバンド部の生徒達がスタートしていた。生徒達は、外国人の変な一団が逆行してくるのを見て、避けながらパレードをした。

後続していた、見物人の一人の女が、外国人の一団を認めると、ブラスバンドの生徒の一人にナイフを突きつけた。「大人しくするのよ。人質になって貰うわ。」

そう言った女は、ナイフを叩き落とされた。金森が放った、ブーメランが落としたのだ。そして、女の足首にシューターが刺さった。名手である、新町あかりのシューターは見事に的中したのだった。

「観念するんだな。」狐面を被った和服の女と、全身黒いボディースーツを身に着けたエマージェンシーガールズが二人やって来た。

狐面の女は長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、EITOが開発した、通常の人間の聴力では聴くことが出来ない、犬笛のような笛で、緊急連絡の短い信号を送る。

EITOを通じて連絡を受けた、警官隊がやって来て、その女を逮捕連行した。

なぎさ達が合流した。伝子達もやって来た。結城警部達もやって来た。

ブラスバンドのパレードは再開したので伝子達が驚いていると、鈴木がやって来た。

狐面の女こと副島は、金森とあかりと共に姿を消した。

伝子は、「鈴木先生が、商店街にかけあってくれたんですね。」と言った。

「ええ。折角今日まで練習したんだから勿体ない、って主催者にお願いしました。まあ、少し時短でという条件つきでね。」

「大文字君。これを見てくれ。」いつの間にかやって来た久保田管理官が紙片を出して言った。「まつりの主催事務所が届けてくれた。」

その紙片には、こう書いてあった。

『流石は大文字伝子だ。毎回先回りして、奇抜な作戦で臨むとはな。今回は負けを認めよう。次回はどうかな?次回のキーワードは<くるま>だ。』

どこかで着替えて来た副島達3人が、皆と同じように紙片を覗き込んで、首を捻った。

―完―



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?