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39.焼身自殺

======== この物語はあくまでもフィクションです =========

============== 主な登場人物 ================

大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。交通課巡査。

依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。

福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。

物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

逢坂栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。

南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師

南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。

小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の婚約者。

山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。

久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。

橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

中津警部補・・・警視庁警部補。

草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

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横横線車内。男が奇声を発して自分に灯油をかけ、火を点けた。

乗客は皆、次の車両へ逃げた。しかし、山城一郎と順は逃げ遅れた。

伝子のマンション。

高遠は、DDバッジのセンサーから発する異常ランプの点滅をPC画面の中に見た。警報ブザーが鳴った為、確認したのだ。すぐに、横のEITOベース連携の画面が現れた。

理事官が現れた。「山城君のDDバッジから異常熱反応の信号が送られて来た。横横線の火災車両の中だ。我々は迂闊に近づけない。東京消防庁の通称ハイパーレスキューが向かった。我々は警視庁を通じてドクターヘリを手配した。詳細が分かり次第、そちらにも連絡する。」

「EITOベースは極秘組織だからなあ。大丈夫かな、山城さん。Linen通じないし。」とい、高遠が言った。

伝子は母親の綾子に電話していた。

「分かったわ。山城さんの施設に行ってみる。」

「母さんに山城のお祖母さんの介護施設に行って貰った。何か分かれば・・・分かって欲しい。」

その時、ひかるから電話がかかって来た。「大文字さん、テレビ見て。」

テレビを見ると、ストレッチャーで運ぶ、山城順と、叔父の山城一郎が映っていた。

伝子は、久保田管理官に電話をした。「今、理事官から聞いたところだよ。救急隊員と接触した警察官によると、搬送先は池上病院らしい。」

「分かりました。」高遠と伝子は車で池上病院に急いだ。高遠が綾子に電話をした。

池上病院。

伝子達が到着すると、手当を終えた山城がロビーにいた。「先輩。」

「山城。叔父さんは?」「重体です。叔父さん、膝の病気があるから、僕を先に逃がそうとして・・・結局、爆風で飛ばされました。」

「なんてことだ。」高遠はすぐ、綾子に連絡をした。

3人が看護師に呼ばれて手術室に行くと、池上葉子が出てきた。

「あなたは息子さん?」「甥です。」「叔父さんは命取り留めたわ。これのお陰でね。」葉子が取り出したのは、DDバッジだった。

「なあに、このバッジ?」「僕たちの友情の証ですよ、先生。」と高遠は言った。

「素敵ね。」と、葉子は微笑んだ。

翌日。伝子のマンション。「犯人は、火を点ける前に叫んだそうだ。山城順君によると、『教団に欺された』という言葉だけは聞き取れたそうだ。」「宗教絡みですか?」

「阿倍野元総理を撃った犯人は宗教絡みだった、と言われている。本当は違うけれど。でも、今回は宗教が絡んだテロかもしれませんね、山城さんの証言によると。」と画面の草薙が言った。

「ひょっとしたら、『今は幸せ会』、旧『一律教会』ですか。新興宗教の手口はどこも似たようなものですが、オウムのようでなければいい、というものでもないですしね。」と高遠は言った。

「今回、EITOが注目しているのはね、高遠君。一度脱会した信者を食い物にしている団体がテロを画策しているような気配があることなんだ。」

「詰まり、山城さんが巻き添え食った『自爆テロ』を誘導した者、いや、団体があると。」

「『今は幸せ会から幸せを取り戻す会』と名乗っているNPO法人だ。カウンセリングの振りをして、洗脳して、自爆テロを吹き込む、そういう段取りらしい。実は潜入捜査が失敗した。聞き出せた情報は、先日の横横線車内のと、阿倍野元総理の弔問に来られる、台形国副主席の訪問だ。」「また、私にSPをやれ、と?」

「いや、出来れば犯行を未然に防いで欲しい。」

「無茶言わないでくださいよ。」と伝子は不平を言った。「山城君の敵は打ちたくないかね?亡くなってはいないが。」

「痛い所を突かれましたね、伝子さん。」と高遠が割り込んだ。

夜。国賓館の控え室。

副総監のSPチームに加えて、伝子、あつこ、なぎさ、空自の江島3等空尉、海自の増田3等海尉の臨時SPが集まり、副総監が各自を紹介していた。

「本来、直接関係ない参加者がいるのは、『見落とし』を無くす為だ。よろしく頼む。」と、副総監は頭を下げた。

葬儀に備えての来賓なので晩餐会は開かず、普通の食事会で、台形国副主席の『前乗り』はマスコミに伏せられた。インタビューを求めて殺到するからだ。

厨房。慣れない手つきでメイド姿の伝子が皿洗いをしていた。まだ食事会の半ばだ。

突然、館内に警報が鳴った。すぐに、伝子は玄関に走った。ジープが2台、玄関を突っ切って来た。1台目に乗っていた者はすぐに奥に消えた。

伝子はメイド服を脱ぎ捨て、2台目に乗っていた者をトンファーで、あっという間に倒した。すぐに、伝子は大広間の食事会会場に駆けつけた。

副主席及び関係者は既にSPチームによって、部屋を移動していた。一人の男に、あつこが筋肉弛緩剤をうち、なぎさが自白剤を飲ませた。

「おまえ達・・・。」「許して、おねえさま。さあ、言うのよ。『取り戻す会』になんて言われたの?アジトは?」と、なぎさが尋問し、あつこはICレコーダーで録音を開始した。

「副主席を亡き者にすれば、幸せを取り戻せる、と。真の脱会が成立する、と。アジトは、旧ウジテレビ社屋。」

旧ウジテレビ。

今はテナントビルになっている。1階ロビー受付。

ワンダーウーマンの格好の女性が3人、入って来た。その内の一人が、3階の『取り戻す会』に行くと言い残し、エレベーターで上がった。

受付嬢が警備室を呼び出したが、通じなかった。

3階。伝子達が勝手に入ると、『取り戻す会』の呼び出し電話付きの受付があった。

3人は散開した。あつこが入ったのは化粧室だった。「暫くここにいてね。」とドアを閉め、鍵を壊した。

なぎさが入ったのは、セミナー室だった。長椅子に座っていたのが会員らしく、立っていた男達が寄って来た。「何の用ですか?」と、男達の一人が言った。

「みんな、端っこの方に移動して。『助けに』来たのよ。」

「ここが洗脳教室か。」そう言うと、なぎさはホワイトボードの写真を撮った。男がホワイトボードのリモコンを持っていたからだった。

「何をする!」他の男が懐に手を入れた時、なぎさは、前に並んでいた長机を蹴った。

長机は将棋倒しになった。なぎさは、その倒れていく長机をぴょんぴょん飛びながら、男達の方に向かった。武器を持った男は数人いたが、ヌンチャクで一瞬の内に倒した。

そこへ、中津警部補率いる警察官が入って来た。「遅いぞ。」「遅れて申し訳ない、ワンダーウーマン。」

伝子が入ったのは、会議室だった。「何の用ですか?変な格好をされておられるが、余所と間違われたのでは?」「星野良一という『取り戻す会』の偉いさんは、あなたかな?威厳がありそうだし。」「私ですが、あなたは?」「ワンダーウーマン。」「面白い。」

星野は両手を広げ、男達に合図を送った。伝子は、EITOから渡された、目潰し弾を床に向けて投げた。粉が飛散し、男達の何人かの目に入り、その男達はしゃがんだ。

「その粉は『コロニー』だ。感染力が強いぞ。」そう聞いた男達は怯んだ。三節棍を構えた伝子は数分で男達を倒した。

そして、リーダーの男、星野良一にロープを突き出し、伝子は言った。「さあ、言いなさい。真実のロープに。『今は幸せ会』との関係をね。」

午後10時半。

警官隊に星野達を引き渡した後、伝子達は夜空に消えた。

伝子のマンション。伝子が帰ると、高遠と藤井が待っていた。「藤井さんお手製のおにぎりですよ、伝子さん。」「ありがとう。おいしいわ。」

伝子から経緯を聞くと、「伝子さん、渡辺警視と橘一佐に『おしおき』するの?」と高遠が尋ねた。

すると、伝子が答えるより前に藤井が言った。

「やむを得ない、と判断するのね。あの子達を罰するなら、リーダーのあなたが裁かれないといけないわ。悪党の人権より、惑わされてきた人達の人生を考えなくちゃね。あの、列車の犯人も、本来は他人を巻き込んで自殺するような人じゃなかった筈。ごめんなさい。説教なんかして。」と、藤井は舌を出した。

「ううん。学の気持ちも藤井さんの気持ちも分かったわ。多分、2人がやったことは理事官も管理官も見て見ぬ振りをすると思う。私たちは公の組織じゃ無い。だからこそ、コスプレなんかしている。学や皆が応援していてくれている。だから、思い切ったことが出来る。ああ。学考案の目潰し弾、役に立ったわ。」と、伝子は高遠の頭を撫でた。

「どれが効いたかな?タバスコ?唐辛子?管理官が言ってたな。『さすが主夫だ』って。そう言えば、国賓館に洗脳されていた人はいたの?」と、高遠は尋ねた。

「ああ、言ってなかったね。厨房にいたのよ。後、掃除係も怪しかった。それで、先に警察署に連れ行って、調べたら、時限爆弾が仕掛けられていて、爆発後に、あの連中が来るという計画が分かったの。」

翌日。伝子のマンション。

「という訳だ。山城の方はどうだった。物部。」

「ああ。今朝早く行ってみた。ショックから立ち直るのは時間がかかるかも知れんが、大文字の活躍を伝えると、山城氏も叔父さんも大層喜んでいた。あの、自爆テロ犯人も可愛そうな人だったんだね、って言っていたよ。当分、叔父さんの代わりに山城氏が介護するそうだ。」

奥の部屋のランプが点いた。久保田管理官が入って来た。

「大物は釣れたけど、殲滅には時間がかかりそうだ、って中津警部補が言っていたよ。」

「管理官。『一律教会』って政治家と繋がっている、って聞きますけど・・・。」と、南原が言った。

「宗教団体と繋がっていないのは、無所属の議員の一部くらいだろう。我々には関係無い。お寺や神社を守る為に宗教法人を作ったら、悪用され続けた結果、オウムみたいなものまで出てきた。ま、お役所仕事は、みんなザルさ。」

「あ、管理官。目潰し弾の採用ありがとうございました。」と高遠が言った。

「理事官が面白がって、第2弾頼むよって言っていた、弾だけに。」

「駄洒落だ。」と依田が言い、皆が笑った。

その時、隣から藤井が蘭、祥子、栞、みちるを伴って、オムライスを運んで来た。

配り終わって、皆がスプーンを持った時、おもむろに藤井は言った。

「目潰し弾は入ってないからね。」ぎょっとして、皆はオムライスの皿を2度見した。

―完―



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