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28.動き出すEITO

===== この物語はあくまでもフィクションです =========

============== 主な登場人物 ================

大文字伝子・・・主人公。翻訳家。

大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。交通課巡査。

依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。

福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。

物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

逢坂栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。

南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。

小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の婚約者。

山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。久保田刑事(久保田警部補)・・・愛宕の丸髷署先輩。相棒。

久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。

久保田管理官・・・久保田警部補の叔父。

柴田管理官・・・立てこもり犯との交渉人。

橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

鈴木校長・・・民間起用の小学校校長。以前、伝子の訴えでコロニーの影響下で開催出来なかった運動会をミニ運動会という形で実現させた。

福本日出夫・・・福本の叔父。タクシードライバー。元警察官で久保田管理官の友人。

大文字(大曲)綾子・・・伝子の母。介護士に復帰してから大文字を名乗っている。

河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

遠藤研一事務官・・・EITOのソタイ担当事務官。

菅沼巡査部長・・・EITOのマトリ担当の巡査部長。

上島警部・・・EITOの警備局担当。警備局直属。

鳩山二曹・・・EITOの海自と海上保安庁担当。

沖三曹・・・EITOの空自担当。

加護准尉・・・EITOの在日米軍の担当。

川辺通信事務官・・・EITOの外務省担当。


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あるレースサーキット。「いいのかなあ、福本。」「何が?」「全員集めて何をするのかなと思ったら、『お三方』のバイクのレース。しかも、コスプレ衣装で。」「我らが先輩はワンダーウーマン、渡辺警視はスーパーガール。橘二佐はブラックウィドウ。」

「ウチの『女子』もレースクイーンの衣装。まあ、編集長いないから話はややこしくないけど。」「逢坂先輩、なかなかいけてるなあ。一番張り切っている?」

「なかなかいい眺めだね、依田君、福本君。」と観覧席の後方から斉藤理事官が声をかけた。

「理事官の斉藤です。EITOの指揮官です。」「えいと?」「エマージェンシーインフォメーションテクノロジーオーガナイゼーションの略だ。」

「緊急情報処理機関のことだ。大文字君は実行隊長。」依田と福本は首を傾げた。

「そろそろ行くよ。コース3周のラップタイムで競争だ。」

ホイッスルが鳴らされ、自衛官がチェッカーフラグを振った。

瞬く間に勝負はついた。1位、詰まり、優勝は伝子、二位はなぎさ。三位はあつこだった。

「お疲れ様。」と久保田管理官が三人に言った時、サイレンが鳴った。斉藤理事官がホイッスルを鳴らし。レースに参加していた伝子達や観覧していた高遠達は集まった。

理事官が言った。「文字通り、緊急事態だ。草薙。報告を。」「小学校でライフルを持った高校生らしき男が立てこもったようです。」

「草薙。ミラクルスリーの皆さんをご案内して。実は、大文字君、EITOのベースはこの地下にある。レクレーションを許可したのも、その為だ。」

「ミラクルスリー?」「有能自衛隊員の橘二佐、有能警察官の渡辺警視。そして民間起用のリーダーでありアンバサダーの大文字伝子君のことだ。草薙。3人を案内して。」

続いて久保田管理官が「大文字探偵団の諸君は一旦解散して帰って下さい。私たちは現場に向かおう。」と、言った。

依田の車。「ごめん、ヨーダ。」「高遠、運転免許持って無かった?」「ペーパードライバー。」

福本の車。「高遠は苦労して運転免許を取った。でも、運転する機会に恵まれ無かった。だから、ペーパードライバー。」と福本は後部座席の蘭に言った。

「取ってすぐ乗り回さないと慣れないんだ。」「私もすぐ乗り回したクチね。」と祥子が言うと、「私も。」と後部座席の慶子が言った。

「蘭ちゃん、運転免許取るんなら、乗り回さないとな。でないと、高遠みたいになる。」

久保田警部補の車。「愛宕、状況は?」「逃げ遅れたと思われる生徒が約50人。教師もいます。たまたま門の近くにいた生徒が跳弾で怪我をしましたが、病院で手当を受けています。」

EITO本部。

「ちょっと変わったが、殺風景だな。理事官。この際メンバーを紹介して貰えませんか?」伝子は言った。

「いいとも!」と理事官は大声を上げたが、静まりかえった室内の雰囲気と伝子の冷たい視線を感じて、言葉を続けた。

「自衛隊というよりは、防衛省傘下の『自衛隊指揮情報支援隊』とか『自衛隊情報保全隊』という組織とは別に作られた、陸将直下の組織があった。一方、副総監襲撃事件を受けて、警察の警視副総監直下の組織も発足した。両者を融合させた組織がEITOだ。前に君に話したかどうか定かでは無いが、ツートップは『テロ対策組織』が無いことが、テロリストの活動天国になっていることをかねてから懸念されており、新たに結成された。」

「そうでしたか。」「で、メンバーだが、警察側がハッカー担当草薙事務官、警視庁交通課担当の河野事務官、警察庁刑事局組織犯罪対策部、いわゆるソタイとの通信担当の遠藤研一事務官、いわゆるマトリとの通信担当の菅沼巡査部長、警備局直属の上島警部。そして、遊軍の渡辺警視。」

斉藤理事官は伝子の様子を見て、続けた。「陸自探索システム担当の渡一曹、海自と海上保安庁との通信担当の鳩山二曹、空自との通信担当の沖三曹、在日米軍との通信担当の加護准尉、外務省との通信担当の川辺通信事務官。そして、遊軍の橘二佐。以上だ。民間起用は大文字君のみだ。」

「了解しました。ライフルの持ち主は分かっているんですか?」と伝子が尋ねると、自衛隊の探索システムでIDが分かりました。IDの持ち主は三上宗一郎と判明しました。ですが・・・。」という渡に続いて、河野が説明した。

「警察官の聞き込みで、宗一郎は海外出張中。息子の颯太かも知れません。受験に失敗して荒れていたそうですから。」

「犯人への連絡は?」「柴田管理官が学校の体育館の電話にかけていますが、犯行声明は既に送ってある、と言っているそうです。」

「三上はどこの受験に失敗?」「東大です。」「面白い。」「併願は?」「早稲田です。」「面白い。」「アンバサダー。よく分からないんですが。」「両方の大学に問い合わせてくれ。犯行予告が来ていないか。」「宛名は総長かも知れないし学長かも知れない。事務長かも知れない。多分、不合格を誰に訴えたらいいかよく分かっていない。」「了解しました。」

「学校の見取り図は?」「そこのスクリーンに。」「どこからでも入れそうだな。」

「あれ?柴田管理官の横にいるのは、民間人?」と上島警部が言った。

「鈴木校長じゃないか。何で?」「お知り合いですか?」と上島が伝子に尋ねた。「ミニ運動会の事件でね。」

「鈴木さんは、義憤だとか言っているようですね。あ、久保田管理官が到着されましたね。」「作戦本部の電話に繋いでくれ・・・久保田さん。鈴木校長にネゴシエーターをして貰いましょう。」

「え?そんな・・・何か考えが?」とスピーカーから久保田管理官の声が流れた。「動機を探る迄の時間稼ぎです。今、候補に挙がっている動機は受験の失敗です。東大と早稲田です。それを鈴木さんに伝えて下さい。」「了解した。」と久保田管理官は電話を切った。伝子は高遠に、いや大文字探偵団にLinenで指示を送った。

「渡さん。人質は?」「約50人。教師を含めて。体育館ですね。」「50人?」「逃げ遅れた生徒と教師達ですね。」

「なぎさ。煙幕弾、用意出来るか?それと、衣装がいるな。」「衣装?」「ミラクルスリーのだよ。それは、みちるに頼もうか。」伝子はLinenでみちるに指示を送った。

伝子は三上颯太のPCを特定し、通信履歴で犯行計画を探るように草薙に依頼した。

「喜んでー。」と草薙は居酒屋の店員のような返事をした。

「上島警部。柴田管理官と犯人のやり取りは録音されていますか?」「勿論。」「再生して下さい。」

「君の要求を聞こう。可能かどうかは聞いてみないと分からない。とにかく教えてくれ。」「合格を認めて欲しい。それだけだ。」「まるで、政府の『学問会議』に選ばれ無かった学者みたいだな。その要求を既に送ったというんだな。」「そうだ。」「誰に送ったんだ。」「大学宛てだ。」「それじゃあ、決定権のある人物に届かなかった可能性がある。それは考えなかったか。」「・・・。警察から、その決定権のある人物を呼んでくれ。」

会話は途絶えた。「草薙さん。今の犯人の声。」「くぐもってましたね。新しいノイズキャンセラーアプリを試してみましょう。警部。今の音声。電子ファイル化してありますよね。」「分かった。送るよ。」

数分後。草薙は音声を再生した。

「君の要求を聞こう。可能かどうかは聞いてみないと分からない。とにかく教えてくれ。」「合格を認めて欲しい。それだけだ。」「まるで、政府の『学問会議』に選ばれ無かった学者みたいだな。その要求を既に送ったというんだな。」「そうだ。」「誰に送ったんだ。」「大学宛てだ。」「それじゃあ、決定権のある人物に届かなかった可能性がある。それは考えなかったか。」「・・・。警察から、その決定権のある人物を呼んでくれ。」

「女の声だ。河野さん、聞き込みをしていた警察官を呼び出してください。」と、伝子は河野に依頼した。「はい。」

数分後。「はい。」「颯太の母親のことを調べて下さい。」「了解しました。」警察電話は切れた。

「おね・・・アンバサダー。これを見て下さい。」とあつこが自分の席から呼んだ。

PCの画面には、三上颯太のデータが出ていた。「三上薫。教師。半年前に夫と離婚、か。」

「アンバサダー。これを見て下さい。」と今度は河野が呼んだ。

「三上颯太のデータですが、卒業した小学校が、この小学校ですよ。」「そうか。」

伝子は直ちにLinenで高遠に電話した。「颯太の卒業した小学校が、その小学校だ。鈴木さんに、そのことを踏まえた話をして貰え。」そう伝えると、上島警部に頷いた。

再び繋がった本部と犯人の会話は鈴木校長と犯人のものだった。「君がこの小学校を選んだのは、ひょっとしたら、君の母校なのかな。私もねえ。一番思い入れが強いのが小学校なんだよ。否定しないね?じゃあ、やっぱり母校なんだ。小学校の時は、どんな思い出があったのかな?運動会?遠足?いや、やっぱり友達と冒険めいたことしたことだよね、親に内緒でさ。」

「なかなかやりますね、あの校長。」と草薙が感心した。

小学校現場対策本部。

高遠が書いたメモを福本がテレビのADのように『カンペ』を鈴木に見せていた。

パン屋の配給車。

「済まないな、いつも。」「いや、お安いご用ですよ。子供達は型崩れのパンなんて気にしないだろうし。多少冷えても、思わぬ『おやつ』にありつけるんだから。」「そうだな。」物部とパン屋は笑い合った。

依田の車。

「大ジョブう。叔父の知り合いのパフォーマンスやってる人にばっちりレクチャーして貰ったから。私、初任務ね、俊介の未来の妻で良かった。」と慶子ははしゃいだ声で言った。

「まだ始まってないけどね。」と依田は話を流した。

福本の車。隣に乗っているのは蘭。後部座席に乗っているのは、事件のあった、みなぎる小学校の校長、佐東。「事情は分かったけどねえ。事件解決してからでいいんじゃないの?」「それでも。教育者か!恥を知れ。」

「蘭。言葉が過ぎるぞ。でもね、佐東校長。他校の校長が犯人に説得しているんですよ。本来はね、あなたの役目でしょう。生徒が50人も捕まっているのに、何とも思わないんですか?普段、いじめがあっても、『いじめは報告を受けていない』って白を切るタイプですか?ばれますよ、いずれ。」

佐東校長は、文字通り狸寝入りをした。

EITO本部。

河野がため息をついて報告をした。「大学側はいたずらとみなして処理してしまったようです。犯人説得に協力を要請したのを蹴ったそうです。」

「叔父がかんかんに怒っていたわ。事件解決後、告発してやるって。人命がかかっているかも知れないのに。」とあつこは言った。

1時間後。作戦は決行された。

現場対策本部。

「私は東大学長だ。君の無念はよく分かった。どうだろう。二科目だけ『推薦入試扱い』で再試験というのは。合格は出来ても、入学は出来ない。それは理解して貰えるよね。でも、合格すれば君の『名誉』は残る。『永久』にだ。勿論、私の一存では決められない。特殊な環境での受験になるだろう。考えてくれないか。」

東大学長に化けていた?福本日出夫は電話を切った。「役者さんですか?」と鈴木校長は言った。「いやいや、本職の教育者のようには行かず、申し訳ない。久保田管理官の知り合い、とだけ名乗っておきましょう。」

「お疲れさまでした、はまだ早いですね。」と高遠が微笑んで日出夫を労って言った。

小学校校内。3方向から、『赤い扮装』をした者が電動キックボードに乗って体育館に近づいた。どこからか、煙幕弾が投げ込まれた。

そこにいる全員がむせ返った。ある子供が叫んだ。「あ。忍者だ!!」その忍者の一人は犯人が持っていたライフルの銃身を簡単に持ち、捻って、犯人をライフルごと倒した。犯人は2人組だったが、そちらも難なく倒した。

他の忍者が叫んだ。「そっちの忍者の方に逃げて。出口よ。」

子供達も教師達も一目散に走った。それを確認した2番目の忍者が2人の犯人の手にロープをかけた。忍者達が立ち去ると同時に警官隊が突入した。みちると愛宕がロープを解き、改めて手錠をかけた。「逮捕する理由は分かっているわね、三上薫さん。」とみちるが言った。他の警察官は辺りを調べ始めた。

現場対策本部。

久保田管理官がテレビの記者会見を行った。「今回、怪我人が出たことは事実ですが、どうやら犯人の誤射のようです。今回犯人と交渉をして頂いた、民間起用で有名な鈴木善行校長と、この小学校の佐東校長です。」

「ご紹介頂きました鈴木です。実は、懇意にしている佐東校長に代理を依頼されましてね。本校の生徒の為に、より多くの生徒が還って来るよう説得してくれ、と。高熱で依頼されたら出張らない訳にはいかなかったのです。警察の方も、高圧的と身構えられて犯人を刺激するするのはいかがなものかという意見があったようで、快く承諾頂いたので、懸命に説得し、『投降』に至りました。では、佐東校長。」

「佐東です。生徒49名。教師3名。無事生還出来たのは、私が代理を依頼した鈴木校長のお陰です。今回は幸いテロリスト事件ではありませんでしたが、鈴木校長のお勧めもあり、警備会社と新たに提携し、安心安全な学校生活を生徒達が送れるように努めたいと思います。」

まだ何か言いたげだった校長だったが、久保田管理官が遮り、「今回の事件の動機その他不明な部分が残っているので、詳細が判明次第、改めて記者会見を致しますので、記者諸君はこれでお引き取り願いたい。」

小学校裏門。

教師が生徒達と出て行こうとすると、タイガーマスクのマスクを被った男二人がレンタカーのワゴンから出てきた。

「驚かして済まない。子供達にパンを届けに来ました。校長先生に頼まれました。」

パン屋のタイガーマスクはパンとミルクを配り終わると、さっさと車に戻って去って行った。唖然としている教師と生徒達だったが、すぐに父兄の迎えの車が来て、教師達は見送った。

翌々日。

「見たか?週刊近代号外。『高学歴大学の傲慢』だって。タイミング良すぎない?」

「鋭いわね、珍しく。依田さんにしては。」「依田さんにしては?え?すると?」

「大学に折衝したのは、副総監の叔父。おねえさまに依頼されてね。『こちらに落ち度がある証拠は?』だって。犯人と交渉する為に出てくれって言っただけなのに。おねえさまに。もしもの時は『好きにしてくれ』と言われたから、こうなったのよ。ざまあ見ろよ。あら?はしたなかった?」そこにいる皆は首を横に振った。

「よくこんな短い時間で・・・まさか、高遠。」「ああ。校長達の原稿作ったのも僕。週刊誌の号外の文章書いたのも僕。」

「高遠、念のため聞くが、ギャラは?」「ない。」「夫婦揃ってノーギャラ。ボランティアが過ぎるぞ。」と物部が言った。

「そこが高遠。そこが大文字伝子先輩。」「でも、面白かった。高遠さんが書いた原稿をバケツリレー。動画撮っとけば良かった。あ。そんな暇無かったか。」と福本夫妻が言った。

「間に合って良かったわ。みちるさんからの指示で、衣装はすぐ届いたけれど、忍者の着付けすることになるとは思わなかった。」「慶子さんがおんな忍者、『くノ一』にしたの?先輩達を。」「そうよ、蘭ちゃん。叔父が忍者パフォーマーを知っていたの。その人のレクチャーをテレビ電話越しで受けて、着付け。」

「お兄ちゃんはどこにいたの?」「事件を知った、僕の言ってる学校の先生達が遂に立ち上がってね。学校のセキュリティをちゃんとしろ、ってデモした。で、参加した。この間もアメリカの中学校で高校生が銃乱射事件起こして何人も死んだじゃない?」

「日本はザリン事件が起きた国だ。地下鉄に限らずどこでもあんな事件やテロが起りうる。」いつになく伝子は静かに言った。

「すいません。今回もお役に立てなくて。」と山城が恐縮して言った。

「気にするな。」と伝子が笑った。「それで、愛宕。本物の息子は亡くなっていたんだな。」「ええ。事件の前に。餓死です。遺書に『離婚の後のノイローゼ』について言及していたそうです。情状酌量の余地が大きいようですね。」

「心神耗弱ってやつか。学力で落ちたんでなく、離婚が原因か、不合格は。離婚の原因は?」「教師である薫が無理矢理高学歴大学に進学させたがっていた。父親はついていけなかった。」「修羅だな。」という物部と愛宕の会話に、「大学に入れば人生観は変わったかも知れないけど、色んな人に出会って。救われない話ね。」

「あ。今度運転免許とることにしたの。皆、実地訓練よろしくね。」と蘭が言った。

「生命保険に入ろうか。」と依田が慶子に言った。

「僕たちもね。」と福本が祥子に言った。

「俺たちもな。」と物部が栞に言った。

「私たちも。」とあつこが久保田警部補に言った。

「僕たちは入ってたっけ?」と愛宕がみちるに尋ねた。

「私たちは入っている。」と伝子が言った。

「私は自衛隊に入った時に入っている。」となぎさが言った。

奥から綾子が出てきて言った。「何?生命保険の話?知り合いに保険屋さん、いるわよ。」

「お義母さん、タイミング良すぎですよ。」と高遠が言い、皆が爆笑した。

―完―


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