「――それじゃ失礼しまぁ~す」
「おう。もう問題起こすなよ?」
「へ~い」
生徒指導室に籠り続けて3時間。
時刻は午前12時前。
ようやく反省文と言う名の魂の牢獄から解放された俺は、ピシャリッ! と生徒指導室のドアを後ろの手で閉じながら「んん~っ!」とその場で大きく背伸びをした。
バキボキッ、ポキンッ! と体からラップ音まがいの心地よい音色を奏でながら、ふと周りを見渡すと、渡り廊下の向こう側から見知った顔が姿を現した。
パターン青、猿野元気ですっ!
「お~い、げん――」
き、と奴の名前を口にしようとした俺の唇が緊急停止。
何故なら、向こうからやって来たのは我が
我が視界の先、そこには。
「な、なぁ2人とも? 周りの視線も痛いし、歩きづらいから、ちょっと離れて歩いてくれへんか?」
「そこの小娘が今すぐ猿野から離れるのであったなら、ワガハイも考えてやらんコトもないぞい?」
「嫌っす! 宇佐美センパイがダーリンから離れるまで、自分は絶対に離れないっす!」
俺の視界の先、そこには……困った顔をしつつも顔をデレデレさせる我が親友、猿野元気と、そんな元気を取り合うように左右の腕に抱き着いて睨み合っている女子生徒が2人。
元気の彼女である司馬葵ちゃんと、昨日元気にフラれたばかりのマッドサイエンティスト、宇佐美こころ氏、その人たちである。
「大体、宇佐美センパイは昨日ダーリンにフラれたんっすよね!? だったら潔く諦めてくださいっす!」
「ふんっ、まだまだ青いのぅ小娘?『フラれたから諦めなければいけない』なんて、誰が決めた? 日本国憲法に載っておるのかぁ? おぉっ?」
「そ、それは……載ってないっす。け、けどっ! ダーリンはもう自分の
「簡単に諦めきれる恋なんぞ、そもそも最初からやっとらんわ」
「ま、まぁまぁ2人とも? ちょっと落ち着きぃや? なっ?」
頬を膨らませたまま、むぎゅ~っ! と元気の腕に絡みつく、司馬ちゃんとうさみん。
そんな2人に常識的なコトを言いつつ、これでもかと言わんばかりに鼻の下を伸ばす我が親友。
全力全開で我が身に降りかかるラブコメ展開を、心の底から楽しんでいるのが簡単に見てとれた。
いやぁ、人間って凄いよね?
一度
見ていて反吐が出そうだよ♪
「おいおい、なんだアレは? 生物兵器か? 超えちゃいけないラインくらい考えろよ! ここは法治国家なんだぞ!?」
「んっ? あっ、おーい相棒ぉ~っ!」
ごくごくナチュラルに女の子にお触りしているクソ野郎が、俺に声をかけてくる。
途端に元気の腕に引っ付いていたパツキン巨乳が「ゲッ!?」と露骨に表情を歪めた。
ここでコイツらに動揺を悟られるのは何だか負けた気がするので、俺は奴の関節をへし折りたい衝動をグッ! と
「お、おう元気。それに司馬ちゃんとロリ巨乳も。こんな所でどうしたよ? クラスで森実祭の準備をしてたんじゃねぇの?」
「それがなぁ? ハニーと宇佐美はんが喧嘩し始めて、五月蠅いからって追い出されてしまったんや」
弱ったなぁ……と情けない顔を浮かべる元気だったが、その表情はどこか嬉しそうで――クソがっ!?
なんだコイツは?
『ぼくチンこんなにモテるんですよ?』アピールですか?
プレイボーイのつもりですか?
イタリア人のつもりですか?
そんな純日本人体型をしているクセにッ!
ファ●ク、ファ●ク、ファァァァァァ●ク!
と言ってやりたい気持ちをグッと堪えて、俺は「追い出された?」と話しの続きを促した。
「そうなんや。ワイが野郎共と教室で森実祭の準備を進めとったら、ハニーと宇佐美はんが急に押し寄せてきてなぁ。ワイの腕を取り合って大岡裁きよろしく喧嘩し始めてしもうて、もうしっちゃかめっちゃかやったわ」
「だって! 宇佐美センパイがダーリンの腕に抱き着くからっ!」
「この小娘がワガハイと猿野の恋路を邪魔してくるのが悪いんじゃっ!」
そう言って再び元気を挟んで睨み合う、司馬ちゃんとうさみん。
へぇ~、ソイツは素敵なテロリズムだね♪ と、口からまろび出そうになった言葉を俺は慌てて飲みこんで「へぇ~、それは大変だったね」と毒にも薬にもならない教育番組のお姉さんみたいな台詞を吐いた。
司馬ちゃんとうさみんの視線が、バチバチと空中でぶつかりあう。
……ところでコイツら、何で俺の前にやって来たの? 嫌がらせ?
「もう聞いてくださいよ、大神センパイっ! 宇佐美センパイったら酷いんすっよ!? 自分とダーリンの
「ハンッ! 誘惑なんぞしとらんわ。ただ自然と
「んなっ!? 自分だってチンチクリンのクセにぃ~っ!」
「ち、チンチクッ!? ~~~~ぅぅぅっ!? 小娘めぇ~~~っ!?」
ふぎぎぎぎぎっ!? と、まるっきり俺のことをガン無視し始める2人。
……俺は今、一体ナニを見せられているんだ?
「うさみん、まだ元気のコト諦めてなかったのかよ……? もうフラれたっ
「……確かにワガハイは猿野にフラれた。じゃがな? 1度フラれたくらいで諦めるような、ヤワな女ではないわっ!」
あのクソ野郎に関白宣言ならぬ『セフレ宣言』をされたにも関わらず、その想いは微塵も変わっていない。
逆に凄いわ、尊敬するわ。
「それに、諦めなくていいのは『女の子の特権』なんじゃよ?」
そう言ってニヒッ♪ と笑うマッドサイエンティストの表情は、どこか晴れ晴れとしていて、見ていて気持ちがいい笑顔だった。
……まぁ代わりに司馬ちゃんがとんでもなく怖い顔をしているんだけどね?
「ふざけるんじゃないっす!? なにが『諦めなくていいのは女の子の特権』っすか!? 諦めてください! 潔く諦めてくださいっ!」
「キサマこそ、いい加減ワガハイが諦めるのを諦めろ」
「ふんぬぅぅぅ~~~っっ!?」
「ま、まぁまぁ2人とも? 落ち着きぃや? そ、そういうコトやから相棒、ワイはちょっと席を外すで?」
元気が猛獣使いさながらの動きで、猛り狂う司馬ちゃんとパツキン巨乳を引きつれて、廊下の
そんな奴の忌々しい後ろ姿を、黙って見送っていると。
――ぽんっ。
と、何者かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこには――我が2年A組男子一同が菩薩のような微笑みを浮かべて立っていた。
「大神……」
先頭に居たアマゾンが爽やかに微笑みながら、そっと俺に向かって1枚の純白のブリーフを差し出してくる。
もう俺たちの間に言葉はいらなかった。
俺はソレを同じく微笑で頷きながら……しっかりと握りしめた。
「じゃあ、
俺の合図に全員が小さく頷いて……手に持っていた紙袋を頭に装着した。
そして俺たちは、あの【なろう】主人公もビックリの『女たらしクソ野郎』を瀬戸内海のお魚さんの晩ゴハンにするべく、ブリーフ1丁になりながら廊下を全力で駆けだした。