よこたん「今日はウサミさん、ウチに泊まるから心配しなくて大丈夫だよ!」
シロウ「いいなぁ、俺も泊まりに行っていい?」
よこたん「ダメです!」
よこたん「男子禁制です!」
◇◇
よこたんとラインで軽く連絡を取りながら、俺はある目的地に向かって足を進めていた。
時刻は午後7時ちょうど。
芽衣たちと別れて、もうすぐ30分が経とうとしていた。
俺は家路に着くことなく、森実駅前まで移動し、すぐ脇に設置されている運動公園の中へと足を踏み入れた。
遊具コーナーへとまっすぐ進むと、すぐさま古びたブランコに腰を下ろして
「よっ、やっぱここだったか」
「相棒……」
らしくもなく思いつめた表情でブランコに乗っていた我が
名前の通り元気だけが取り柄のくせに、全然元気がない親友の隣のブランコに腰を下ろしながら、キィッ! と軽く
「おまえ、悩み事があると決まってこのブランコに来るよなぁ」
「ええやろ別に。ここが落ち着くんやから」
さっきの事がやはり尾を引いているのか、妙に言葉がトゲトゲしい。
おいおい、トゲトゲし過ぎだろ? サボテンかおまえは? と普段ならクソくだらないことを口にしてお茶を濁すのだが、今回はやめておいた。
「……相棒は知っとったんか?」
「何が?」
「宇佐美はんの気持ちにや。宇佐美はんがワイのことを、その……好きやってことに」
「まぁな。と言っても、俺も最近知ったんだけどな」
ブランコの錆びついた音と元気の呼吸音だけが、園内に響き渡る。
キィコ、キィコッ! と、今にも壊れてしまいそうな不安な音色を奏でるブランコと
「なぁ相棒……宇佐美はんはいつからワイのことが好きやったんやろうか?」
「中学の頃からだってよ」
「そんなに前かぁ……気づかんかったなぁ」
「後悔してんのか?」
元気が1度だけ俺の方に視線を向けるが、すぐさまフイッと地面へと伏せてしまう。
そして俺の問いに答えることなく、胸に溜まった濁りを吐き出すように、
「……ワイはどうしたらええと思う? どれを選ぶのが正解やと思う?」
と言った。
「分からん」
「テキトーやなぁ……。これでもワイ、結構真剣に悩んどるんやで?」
「知ってるよ。何年の付き合いだと思ってんだ?」
それでも俺の答えは変わらない。
「分からんものは、分からん」
「そうか……」
俺の答えを聞いて、どこか安心したように苦笑を浮かべる元気。
多分どんな選択をしようが、コイツは後悔するだろう。
だから今、俺が言えることは1つしかない。
「俺はさ、人生において『正しい選択』なんて無いと思うんだ」
「どういう意味や?」
「つまりさ、確かに俺たちの人生には無数の選択肢があるにはあるが、その選択肢の中には正しい選択肢なんざ、
「なら全部間違いなんか?」
「いや違う」
俺は大きく息を吸い込んで、夜風に身体を磨かれながら言った。
「ようは選んだあとで、ソレを正しいモノに変えていくんだよ」
「正しいモノに……変えていく」
「俺はそう思っている」
元気やうさみん、よこたんに芽衣。
コイツらに出会ったことが間違いだと言われたくないし、思われたくない。
だから俺たちは、選び取った選択肢を正しいモノへと変えていくんだ。
「……よくもまぁ、そこまで前向きに物事を捉えられるもんや」
「そうでも思ってないと、このクソッたれな人生という名のRPGなんざ、やってられっか」
「後ろ向きに前向きやのぅ。流石は相棒や」
元気の頬に一輪の花が咲いた。
俺の気持ちがどこまて伝わったのかは分からない。
でも、もうそこにはさっきまで悩んでいた親友の姿はなかった。
「『正しい選択肢』なんざ
「芽衣の家。たぶん女子会でも開いてんじゃねぇの?」
「それだけ聞ければ充分や」
元気はブランコから勢いよく立ち上がると、ゴキゴキと凝り固まった関節を解きほぐすように、大きく背伸びをした。
そんな親友の背中を眺めながら、俺は無作法に背後から声をかけた。
「どこ行くよ?」
「宇佐美はんのトコロ」
「会ってどうするよ?」
「綺麗さっぱり振ってくる」
元気の瞳に光が灯る。
心はボロボロのくせに、瞳だけは爛々と輝き、生命力に満ち満ちていた。
こうなったら、もう誰もコイツを止めることは出来ない。
「ぶん殴られるぞ?」
「やろうな。でも、これがワイに出来る精一杯の『正しい選択』や」
ぶん殴られて、それでまた友達になってくる。
笑顔満開でニカッ! と答える我が親友。
自己中極まりない選択ではあるが、何故か俺は誇らしい気持ちになった。
「そんじゃま――行ってくるわ!」
元気はもう振り返ることもなく駆けだし、夜の町へと消えて行った。
そんな元気の姿を最後まで見届けながら、ヘンテコリンな形をしたお月様を見上げた。
親友の居なくなった公園で、しばしの間、静寂を楽しむように耳を澄ませながら、俺はゆっくりとブランコから立ち上がる。
……そろそろかな。
「さてっと……それで? 俺の用件はこれで終わったワケだが、そちらさんの用件はまだ終わってないんだろ?」
「――気がついとったか、さすがは喧嘩狼ぜよ」
男の声がすぐ傍の茂みから聞こえたかと思えば、ガサガサと真っ白な制服に身を包んだ男達が姿を現した。
その数、目算でおおよそ10人。
いや、まだ茂みに隠れている人数を計算したら、30は居るのではないだろうか?
「そう心配せんでも、ワシが命令しない限りは誰も襲わんぜよ」
と、男達の先頭に立っていた中学生くらいの小さな男がそう口にした。
暗闇で見づらいが、中々に顔立ちの整った色男である。
が、問題はそこではない。
「その制服、おまえらが最近ウチの生徒に手ぇ出しているって噂の九頭竜高校の連中か?」
「んんっ!? はふぅ……生で聞く喧嘩狼の声……やっぱり最高ぜよ」
「おまえら一体何者……はぁ?」
突然ブルブルと身体を震わせたかと思えば、今度は恍惚とした表情を浮かべる小さき男。
唇の端からヨダレを垂らし、瞳を潤ませながら、クネクネと股間を擦り合わせる。
と、そこで俺は重大な事実に気がついた。
あ、あれっ!?
こ、この男……まさか!?
「おっと自己紹介がまだやったな。ワシは4年前にアンさんが潰してくれたカラーギャングの元一員で、今は九頭竜高校の頭を張らして貰っとる
そう言った色男、鷹野の股間には……立派なテントが設立されていた。