俺がノンケの世界からバイバイキンする寸前、勢いよく開かれる個室ドア。
弾かれたように俺たちがドアの方へと意識を向けると、そこには森実高校の女子制服に身を包んだ、ポニーテールが可愛らしいスレンダーな美少女が立っていた。
猿野元気のガールフレンド、司馬葵ちゃんが立っていた
「司馬ちゃん!?」
「な、なんでここに!?」
困惑する俺とよこたんの言葉を無視して、司馬ちゃんの瞳は今にもキスしそうな俺と元気をロックオン!
そのままブワッ! と自慢のポニーテールを逆立てながら、ズカズカと部屋に踏み込んできて、
――ぐいっ!
接近していた俺と元気の身体を無理やり引き離した。
「まったくっ! 嫌な予感がしたから来てみれば、案の定っすか。無事っすか、ダーリン!?」
「マイハニー? 部活はどうしたんや?」
「胸騒ぎがしたんで、今日は休んだっす!」
「それよりもぉ」と司馬ちゃんはジロリッ! と真っ直ぐ俺だけを睨みあげてきた。
その敵意の籠った瞳からは、ほんのり殺意の香りが漂ってきて……おいおい?
もしかしなくても惚れられたかもしれない。
「前々から大神センパイは怪しいとは思っていたんっすよ!」
「えっ、なにが?」
「しらばっくれてもムダっすよ。センパイは自分からダーリンを寝取ろうとしてますね!? そうはさせないっすよ!」
ビシィ! と宣戦布告でもするかの如く、俺を指さしながらハッキリとそう口にする司馬ちゃん。
……うん?
この子は一体ナニを言っているんだい?
「寝取る? 誰が? 誰を?」
「
いや、正直節穴だと思う。
「ダーリンは絶対に誰にも渡さないっすよ!」
「ん? ちょっと待って? ということは、アレかな? 俺は前々から司馬ちゃんに『ノンケだって構わない、むしろ興奮するわいっ! ガッハッハッハッ!』と高笑いしてそうな、生粋のハードゲイだって思われてたってこと? なにそれ? イジメかな?」
「下僕1号……キサマ、そうじゃったんか? キサマも猿野のことが……。ということは、ワガハイの敵か!?」
「んなワケねぇだろ、おっぱいオバケ! 誰のために俺がここまで骨を折ってると思ってんだ!? その乳揉むぞ、このメスブタ!?」
司馬ちゃんに続いて、うさみんの身体からも殺意の波動が
その殺意の瞳は完全に俺をロックオン・ストラトス♪
おいおい、なんだその目は?
俺がおまえのために、どんだけ骨を折ったと思ってんだ?
と逆に不満気な視線をうさみんにぶつけようとして。
――ゾクリっ。
「ッ!?」
「あらあら、面白いことを言いますね士狼は?」
「誰が、誰の胸を揉むのかな? もう1度言ってみてよ、ししょー?」
突如、両隣から胃が縮み上がるような冷たいバイノーラル音声が、我が耳に垂れ流された。
えぇっ、もう確認するまでも無いですね。
我が校きっての美人姉妹、双子姫さまですね♪
ありがとうございますっ!
「い、いや違うよ? 今のは言葉の綾ちゃんで、ね? 分かるでしょ? ねっ?」
「「ふぅぅぅ~ん。へぇ~~~。そう……」」
心が壊れるかと思った。
えっ? 人間ってこんな冷たい声が出せるモノなの?
待ってくれ、本当に違うんだ!
森実高校ナンバーワン紳士であるところの俺が、そんなハレンチ行為をするワケがないだろう?
……まぁ向こうからせがまれたら、やぶさかではないんだけどね!
「ふぅぅ~ん。せがまれたら、やぶさかじゃないんだ?」
「あの芽衣さん? ナチュラルに人の思考を読まないでくれます? あと、よこたん? 師匠の足、踏んでるよ? ……なんでさらに体重をかけるの? おバカさんなの?」
若干、生徒会長の仮面が剥がれ落ちている芽衣と、無言で俺の足を踏む、よこたん。
お、おやおやぁ~?
「あ、あの2人とも?」
「「なに?」」
「そのぅ……なんか怒ってます?」
「「別に」」
まるで機械の合成音声かのように、温度の感じない無機質な声音でそう吐き捨てる古羊姉妹。
もうね? 目が濁ってるとか、そういうレベルじゃないの。
暗闇だよ、暗闇!
人間って、あんな目ぇ出来んの!?
「ほ、ほんとに怒ってない……?」
「「怒・っ・て・い・ま・せ・ん(にっこり♪)」」
「ねぇ、打ち合わせでもしたの?」
まるで春の陽気を思わせる、爽やかな笑みを浮かべる2人。
流石は双子♪
息もぴったんこトントン☆
でも何故かな?
俺には2人の笑顔が、背中に向けられた銃口のように感じるや♪
気分はまさにスターリングラード戦のソ連兵である。
帰りてぇっ!
超帰りてぇっ!?
「あっ、あぁ~っ! そういえばオレ、今日、妹から買い物を頼まれてんだったぁ~っ! てへペロ☆ んじゃ、そういうワケでっ! オレ、帰るわ!」
「ま、待てアマゾン!? 俺もその……あ、『あの日』だから、今日はもう帰るわっ!」
混沌とした場の空気に
そのままコミケ始発組のような鮮やかなスタートダッシュで、この場から逃走。
お、俺も乗るしかない、このビックウェーブに!
『立てよ国民!』『アンギャ―ッ!』と言わんばかりの
――グイッ。
「どこ行くんですか士狼?」
「まだお話は終わってないよ?」
「ふぇぇ……」
浮いた腰に抱き着いて、俺を無理やり着席させる双子姫。
2人は今にもキスせんばかりに、萌えキャラ化している俺の耳元へと、その愛らしい唇をそっと近づけて。
「ねぇ士狼? 宇佐美さんの胸を揉むって、どういうこと? もしかして、宇佐美さんのコトを狙ってるの? この間、鹿目さんにフラれたばかりだっていうのに、もう次の女の子を狙ってるワケ? 生来のハンターとして本能なのか、それとも繁殖行動への衝動なのかは知らないけど、ちょっとガッツキ過ぎじゃない? それだからモテないのよ、アンタは。大体あんな脂肪の塊を揉みしだいて、ナニが楽しいの? 言っておくけど、女の価値は胸で決まるモノじゃないから。全体の調和がいかに美しいかで決まるモノだから。だからアンタはもっとスレンダーな女の子にも目を向けた方がいいわよ? ほんと人生の半分を損しているから。分かった? 分かったなら返事は?」
「ねぇししょー、分かってる? 今日のボクたちの役目は、ウサミさんのフォローなんだよ? それなのに、なんでウサミさんを口説いてるの? ウサミさんが好きなの? でもウサミさんはサルノくんが好きなんだよ。初めからししょーには可能性なんて残されてないんだよ。分かるかな? 分かるよね? ……そ、そんなに胸が揉みたいなら、メイちゃんにはナイショで、少しだけなら揉ませてあげてもいい、けど? あっ、違うよ!? これは別にいやらしい意味とかじゃないからね!? ただウサミさんのおっぱいに気をとられて作戦が失敗するくらいなら、ボクのでその……は、発散? すればいいかなって思っただけで、他意はないからね!? ホントだからね!?」
ふたごひめ が のろい の ことば を はいている。
どうする? ▶にげる
にげられないっ!
「いいすか、大神センパイ? いくらセンパイが、昔からダーリンと付き合いがあるからって、自分とダーリンの絆には勝てないんすからっ!」
これがその証拠ッす!
そう叫んだ司馬ちゃんが、俺たちに見せつけるように、元気の首回りに自分の腕を絡めた。
そしてそのまま。
――むちゅっ♪
と愛らしい音と共に、彼女の唇が元気の唇に吸いついた。
瞬間、うさみんが白目を剥いて机に衝突した。