目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第18話 ツンデレ化学部長うさみんと、実況の大神くんと解説の古羊さん

「――こちらαアルファ。聞こえるか軍曹?」

「誰なの軍曹って?」

「この男、存外ノリノリなのじゃ……」

「ほら士狼、ふざけてないで、もっと身体をコッチに寄せてください。2人にバレちゃいます」

「ふざけてないとやってられっか、こんなこと――おっとぉ」




 そう言ってグイッ! と芽衣に腕を引っ張られる俺。


 むぎゅっ! と彼女のハリボテおっぱいが腕に押し付けられると、何故かよこたんの方が「むっ……」と顏をしかめてきた。




「メイちゃん、ちょっと近くない?」

「しょうがないでしょう? 狭いんですから」




 妹の不満気な視線をサラリと受け流しながら、若干耳を赤くした芽衣がツイッ! と目を逸らした。


 うさみんの恋心が発覚してから2時間後の駅前にて。


 俺たちは森実高校から離れて、表通りから少し離れた場所にある落ち着いた雰囲気の喫茶店の前で、身を潜めるように店内を観察していた。


 もちろんお目当てはそこで働いている美人のお姉さん……ではない。




「あっ、居ました! 猿野くんと司馬さんが居ましたよ3人とも!」

「ど、どこじゃ!? どこに居(お)った!?」

「窓際の奥の席です。ほらあそこ」




 そう言って店内を指さす芽衣の視線の先には、喫茶店の窓側の奥の席で元気と司馬ちゃんが楽しそうに談笑している姿が目に入った。


 それと同時に何故かパツキン巨乳に制服の袖をグイッ! と引っ張られる。




「この阿呆あほうが! 尾行する際は障害物を利用するか、もしくは手鏡の反射でターゲットを観察するのが常識じゃろうが! 貴様は義務教育で一体ナニを勉強してきた!?」

「ストーキング以外の一般教養かな」




 ねぇ本物なの?


 本物のストーカーなの、お嬢さん?




「なぁ、やっぱ止めようぜ? なにが悲しくて親友の放課後デートを監視しなきゃならんのだ? 罰ゲームか、コレは?」

「うるさいぞ、下僕1号」

「『敵を知り、己を知れば、百戦殆(あや)うからず』だよ、ししょーっ!」

「情報収集は戦場の基本ですよ、士狼? ソレを怠った者から死んでいくんですからね?」

「キミたちは一体ナニと戦っているんだい?」




 そう俺たちは現在、猿野&司馬カップルのわくわく放課後デート♪ をストーキングしている最中だった。


 なんでも『作戦を立てるにしても、まずは情報が欲しい』ということで、2人を尾行するハメになったワケなのだが……ハァ。




「元気のことが知りたいなら、いちいちストーキングしなくても俺が教えるって言ってんじゃん……」

「ダメですよ、士狼。わたし達が知りたいのは『司馬さんと2人っきりで居るとき』の猿野くんです。男友達と一緒にいる彼ではありません」

「大体、キサマの話は信用ならんのじゃ」

「酷い言われようじゃん、俺」




 まったく、俺が生粋のロリコンだったら今頃、その無駄に発育したお乳様をメチャクチャに揉んでいる所だぞテメェ?


 俺がロリコンじゃなかったことに感謝しろよなっ!


 そんなことを考えていると、近くに居たマイ☆エンジェルが「あっ!」と小さく声をあげた。




「思い出したっ! ここ、この間デート雑誌で紹介されてたお店だよ!」

「なにっ!? 古羊同級生、それは本当か!?」

「うん、間違いないよ。写真映えするカップル専用メニューなんかが豊富に取り揃えてある、人気のお店10選に選ばれていた喫茶店の1つだよ!」

「なるほど。だから目に見えてカップルが多いんですね」




 そう言って「うんうん」と首を縦に振る芽衣。


 どうやらココは、かなり人気の喫茶店らしい。


 その人気っぷりは、お店の外から店内を見ただけでもハッキリと分かるくらい、男女2人組の客が多いのが見て取れるくらいだ。


 アレが全員カップルなのかと思うと、日本の未来が心配になってくるな。


 ……いや、ひがみとかじゃないよ?


 ホントだよ?


 ほ、ホントなんだってばっ!?




「あっ!? シバさんが、サルノくんの手を握ったよ! せ、積極的だぁ~っ!」

「ぐぬぬ~っ!? あの泥棒猫めぇぇぇ~っ! ワガハイの猿野に気安く触るんじゃないわいっ! はっ倒すぞいっ!?」

「さぁ始まりましたっ! 『猿野元気は俺の嫁!』天下一武道会、いよいよキックオフですっ! 実況はわたくし、大神士狼がお送り致します。さて解説の古羊芽衣さん、今後の試合展開と見所はいかがな所でしょうか?」

「そうですね。司馬さんは見た目と同様にガンガン攻めまくるインファイト・スタイルを得意としていますからね。おそらくこの後は見つめ合いながらのキス。からの流れるようなディープキスに展開していくことが予想されますね」

「ディープキスですか……なるほど! これは絶対に見逃せませんねっ!」

「ああああぁぁぁぁァァァァ亜亜亜亜――ッッ!?!?」

「し、しっかりしてウサミさん!? 傷は浅いよ!」




 うさみん、本日3度目の発☆狂♪


 息も絶え絶えのまま爆乳わん娘に寄り添い彼女に介抱されるロリ巨乳。


 その姿は、もはや負け犬のソレっ!




「おぉっと!? 宇佐美選手、まだピッチにすら上がっていないのに、さっそくグロッキーだぁ! これは大丈夫かぁっ!?」

「果たしてここから挽回なるか、宇佐美選手の活躍に期待したい所ですね」

「もうっ!? ししょーもメイちゃんも、ふざけてないで真面目にやってよ!」




 ぷんすこっ! といった様子で可愛く俺たちを叱責してくる爆乳わん娘。


 そんな彼女の胸の中でシクシクと静かに泣くロリ巨乳。


 その度に、制服の上からでも分かるほどのマイ☆エンジェルの柔らかそうなパイパイが、ぐにゅぐにゅ♪ とマシマロのように潰れる。


 いいなぁ、うさみん……。


 そこ変わってくれよ、100円あげるからさ?




「くぅぅっ!? おのれ泥棒猫っ! 飛び道具を使ってくるとは、卑怯なりっ!」

「今のはししょー達が煽(あお)っただけで、シバさんは関係ないんじゃ……?」




 という爆乳わん娘の的外れなツッコミを無視して、白衣のポケットから瓶詰めにされた固形タイプの飲み薬を取り出した。




「コレ以上あの泥棒猫の好きにさせてなるものかっ! 皆の者、突入するぞいっ! これを飲めっ!」

「ナニコレ、うさみん?」

「今日話した、透明人間になる薬じゃ。これで猿野たちにバレずに店内に入ることが出来るぞい」

「おまえマジで1回さ、元気と一緒にノーベル賞とってこいよ?」




 ほんと、こんな所でくすぶっている場合じゃないと思う。


 うさみんは俺、芽衣、よこたんの順で透明人間になる薬を渡していき、率先してソレを飲みこんだ。


 釣られて俺達も薬を飲みこむが、別に対して変わった様子はない。


 う~ん?




「なぁコレ、本当に透明になってんのか? おまえらの姿がバッチリくっきり見えているんだけど? 失敗か?」

「失礼なことを言うでない1号。ワガハイの辞書に失敗と言う文字はない。ちょっとそこの鏡で自分の姿を見てくるといいぞい」




 そう言ってマッドサイエンティストは喫茶店の隣に建っている床屋を指さした。


 俺は素直に床屋の前に飾ってあった鏡の前まで移動し、自分の姿を確認し……てぇ!?




「えっ? えぇっ!? か、鏡に俺の姿が映らねぇ!? なにコレすげぇっ!?」

「うわっ!? ほ、ほんとだよ!? ボクたちの姿が映ってないよ!」

「これは……すごいですね。どういう技術なのでしょうか?」




 よこたんと芽衣も自分の姿が映らない鏡を見て、感嘆の声をあげていた。


 しかもどういうわけか、これだけ大きな声を出して話しているにも関わらず、通行人の誰1人として俺達の方を見向きもしない。


 むしろ俺たちの存在に気づいていないようにすら見える。




「どうじゃ? これがワガハイの発明した『透明人間になる薬』じゃ! 原理としてはワガハイたちの存在を希釈きしゃくさせ、認識を疎外させているのじゃ。だから誰もワガハイたちのことは見えないし、聞こえない」

「ごめん。説明されても、チンプンカンプンだわ」

「と、とりあえず凄いってことは、よく分かったよね!」




 よこたんも俺と同意見らしく「とにかく凄い!」とロリ巨乳をベタ褒めする。


 そもそも、そんな難しい説明、一介の高校生に理解できるワケが――




「なるほど。ようはラジオの電波と同じということですか。わたしたちの周波数と他の人の周波数が違うため、向こうはわたしたちを認識することが出来ませんが、わたしたちは同じ周波数のため、お互いを認識するコトが出来るんですね」

「おぉっ! さすがはお姉さまじゃ! ざっくり纏めるとその通りじゃ!」

「なんで分かるの芽衣さん? ちょっと物分り良すぎない?」




 頭の回転が速すぎて、逆に気持ち悪いわ。


 なんで今の説明で理解できるんだよ?


 理解出来ることに理解できんわ……。




「でも、そうか。今の俺達は一般人には見えていないのか……」

「し、ししょー? どうしたの? そんな悪い顔をして?」

「いやなに? 今後の日本の未来について、ちょっとな」

「一介の高校生には荷が重い案件だよね、ソレ?」




 ジーッと爆乳わん娘の疑わしい視線が俺に突き刺さる。


 おいおい、なんだその目は? 


 まるで透明人間になれるのをいいことに、道行く女子校生の目の前で「いない、いない……ばぁっ!」とか言いながらスカートの中に顔を突っ込んで楽しんだり、女の子の部屋の中でスッポンポンのままラジオ体操第一を敢行する背徳感満載のプレイを満喫しようとしている変態を見る目じゃないか。


 紳士の俺がそんなエキゾチックでジャパンなマネをするワケがないだろう?


 そんな暴挙が許さるのは数多あまたの伝説を打ち立て続けた結果、もはや日本の偉大なる神々の1柱として数えられてもおかしくない生きる神話製造機『江頭2:50』さんくらいなモノだぞ?


 俺とあの人を同列に扱うなんて、おこがましいにも程がある!


 ……ふぅ、さてと。




「ワリィ3人とも、そういえば急用があったのを思い出したわ。スマンが俺はこの辺でドロンさせていただきたく――」

「ただまだこの薬は試作段階ゆえ、4人集まらなければ効果を発揮できないデメリットもあるがのう」

「そんなことだろうと思ったぜ、チクショウ!」




 ふふふっ、忘れてた♪


 ラブコメの女神さまは俺のことが大っ嫌いだってことに、ねっ!


 ほんと世の中、スケベに厳しいです。




「『4人集まらなければ』と言っていましたが、具体的にはどれくらいの距離なら離れても大丈夫なんですか?」

「おおよそ半径5メートル以内であれば問題ないのじゃ」

「じゃあ、みんな離れないように気をつけないとね!」




 5メートルか……彼女たちにバレないように道行くお姉さまの目の前でいきなり全裸になって「OKぃ~♪」とコメントを残しながら高速で腰を振るのは、かなりリスキーな距離だな。


 いや、もちろんやらないけどさ?


 一応ね? 確認をね?




「よし! 準備も完了したことですし、行きましょうか。わたしたちの戦場へ!」




 芽衣の言葉に乙女2人が頷き、俺たちは肩をいからせ、大股で喫茶店へと突貫する。


 邪魔する者は親でもぶったKILLキル覚悟と勢いで、戦場へと続くドアを開けた。






 ――瞬間、元気と司馬ちゃんの熱烈なキスシーンが視界に飛び込んできた。






 刹那、悲鳴すらあげることなくパツキン巨乳が泡を吹いて倒れた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?