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第17話 うさぎはかわいいストーカー

「ぴぎゃぁぁぁぁァァァァ亜亜亜亜――――ッッッッ!?!?」

「だ、大丈夫ですか宇佐美さん!? 気をしっかり!」

「し、白目をいちゃってるよ!? しっかりしてウサミさん!」

「大丈夫かピン……うさみん!? パンツ丸見えだぞ、いいセンスだ!」




 謎の断末魔をあげながらバターンッ! と背後に倒れるロリ巨乳。


 そのまま両手足をくにゃっ♪ と曲げ、瀕死のゴキブリのようにピクピクと痙攣させる。


 う~ん、女の子がしていい格好じゃない。


 あとパンツはピンクだった、可愛い♪


 ちょっとした大惨事だいさんじを前に、古羊姉妹は慌ててロリ巨乳を介抱し始める。


 そして、おまけとばかりに俺の足を踏んでくる。 


 こらこら2人とも? 心配するフリをして俺の足を踏むのは止めなさい?


 体重をかけるんじゃありません、痛いでしょうが。




『脳が壊れりゅぅぅぅぅ――ッッ!?!?』

『ふぁぁぁぁぁぁ――ッッ?!?』

『あぁぁぁぁっっ!? 世界の理不尽さに、血管がはち切れそうだ……チクショウ!?』

『ママぁ――ッ!?』

『これは夢、そう夢なんだ。朝起きたらオレは小学3年生でラジオ体操をしに――(中断)』




 太鼓的な達人の要領で2人に足を踏まれる傍ら、2―A男子のグループラインはこれでもかと言わんばかりに大炎上していた。


 謎の奇声をあげながら連絡が取れなくなっていく仲間たち。


 もはやちょっとしたテロリズムである。




「うぅ……なんで? なんでこんな酷いことをするの……?」

「な、泣かないで宇佐美さん! 悪いのは全部三橋くんなんですから!」

「そ、そうだよ! 悪いのはこんな写真を送ってきたミツハシくんだよ!」




 ジワッ!? と涙の粒を浮かべる号泣ウサギを、優しくフォローしようと頑張る双子姫。


 哀れアマゾン。メンタルにダメージを負いながらも、さらに追い打ちをかけられる始末。


 やめたげて!?


 とっくにアマゾンのライフは、もうゼロよ!?




「うわぁぁぁぁぁぁんっ! ワガハイの猿野が、どこの馬の骨とも知らない女に寝取られたのじゃぁぁぁぁぁ――っ!?」

「元々おまえのモノじゃないけどな」

「どちらかと言えば、今は司馬さんのモノですしね」

「ちょっ、2人とも!? シーッ! シーッ!」




 人差し指を口元にもっていき「言っちゃダメ!」とジェスチャーを送ってくる、気配りよこたん。


 問題ねぇって。うさみんのヤツ、俺らの声が聞こえないくらい自分の世界にひたっているし。


 ロリ巨乳は黄金色に輝く金色の髪をキーッ! と掻きむしりながら。




「なんで? なんで、なんでぇ!? こっちが5年かけて築き上げてきた信頼を、たかだが数か月ちょいの付き合いの小娘に抜き去られなきゃならないんじゃぁぁぁぁぁぁっ!?」




 一通り発狂し終えると、うさみんはゼーゼーッ!? と肩で息をしながらジロリと俺を射抜いぬいてきた。


 瞬間、背筋に嫌な悪寒が走り抜ける。




(ヤバイッ!?)




 その光を失った瞳には見覚えがあった。


 アレは芽衣が暴走する時と同じ目だ!




「う、うさみん? ちょっと一旦落ちつ――」

「……奪い返す」

「えっ? な、何が?」

「だから! ワガハイ、猿野をあの女狐から奪い返すと言ったんじゃ!」




「キャーッ! 昼ドラだよメイちゃんっ!」と黄色い声をあげるマイ☆エンジェル。


 コラコラ? お願いだから、これ以上このマッドサイエンティストをあおるんじゃありません!




「ワガハイは覚悟を決めたぞ1号!」

「覚悟って……どんな覚悟よ?」

「あの司馬葵とかいう若造から、猿野を寝取り返す覚悟じゃい!」




 あぁ、そっちの覚悟を決めちゃいましたかぁ……。


 気づいて、うさみん?


 その先は地獄だぞ?




「猿野に似合う女は、あんなチンチクリンではないっ! ワガハイのような大人の魅力たっぷりの女こそ相応しいっ! キサマもそう思うじゃろ、1号!?」

「えぇ~? もう諦めようぜ、うさみん。初恋はみのらないって言うし、現実を受け入れろって。なぁ芽衣?」

「……誰が決めました?」

「ほら、我らが生徒会長さまもこう言って――うん? あ、あれ? め、芽衣……ちゃん? ど、どうしたの? 急にそんな怖い顔をして?」




『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴッ!』と背後から例の擬音が聞こえてきそうな芽衣の姿を前に、顔が強ばる。


 こ、これはもしや!? 


 嫌な予感に背筋をゾクゾクさせつつ芽衣の瞳を確認すると……彼女はパツキン巨乳とまったく同じ瞳をして、そこに居た。


 暴走特急メイ・コヒツジが――そこに居た。


 ヤバい!? と思った時には、やはりもう時すでに遅く、芽衣は妙に座った瞳のまま、独り言のようにハッキリとこう言った。




「誰が『初恋は実らない』と決めましたか?」 

「か、会長……?」

「わたしも覚悟を決めましたよ、宇佐美さん。1人の女として、微力ながら全力で協力させていただきますっ!」

「お、お姉さま……っ! ありがとうございますっ!」




 いつの間にか「お姉さま」にランクアップしていた芽衣が、うさみんとガシッ! と熱い抱擁を交わす。


 なんで俺の周りにはヤベェ女しか集まらないんだ?


 神様はそんなに俺のことが嫌いなのん?




「ちょっ!? 正気か、おまえら!? 他人の恋路を邪魔するなんて趣味がワリィよ! なぁ、よこたん?」

「ウサミさん! メイちゃん! ボクも全力で応援するね!」

「ブルータス、おまえもか……」




 ちょっと、お嬢さんたち?


 人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死んじゃうんだよ?




「ということです、宇佐美さん。わたしたち3人が全力でアナタをバックアップします!」

「頑張ろうね、ししょーっ!」

「えっ、俺も?」




 またしても勝手に『他人の恋路を邪魔し隊』に入隊させられていた。


 ちょっと勝手に入隊させないでくれます?


 誰かハ●トマン軍曹を呼んで来い!




「安心してください。わたしたちは何があっても、アナタの味方です」

「うん! ゼッタイその恋、成就じょうじゅさせようね!」

「お姉さま、古羊同級生、下僕1号……ありがとう」

「ねぇ、最近の俺の扱い酷くない? 酷いよね? ねぇ?」




 あと、この恋は絶対に成就しないと思うぞ、よこたん。


 古羊姉妹とパツキンロリ巨乳はスッ! とお互いの手を重ね合わせると、打ち合わせでもしていたかのように小さく同時に頷いた。




「天に誓う!」

「我ら生まれた日と時は違えども!」

「フラれる日は同じ日、同じ時を願わん!」

「「「今ここに『桃色乙女の誓い』を宣言する!」」」




 まるで勝鬨かちどきをあげるかのように、天高く拳を突きあげる自称乙女たち。


 そんな狂った誓いを堂々と宣言されても困るんですけど?


 主に元気と司馬ちゃん、そしてとばっちりを受けるであろう俺がね。


 というかおまえら……その誓い最終的にフラれてんじゃねぇか。


 無駄骨じゃねぇか、完全な徒労で終わるのが確定じゃねぇか……。




「さぁ、そうと決まれば1分1秒も無駄には出来ませんよ! さっそく今後の作戦を練り上げていきますよ!」

「「了解ッ!」」




 芽衣の号令と共に、科学部室が作戦司令室へと姿を変えた。


 こうして固い友情で結ばれた『DQNどきゅんの誓い』改め『桃色乙女の誓い』メンバーは、さっそくイキイキと謀略ぼうりゃくを練り始める。


 なんて行動の速いヤツらなんだ……。


 俺はこの日「女3人よればかしましい」という意味を本当の意味で理解しながら、3人の暴走に巻き込まれていくのをただ黙って見守るしかなかった。

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