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第16話 恋はテロリズムのあとで

「――なるほど。つまり宇佐美さんは猿野くんのことが好きだったのに、気がついたら彼には司馬さんという彼女が出来ていて、あまりのショックに泣いてしまったと。そういうことですか?」

「あ、改めて言い直すではない! は、恥ずかしいじゃろうが!?」




 うさみんが泣きやんで30分後。


 事の詳細を理解した古羊姉妹は、科学部室にあった適当な椅子に腰を下ろして、照れるパツキン巨乳をマジマジと見つめていた。




「そ、それじゃ別にししょーに襲われてたとか、そんな事はなかったんだね?」

「??? そうじゃが?」

「ハァ……。つまり、わたし達の早とちりだったって事ですか。紛らわしいですね」




 ようやく土下座から解放された俺が、痛む膝を両手でさすっていると、気まずそうな爆乳わんの声音が優しく耳朶じだを叩いた。




「も、もちろんボクは信じていたよ? ししょーはそんな不埒ふらちなマネなんかしないって」

「ねぇよこたん? なんで目ぇ逸らすの? こっち向きなよ?」

「まぁ確かに、そんな度胸、士狼にあるとは思えませんしね。勘違いしてごめんなさい士狼」

「まったくだ。ったく、全日本ヘタレチキン・ランキング第1位の俺様が女の子を襲うだなんて、そんな恐れ多いこと出来るワケがないだろう?」




 純愛こそジャスティスッ! をキャッチコピーにしている、この俺だぞ?


 嫌がる女の子を無理やりとか……。


 そんな事をしたら体が拒絶反応を起こして爆発四散するに決まっているじゃないか?


 もちろん寝取られなんて、もってのほか


 百合漫画に男の影がチラついただけで発狂する自信がある。


『ヘタレチキン』の称号は伊達じゃない!




「そもそもワガハイがそこのバカに抱かれるワケがなかろうに。バカバカしい。此奴こやつに抱かれるくらいなら、家畜に抱かれた方が100万倍マシじゃ」

「おいおい、ツンデレか? 俺のこと大好きか? おっ?」

「これだけ言われても一切へこたれないししょーも凄いよね……」




 何故か苦笑を浮かべるマイ☆エンジェルを尻目に、急に唇をモゴモゴさせ始めるロリ巨乳。




「だ、大体、ワガハイの『初めて』は猿野にあげると昔から決めて……(もにょもにょ)」

「あっ? 声がちいせぇよ、なんだって?」

「な、何でもないわいっ!」




 突然犬歯剥き出しで、俺に食って掛かってくるロリ巨乳。


 その顔は見ていて心配になるほど真っ赤で……なんだコイツは?


 情緒不安定か?


 自律神経失調症か?


 ただラブリー☆マイエンジェルはパツキン巨乳の言いたいことを理解したようで、何故か同調するように「うんうん」と頷いていた。




「分かる、分かるなぁ~。やっぱり『ハジメテ』は好きな人としたいよね?」

「う、うむ。さ、猿野には言うでないぞ? 恥ずかしいから……」

「サルノくんのことが本当に大好きだったんだね、ウサミさん……。うぅ……一途でいい子だよぉ!」

「な、何故キサマが泣く!? 泣きたいのはワガハイの方じゃい!」

「だってぇ~……」

「あぁもう、洋子ったら。相変わらず涙脆(なみだもろ)いんですから。ほら、これで涙を拭いてください」




「ありがとうメイちゃ~ん」と芽衣からハンカチを受け取って、優しく涙を拭きとる泣き虫よこたん。


 相も変わらず感受性の強い女の子である。


 他人事だというのにまるで自分のことのように号泣するマイ☆エンジェルを見て、さすがのマッドサイエンティストも毒気を抜かれたらしく、落ち着いた声音で自分の想いを吐露とろしはじめた。




「初恋だったんじゃ……。本気で心の底から好きになれた、初めての人だったんじゃ」

「うんうん。中学からずっと大好きだったもんね!」

「初恋……そうだったんですか」




 コクコクと首を縦に振る爆乳わん娘と、「初恋」という単語にピクッ! と反応する会長閣下。


 そういえば芽衣のヤツ、「初恋はまだ」みたいなことを前に言ってたっけ。


 おいおい、そんな奴が恋愛相談なんか乗れるのか? 大丈夫?


 なんて俺の心配をよそに、芽衣はパツキン巨乳の手をそっと優しく包み込んだ。




「その気持ち――凄く分かりますよ、宇佐美さんっ!」

「ムッ? せ、生徒会長……?」

「いつもその人のことを考えちゃって、気がつくと目で追いかけちゃうんですが、自分以外の女の子と仲良さそうに話していたら胸が引き裂かれそうなくらい苦しくて。でも、笑顔を向けてくれると嬉しくなっちゃうんですよね? それでいて、もっと声が聞きたくなって悶々もんもんとしちゃって……おかげで夜も眠れなくなったりとかしちゃったりするんですよね!? 分かります!」

「せ、生徒会長……ッ! そ、そうなのじゃ! その通りなのじゃ!」




 気がつくと芽衣とうさみんは意気投合したかのように、鼻息を荒くしてマシンガンの如く会話を繰り広げていた。


 いやいや芽衣ちゃん? 


 チミは初恋もまだのくせに、なんでそんなに熱弁出来るの?


 逆に凄いわ、尊敬するわ。


 我らが会長閣下のポテンシャルに改めて戦々恐々している間に、2人の言葉のキャッチボールはR―15へと加速していく。




「で、ではでは会長! 変な事を聞くかもしれんが、あの男らしい手を握ってみたいと思うのは?」

「恋ですね」

「あの固そうな胸板に頬ずりしたくなるのも?」

「恋ですね」

「夜中、ヤツの家にこっそり侵入して脱ぎたてパンツを拝借し、クンカクンカしたくなるのも?」

「恋ですね」

「あの生臭いのは?」

「鯉ですね」




 うん、絶対に違うね。


 とくに後半は違うね。


 気づけ、うさみん。


 おまえがブレーキだと思っている女は、実は加速装置アクセルだぞ?


 というか、なんだコレ?


 芽衣が何かを話すたびに背中がうすら寒くなるんですけど……何なのコレ?


 武者震いなの?




「宇佐美さん、アナタは全然変じゃありません。なぜなら女の子は、みんな同じような経験を経て、大人になっていくのですから」

「な、なんじゃと!? そうじゃったのか……知らなんだ」




 目から鱗とばかりに驚き顔を見張るマッドサイエンティスト。


 その横で俺も驚きに打ち震えていた。


 そ、そうだったのか?


 そうやって世の女の子たちは、大人の階段を登って行くわけなのか。


 つまり世の大人の女性たちは、男に手を握って貰ったり、胸板に頬ずりしたり、現役男子高校生の脱ぎたてホカホカのパンツに鼻先を突っ込んでクンカクンカ♪ したりしているのか。


 すごい、大人はすごいぞ!


 これからは道行く大人の女性を見かけたら、全員問答無用で変態だと思うようにしよう。




「うん?」

「? どうしたの、ししょー?」

「いや、2―A男子のグループラインに連絡が入ったみたいでさ」

「あっ! きっとししょーたちが森実祭でやる『おにぎり屋さん』についてじゃないかな? はやく連絡を返した方がいいよ」




「そうだな」といつものほがらかな笑顔に戻ったマイ☆エンジェルに返事を返しながら、2―A男子のグループラインを開く。


 発信者は……アマゾンだ。




アマゾン『神は死んだ』




「なんじゃこりゃ? どういう意味だ?」

「どうしたんですか士狼? 珍しく難しい顔なんかして?」

「全然似合わないぞ、下僕1号」

「ナチュラルに失礼だな、キミたち?」




 いつの間にか俺の近くにやってきていた芽衣とうさみんも交えて、アマゾンから送られてきたメッセージに視線を落とす。




「三橋くんからですか。なになに……『神は死んだ』?」

「どういう意味じゃ1号?」

「俺に聞かれても知らん。というか誰が1号だ? ライダーキック喰らわすぞ、テメェ?」

「あっ、見て見て! 写真も一緒に添付てんぷしてきたよ」




 ヒュポッ! と情けない音と共に、1枚の写真が我がスマホにデカデカと映し出された。





 ……そこには喫茶店でディープキステロ行為を行う、元気と司馬ちゃんの姿があった。

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