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第15話 理系が恋に落ちたので粉砕してみた。

 何の脈絡もなく突然ギャン泣きし始めたパツキン巨乳娘に俺は驚き……というか、ぶっちゃけ恐怖を覚えていた。


 な、なんだこの女?


 電波ちゃんか?


 それとも急に頭のネジが外れたのか?




「う、宇佐美さん? いきなりどうし――えっ、嘘っ!? まさかのマジ泣き!?」

「うぅ、酷いよぉ……。こんなのって、あんまりだよぉ……」




 スンスンと身体を丸めて、猫のようにすすり泣くパツキンJK。


 いつもの自信過剰っぷりの姿は鳴りを潜め、年相応にふぐふぐっ!? と鼻を鳴らす女の子の姿が、そこにはあった。


「猿野ぉ~、さるのぉ~っ!? ……うぐぅっ!?」と弱々しく我が親友ともの名前を口にする金髪巨乳。


 瞬間、ぴっきーん! と俺の優秀な灰色の脳細胞が唸りを上げ、1つの結論に辿りついた。




「あ、あのさ、うさみん? ……ありえないとは思うけど、一応聞くね?」

「ぐすんっ……な、なんじゃ1号? 今はキサマに構ってやるほど、心に余裕が――」

「おまえ、まさか――元気のことが好きだったのか?」

「ッ!?」




 ビック――ン! と陸に打ち上げられたハマチのように、身体を震わすロリ巨乳。


 どうやら図星を言い当てたらしい、やったね♪


 ……って、マジか!?




「嘘だろ、おまえ!? 元気のことが好きだったの!? マジで? いつから!?」

「す、すすすすす、好きじゃないしっ!? 全然好きじゃないしっ!」




 ウガーッ! と反発するように否定の言葉を並べる小悪魔うさみんだが、残念ながらそのメス顔では説得力は皆無である。




「嘘つけ! ほんとは好きなんだろ?」

「嫌い! 嫌い嫌い! 大っ嫌い!」

「大好きなんだろ!?」

「……うん」

「お、おぉっ? 急に素直になるなよ、可愛いじゃねぇか」




 床に『の』の字を書きながら、モジモジと頬を染めるマッドサイエンティスト。


 なんだ、このしおらしい女は?


 うっかり惚れちゃうところだっただろうが。


 気を付けてくれよな、まったくもう!




「それにしてもマジか……。俺、アイツの事を好きになる女の子は司馬ちゃん以外だと、この世には単独ソロのフリーガン、もしくはパッパラパー位しか居ないとばかり思ってたわ……」

「のう、いつからじゃ? いつからあの泥棒猫と付き合いだしたんじゃ?」

「すげぇ。平然と後輩を『泥棒猫』扱いとか、中々出来ることじゃねぇぜ?」




 そもそも元気アイツはおまえのモノでもなんでもねぇのに、その自己主張する厚かましさ……嫌いじゃないぜ?


 素直に賞賛の拍手を送りたい気分だ。




「ゴタクはいいから、さっさと答えんかっ!」

「えぇ……それが人に物を頼む態度かよ? まぁいいけど。言(つ)っても俺も又聞きだから、本当のところは知らねぇぞ?」

「前置きは結構!」




 はやくしろっ! と初めて仲間内でエロビデオ観賞会を開いた男子小学生のように、鼻息を荒げながら話の続きを促してくるロリ巨乳。


 うわぁ……。こういうヤツに限って新婚初夜『オレも初めてで、上手く出来るか分からないけど……優しくするからっ!』とか言っておいて、猿みたいに最後まで腰を振るんだよなぁ(母ちゃん談)。




「確かあの2人が付き合い始めたのは、ゴールデンウィーク終盤からだったハズ」

「なるほど、大体1カ月前からか。ふっ、なら問題ないな! ワガハイの方が猿野との付き合いが長い!」

「友達としてな。恋人としては向こうの方が長いぞ?」

「…………」

「ちょっと? 無言で殴るの、止(や)めてくれます?」




 どうしてこう俺の身近にいる女は、すぐに手がでる短気な奴らばかりなのだろうか?


 俺は清楚可憐なヤマトナデシコ系女子が好きなのであって、ヤマタノオロチ系女子は好きじゃないんだってば。




「ふ、ふんっ! か、彼氏彼女の関係とは言っても、所詮は学生のやること。どうせ手繋ぎデートとか、そんな【おままごと】みたいなことをやっておるだけなんじゃろ?」

「……ここで残念な『お知らせ』があります」

「な、なんじゃ下僕1号? そんな悲しそうな顔をして?」




「気持ち悪いぞ」と顏を曇らせるロリ巨乳に、俺はスマホのカメラで隠し撮りした『とある1枚』の写真を引っ張り出した。




「実はこの前、女バスの女の子たちを隠し撮りしようとしてたらさ……体育館裏でこんな写真が撮れたんだよ」

「??? なんじゃコレは?」




 うさみんは首を傾げながら、差し出された俺のスマホの画面に視線を落とす。


 そこには――元気と司馬ちゃんが熱烈なディープキスをブチかます光景が映し出されていた。




「ああああぁぁぁぁァァァァ亜亜亜亜――ッッ!?!?」




 うさみん、発☆狂っ!




「もう先っちょどころかガッツリよ。ガッツリ」

「いやぁぁぁぁぁ!? 聞きとうない、聞きとうないぃぃぃぃぃ!?」

「ちなみにこのベロンチョは、お昼休みに2年A組に来ると必ず見れるぞ?」

「いやぁぁぁぁぁ!? 知りたくない情報が湯水のようにぃぃぃぃぃっ!?」




 とうとう耐えきれなくなった失恋ウサギが「うぅっ!?」と涙で床に琵琶湖を作りはじめた。




「なんで? なんで、なんで!? ワガハイの方が先に好きになったのにぃ! 中学の頃から大好きだったのにぃぃぃぃぃっ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~んっ!?」




 涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、子どものように泣きじゃくるパツキン巨乳。


 その声があまりにも五月蠅うるさかったのだろう。


 偶然廊下を歩いていた古羊姉妹が、科学室に飛び込んで来た。




「な、なんですか、この泣き声は!? なにかトラブルでもあったんですか!?」

「あれ? ししょーと……その女の子は?」

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」




 うさみんは突然現れた芽衣に抱き着くなり、オモチャ売り場でギャン泣きしているクソガキッズのように『えんえんっ!?』と泣きはじめた。




「おっと。確かあなたは、化学部長の宇佐美こころさんですよね? どうしたんですか、そんなに泣き腫らした顔をして?」

「もう大丈夫だから。落ち着いて、ね?」




 えぐえぐっ!? と鼻を鳴らす泣き虫ウサギを、落ち着いた声音でなぐさめる双子姫。


 2人のおかげで大分落ちついたロリ巨乳は、たどたどしい口調で。




「うぅ……大神が、大神がぁぁぁぁぁっ!?」

「? 士狼がナニかしたんですか?」

「ししょー、一体何したの?」

「俺? いや俺は別に何もしてねぇけど?」




 うさみんの名誉のためにも、直前にした会話は胸の内に秘めておくことにした。


 流石に人の恋心を勝手に他人に言いふらすのは、人として何か違うような気がするのだ。




「落ち着いてください、宇佐美さん。わたし達はどこにも逃げませんから、ちゃんと説明してください」

「お、大神がワガハイに『大好きなんだろ?』って。わ、ワガハイ怖くて、でも我慢しなきゃって」

「「……はっ?」」

「あ、あれれぇ~?」




 お、おやおやぁ? 


 なんか不穏な空気になり始めたぞぉ?


 心なしか古羊姉妹の視線が鋭くなったような……あっれぇ~?


 違うでしょ、宇佐美ちゃん?


 正しくは「お、大神がワガハイに(猿野のことが)『大好きなんだろ?』って。わ、ワガハイ(真実を知るのが)怖くて、でも(知りたいから)我慢しなきゃって」でしょ?


 言葉が足りてないですよ、お嬢ちゃん?


 コレじゃ俺が、嫌がる女の子に無理やり迫っているみたいになるでしょ?


 ほら、訂正して?


 はやく訂正して差し上げて、宇佐美ちゃん?


 2人の視線がヤバいことになってるから、ね?


 俺の気持ちが届いたのか、うさみんは鼻をふぐふぐ鳴らしながら、その愛らしい唇を動かして、こうコメントを残した。




「そ、そしたら大神が、さ、『先っちょ』だけって言いながら、ガッツリと。ガッツリとぉぉぉ! 嫌がるワガハイに無理やりぃぃぃぃぃっ!」

「異議あり! 言葉のチョイスに悪意があります!」




 奇跡的になんか卑猥な発言になっていた。


 おい、うさみんテメェ!


 これじゃ俺がおまえに肉体関係を脅迫していたヤリチン☆クソ野郎みたいに聞こえるじゃねぇか!?


 その証拠に、ほら見ろ!


 古羊の瞳がアンモラルでイリーガルな者を見る目に変わっちゃったじゃねぇか!




「……士狼? これは一体どういうことかしら?」

「……説明、してほしいなぁ」




 光彩の失せた瞳で俺を見据える生徒会シスターズ。


 あ、あの? 説明するから、その瞳はやめてください。


 怖いんだよ、ソレ?


 いやマジで……。




「待て待て、2人とも。コレはちょっとした言い間違いなんだよ」

「じゃあ士狼は、宇佐美さんの説明は事実無根だって言いたいんですね?」

「い、いや……。確かにうさみんの言ったことは一部事実ではあるけれども……」

「語るに落ちるとはこのことだね、メイちゃん」

「そうね洋子」




 ブゥンッ! と先ほどとは違った緊張感が科学部室を支配する。


 あれあれ?


 誰か冷房いじった?


 この部屋だけ超寒いんですけど?


 気のせいか双子姫の背後に鬼神が見え隠れしている気がしてならない。


 えっ? 2人とも、スタ●ド使いか何かだった?




「士狼」

「ししょー」

「な、なんでしょうか?」

「「正座、しよっか?」」

「……はい」




 今日も長い1日になりそうだなぁ。


 頭の片隅で他人事のようにそう呟きながら、俺は流れるように膝を床につけたのであった。

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