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第14話 事情を知らない金髪ロリ巨乳がグイグイくる。

 よこたんからの【お叱り】を終えた、1時間後の校舎にて。


 俺は遅れた分の仕事を取り戻すべく、科学室の前へと足を運んでいた。


 素早く4回扉をノックすると中から聞き慣れたアホの声が鼓膜を叩いた。




『ツンツン・でれでれ?』

「ツン・でれでれ♪」




 ――カチャリッ!


 目の前の扉の鍵の開く音が廊下に静かに反響する。


 俺は何ら躊躇うことなくドアノブに手をかけて、科学室の中へと身を滑り込ませた。




「う~す、邪魔するぞぉ~?」

「んっ? おぉっ、相棒! 珍しいのぅ、こんな時間まで学校に居るやなんて?」

「いやなに、ちょっとおまえに用があってさ」




 カチャカチャッ! と机の上で何かの機械をイジっていたらしい元気に声をかけながら、空いていた席に腰を下ろす。


 元気はスクッ! と立ち上がると部室に無理やり備え付けた冷蔵庫の中からカルピスを1本取り出して、俺に向かって放り投げた。




「ワイに用? あっ! もしかして相棒が昨日ラインで送ってくれた【デビューしたての新人セクシー女優は、どうしてあんなにもエロく見えるのだろうか?】とかいう考察という名の怪文書に対しての感想か? その件やったら、もうちょっと待ってくれや。昨日はマイハニーとの夜の大運動会で忙しゅうて、まだ全文読めてないんや。すまんのぅ……」

「なんだよ、俺オススメの新人セクシー女優の情報も送ったのに、まだ見てねぇのかよ」




 放り投げられたカルピスを片手で受け取る。


 ありがてぇっ! キンキンに冷えてやがる!


 某賭博黙示録のマネ事をしながら「あざます」と親友にお礼を言いつつ、カルピスで唇を潤した。


 やだ、俺の唇ぷるぷる♪


 どれくらいぷるぷる♪ かと言えば石原さとみさんの唇くらいぷるぷる♪


 やっべ、超ぷるぷる♪(ぷるぷる♪)




「まぁセクシー女優の件は後日聞くべ。今日は別件だ」

「別件?」

「おう。おまえ森実祭でナニするのか知らんが、科学部の企画書、まだ出してねぇだろ? 今日はソレの催促に来たワケ」

「おぉっ!? すっかり忘れとったわいな!」

「おいおい、勘弁してくれよ? 俺が芽衣に怒鳴り散らされるんだからな?」

「すまんのぅ。パソコンの中にデータが入っとるさかい、ちょっと待ってぇな。すぐプリントアウトするけぇの」




 そう言って、いそいそと近くに置いてあったパソコンを起動させる変態メガネ。


 そんなメガネを尻目に、チビチビとカルピスで喉を潤しながら改めて部室の中を検分してみた。




「それにしてもこの1年と少しで、だいぶ作ったよなぁ。何個あるんだよ、このアイテム?」

「うん? そうやなぁ、ざっと200はあると思うで」

「正直コイツらを売りさばいたら、一生遊んで暮らせそうだよな」

「いやいや、それは無いやろ! たかだが一介の高校生が作ったジョークグッズやで?」

「おまえはジョークで瞬間移動装置を作れるのか……とんでもねぇ野郎だな」




 どう考えても世紀の大発明だろコレ?


 まぁその世紀の大発明も、今や部屋の隅で埃を被っている有様だが。


 いやほんと冗談抜きでこの部屋にあるモノだけでも、人類の科学を数百年は進歩させそうなモノばかりだわ。


 なんでコイツはこんな所でくすぶっているんだ?


 はやくノーベル賞を取ってこいよ。


 なんてダラダラと雑談していると、科学室の扉がバァンッ! と勢いよく開かれた。




「ブワッハッハッハッハッ! ワガハイが来たぞ愚民ども!」




 一瞬「カチコミか!?」と思って扉の方へ振り返ると、チンチクリンの金髪の弾丸が豪快に笑いながら白衣をなびかせ俺達のもとまで歩いてきている光景が目に入った。


 あぁなんだ、コイツか。


 中学の頃からよく見慣れたその光景にとくに驚くこともなく、俺は眉根をしかめながらパツキンの女子生徒に視線を向けた。




「うるせぇぞ、うさみん? もうちょっと静かにドアを開けろや。ご近所さんに迷惑だろうが」

「うるさいのはソッチじゃ、下僕1号。誰もキサマなんかに用はないわい!」




 失せろカスッ! と言わんばかりに、俺に対して刺々しい態度をとるこの金髪爆乳小娘の名前は宇佐美うさみこころ。


 小学5年生と見間違うほどミニマムな体型のくせに、グラビアイドルの魅力をギュ~ッ! と凝縮ぎょうしゅくしたかのようなナイスバディを持った、いわゆるロリ巨乳な女子生徒であり、意外なことに俺たちと同じ高校2年生であったりする。


 一応は俺と元気の中学時代からの腐れ縁だ。


 なんてことを思っていると、何故か気持ち悪いモノでも見たかのような顔でその爆乳を両手で抱きしめるパツキン巨乳。


 その瞳はとんでもねぇ変態に遭遇したかのように冷たくて……おやおやぁ?


 これはもしかしなくても、俺に惚れたか?




「げ、下僕1号……キサマ今どこを見とるんじゃ!? さ、猿野が見とる前でめぬか……」




 おいおい、うさみん?


 流石の俺も親友が見ている目の前でいきなりブチかますなんて、そんなアバンチュールなマネはしないさ!


 大丈夫、ちゃんと分かってるよ。


 このあと2人で人気の居ない校舎裏に行って【口づけ】という名の上半身の異文化交流へと洒落こむんだよね? 了解しましたっ!


 ふふふっ、まるで獣のようにお互いの体温を求め合おうじゃないかっ!




「求め合わんわっ! 気持ち悪い、マキシマム気持ち悪いっ!」

「おまえ、勝手に人の心を読むなよ? 俺のこと大好きか? おぉっ?」

「キサマがペラペラと1人で勝手に喋っておっただけじゃろがいっ! えぇい、耳がけがれる!近寄るなっ! このド変態がぁっ!」




 がるるるるるるるるっ! と俺を全方位から警戒し始めるロリ巨乳。


 まったく、相変わらず素直じゃないヤツめ。


 俺が好きなら好きと言えばいいだろうに。


 両手を広げながら「ほら、怖くない」と風の谷に住む少女のような穏やかな気持ちで声をかける俺とは対照的に、元気は「おっ!」と言った様子でロリ巨乳に声をかけた。




「どうしたんや、宇佐美はん? また何か薬でも作ったんかいな?」

「どうせまたヘンテコリンな奴なんだろ?」

「ふっ。ワガハイの偉大なる研究の凄さが分からんとは、相変わらず可哀想な脳みそをしている愚民たちじゃ」




 白衣のポケットに手を突っ込んで、嘲笑ちょうしょうするかのように鼻でせせら笑うパツキン巨乳。


 実はこの女、元気とはまた違ったベクトルの天才であり、薬品化学に関しては頭1つどころか100個くらい抜けている才女でもあるのだ。


 元気といい、コイツといい、ほんと何でこんなしょっぺぇ学校に居るんだろうか? 


 もっと偏差値の高い学校に行けばいいモノを……天才の考えることは分からん。




「確か宇佐美はんがこの前発明しとったのが『透明人間になる薬』やったっけ?」

「ブワッハッハッハッハッ! どうじゃ猿野! 貴様よりも先に透明人間になる方法をみ出してやったぞ! 悔しいか? 悔しいじゃろう!」

「えぇ……。メッチャあおってくるんやけど、この人……」

透明人間になる薬、仲良いな、1粒ください!おまえら

「本音と建前が逆になっとるで、相棒?」




 ブワッハッハッハ! と女の子がしてはいけない高笑いを浮かべるマッドサイエンティスト。


 相も変わらず元気に対してのライバル意識がバリバリである。


 おぉっ!? 元気が珍しく「めんどくせっ!?」って顔してるぞ!


 久しぶりに見たな、コイツのこんな顔。




「そういえば、元気も透明人間になるアイテムを開発してたよな? アレは結局完成したのかよ?」

「実はお恥ずかしいことに、まだなんや」

「ふんっ、たるんどるのぅ猿野よ? それでもワガハイの終生のライバルかえ?」

「いやぁ、お恥ずかしい……。実はここ数週間はマイハニーとの蜜月みつげつを満喫するのに忙しかったさかい、何も開発しとらんのやわ」




 マイハニー? と太陽の恵みを一身に浴びた金色の髪を揺らしながら、コテンッと首を傾げるマッドサイエンティスト。




「おい猿野、『マイハニー』とはなんじゃ? 新しい発明品の名称か? ワガハイにも見せろ! 一体どんな性能を秘めて――」




 そのちっこい体が元気に詰め寄ろうとした矢先。


 ――ガララッ。


 と再び科学室の扉が開いた。








 ――そして唐突に終わりが始まった。







「失礼しまぁ~す。げんきせんぱい居ますかぁ?」




『そろそろぉ~』と入ってきたのは、陸上部の期待のホープにして、何をトチ狂ったのか元気アホとお付き合いするという若気の至りとしか思えない愚行を犯している美少女1年生、司馬葵ちゃんその人である。


 司馬ちゃんは今日も今日とて後ろで簡単に纏めたポニーテールをヒョコヒョコ♪ 揺らしながら、キョロキョロと部室を見渡し始める。可愛い♪




「おっ、キタキタ! るで、マイハニーっ!」

「あっ! ダーリン♪」




 司馬ちゃんはその大きな瞳で元気の姿を捉えるなり、パァッ! とヒマワリのような笑顔を浮かべた。


 そして自慢のポニーテールを風になびかせながら、ドンッ! と元気に胸板に突っ込んで、その小さな鼻をヒクヒクさせ始めた。




「はぁ~♪ ダーリン欠乏症で死ぬかと思ったっすよぉ」

「それはアカンで! ほい、エネルギー充電のぎゅぅうぅぅぅぅっ!」

「ぎゅぅぅぅぅぅぅぅ~♪」

「もうこの光景にも慣れてきたなぁ……」




 縁側で茶をすするおじいちゃんの心持ちで、2人のエゲツナイ行為を見守る俺。


 もはや嫉妬の気持ちすら湧かない。


 なんなら末永く爆発してほしいくらいだ。




「えっ? えっ? えっ? ど、どういうことじゃ?」




 初孫を愛でる老夫婦のような面持ちの俺とは対照的に、うさみんはキョトンとした様子で元気と司馬ちゃんの顔を交互に見返していた。


 その表情は、どことなくショックを受けているようで……はっは~ん?




「さてはうさみん、アレを観るの初めてだな? なら気をしっかり持った方がいいぞ?」

「『初めてだな?』って……ハァ? な、なんの茶番じゃ、これは?」




 目の前で当たり前のように繰り広げられるテロリズムに、困惑を隠せないパツキン巨乳。


 そんなロリ巨乳を無視して元気と司馬ちゃんは、2人だけの世界に没入していき、いつも通り乳り合い始める。




「そうそう、ダーリンッ! 聞いて、聞いて! クラスのお友達から聞いたんすけどね? 今、駅前でカップル限定のすっごい美味しいパフェがあるらしいっすよ!」

「ほんまかいな! そりゃ今すぐ行かにゃならんなぁ!」

「さすがダーリン! そう言うと思ったっすよ!」




 ギュッ! と元気の腕に自分の腕を絡めると、幸せそうにグリグリ♪ と頬ずりをし始める司馬ちゃん。


 まるで『コイツは自分モノだ!』と縄張りを主張するかのように、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、うっとりと目を細める彼女。


 なんだか猫がマーキングするみたいだなぁ。


 なんて思っていると顔面猥褻物と化した元気が、俺に向かって1枚の紙切れを手渡してきた。




「ほい相棒、企画書完成や。受け取ってくれい」

「ん。……よし、不備はないな。お疲れさん」

「おうっ! それじゃワイらは先に帰るから、戸締りの方をよろしく頼むで!」

「あいあーい、いってらっさぁ~い」




 ヒラヒラと雑に手を振りながら、元気たちの後ろ姿を見送る。


 バタンッ! と扉が閉まったのを確認し、1度大きく背を伸ばす。


 さてさて、それじゃオイラも帰るとしますかね。


 元気から貰ったカルピスを飲み干し、生徒会室に戻ろうと席を立とうとして、ハタッ! と気がつく。




「どったべ、うさみん? 珍しく静かじゃねぇか」

「……なぁ下僕1号。今の女は誰じゃ?」




 狙撃手がスコープを覗くときのような鋭い目で、元気と司馬ちゃんが去って行った扉を見つめる――いや、睨みつけるパツキン巨乳。




「今の女って、司馬ちゃんのこと?」

「『シバちゃん』? シバちゃんとは誰じゃ? 猿野とどういう関係じゃ?」




「答えろ」と有無を言わさぬその迫力を前に、ちょっとだけビビってしまう。


 体中からピリピリとした雰囲気をまき散らすロリ巨乳に「なんでそんなに機嫌が悪いんだよ? あの日か?」と言いかけた言葉を寸前で飲み込んで、ゆっくりと口を開いた。




「ま、まぁ率直に言えば、カノジョだよ」

「……カノジョ?」

「そう、ガールフレンド」

「……フレンド? 友達?」

「友達じゃねぇよ。ガールフレンド、またの名を恋人と言う」

「……コイビト?」

「そっ。ようは元気の恋人だな、司馬ちゃんは」




「あの変態メガネに恋人なんて、世も末だよなぁ」と軽口を叩く俺を無視して、パチパチと大きくまばたきを繰り返すロリ巨乳。




「そうか、そうか。恋人……恋人かぁ~。なるほどのぅ……」




 アハハハハッ! と笑い声あげる金髪ロリ。


 うさみんはひとしきり笑い終えた後、ニッコリ♪ と俺には見せたことがないような、爽やかな笑みを浮かべながら。




「……ふぐぅっ!?」




 滂沱ぼうだの涙を流し、膝から崩れ落ちていった。

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