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第5話 アタシの飼い犬に嘘告白してきた金髪ギャルが未練タラタラな件について

「――右よしっ! 左よしっ! 正面よしっ! OK、大丈夫そうね」




 月宮カラスは人目を忍ぶように校舎の影に身を隠しながら、キョロキョロと辺りを見渡した。


 闇夜に紛れる露出ろしゅつきょうのように、全神経をフルスロットルにしつつ、人気が居ないことを確認する。


 そして校舎の隅で隠れるように1人黙々と花壇の土をいじっている体操服の少年、大神士狼へと視線を向けた。




「ほっ……よかった。どうやら今日は、お邪魔虫たちは居ないみたいね」




 カラスはここ数カ月、いつも士狼の横にベッタリ♪ とくっついて周るお邪魔虫古羊姉妹が居ないコトを確認し、安堵の吐息を溢した。


 正直、2年に進級してからの数カ月、カラスはストレスでどうにかなりそうだった。


 どこで何をどう間違えたのか、あの双子姫が大神士狼に興味を持ってしまったのだ。


 これは由々しき事態である。


 おかげで、学校で士狼と接触する時間が極端に減ってしまった。


 しかもあの姉妹、最近では士狼の休日にまで侵食し始めているではないか……。




(ふざけんじゃないわよ!? コレ以上、あたしとシロウの2人っきりの時間を削られてたまるもんですかっ!)




 大体なんでシロウなのよっ!?


 あの姉妹なら男なんて選び放題じゃないっ!


 どうしてよりにもよって、あの男なのよっ!


 もっとイイ男が他にも居たでしょうに!?


 カラスが理不尽な怒りに身体をワナワナさせつつ「いかん、いかんっ!」と首を横に振った。




「せっかくのチャンスなのに変な事に気を裂かれちゃダメよ、あたしっ!」




 もうウジウジ考えている時間もない。


 久しぶりに士狼が1人で行動しているのだ。


 この好機、必ずモノにしなければっ!


 カラスは士狼に声をかけるべく、1歩踏み出し――




「っとぉ、その前に」




 ポケットの中に手を突っ込み、スマホを取り出した。


 そのまま、流れるように内蔵ないぞうカメラを起動し。


 パシャッ!




「よしっ、綺麗に撮れた!」




 むふーっ! と満足気な鼻息を溢しながら、ポケットに士郎の体操服姿(腰から少しパンツが見えてる。レアショットだ!)の写真が映ったスマホを戻した。


 さてっ、今度こそ準備万端だ。


 カラスは期待に鼻先を膨らませながら、校舎の影から身を乗り出し、




「ししょーっ! 調子はどう~?」

「ちゃんと仕事はしていますか、士狼?」

「ッ!?」




 古羊姉妹の声が聞こえ、素早く校舎の影へと身を隠した。


 見るとそこには、あの忌々しい古羊姉妹が仲良さそうに士狼の脇に腰を下ろしている姿が目に入った。




(ちょっ!? 近い、近いからっ!)




 その距離の近さに、カラスは心の中で地団駄じだんだを踏んだ。




(そんなにベタベタすんじゃないわよ!? 年頃の娘がはしたないっ!)




 ギリギリと歯を食いしばりながら、古羊姉妹が早く士狼のもとから去るように念を送る。


 が彼女の想いとは裏腹に、2人は士狼の身体を押して、人気の多い場所へと移動しようとしていた。


 その様子にカラスが「ちょっ!?」と慌てて校舎の影から少し、身を乗り出してしまった。


 瞬間、芽衣と洋子が校舎の影に隠れていたカラスに視線を向けて。



 ――にたぁ~♪



 と、いやらしく笑った。


 その笑みを見たカラスは、一瞬で全ての詳細を理解した。


 こ、この双子姉妹、まさかっ!?




(あたしがシロウに近づけないように、人気の居る場所へ誘導している!?)




 間違いなかった。


 双子は確実に、コチラの存在に感づいている!


 感づいた上で、あたしと士狼を近づけないように、妨害している!




(な、なんて性格の悪い姉妹なのっ!?)




 自分の性格の悪さを棚にあげ、カラスは古羊姉妹を激しく批難ひなんした。




「ほらほらっ! ししょー、こっちこっち!」

「『こっち』って、えっ? 花壇の整備は?」

「そんなモノは後回しです。行きますよ、士狼」




 困惑する士狼の背中を押す古羊姉妹。


 やがて誰も居なくなった場所をカラスは睨みつけながら、1人静かに「ふっふっふっふ……」と笑った。




「上等じゃない。ソッチがその気なら、受けて立ってやるわ」




 カラスはジロリッ! と士狼と古羊姉妹が去って行った方向を睨みつけ、宣戦布告するかのように声を張り上げた。




「全面戦争じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッッ!!」




 かくして大神士狼の知らない間に、約1年間に及ぶ、彼女たちの長い長い闘いの火蓋が切って落とされたのであった。


 そのことを士狼が知るのは、もう少し先のお話。

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