「んぁっ? 月宮はんと相棒の関係について聞きたい?」
「うん、そうなんだ」
「猿野くんは2人と同じ中学出身でしたよね? なら何か知っていませんか?」
翌日の放課後。
人気の少ない科学部室にて。
洋子と芽衣は何かしらの機材をイジっていた猿野元気に、月宮カラス女子の詳細を尋ねていた。
ちなみに士狼は生徒会庶務の仕事として、1人で花壇の整備を行っている最中だった。
「月宮はんと相棒の関係なぁ~。知っとるちゃ知っとるけど……う~ん?」
「お、お願い、サルノくんっ! どうしても2人の関係が知りたいのっ!」
「謝礼なら後でいくらでも払います。ですからどうか」
やがて2人の熱意に根負けした元気が『しょうがない』とでも言いたげに、小さく溜め息を溢した。
「まぁええか。相棒はともかく、月宮はんに義理立てする義理はないし」
そう言って元気は彼女の……いや士狼の過去を語り始めた。
「月宮はんは一言で言ってしまえば、相棒の元『恋人』や」
「「……はっ?」」
時が止まった。
「まぁ正確に言えば、チョイ違うんやけどな」
「「…………」」
「あれ? 2人共、聞いとる? おーい、もしも~し?」
「「――ハッ!?」」
まったく同時に意識を取り戻りた古羊姉妹が、泡を飛ばしながら元気に激しく詰め寄った。
「こ、こここっ!? こ、恋人ぉ!? ししょーに恋人ぉぉぉっ!?」
「ど、どどど、どういう意味ですかソレ!? なんの冗談ですかソレ!?」
「うわっ!? お、落ち着きぃや、2人とも!? この話には続きがあるんやって!」
続き? と心臓をバクバク言わせながら、目だけで話の続きを促す古羊姉妹。
その瞳は手負いの獣のように鋭く、元気はツツーと額に冷や汗を流した。
これは、下手なコトを言ったら殺されるのでは?
そんな予感というか確信と共に、ワードチョイスに気をつけながら、そのカッサカサの唇を動かした。
「こ、『恋人』言うても、罰ゲームの恋人やっ!」
「へっ?」
「罰ゲーム、ですか?」
そうや、と元気は頷いた。
「当時、スクールカースト上位の
「……趣味がわるい罰ゲームですね?」
そう元気が口にした瞬間、芽衣が不愉快そうに眉根をしかめた。
昔の自分を思い返しているのか、その表情が酷く苦々しかった。
そんな姉に代わって、洋子は元気に話の続きを促した。
「でも、ししょーと月宮さんは別れたんだよね?」
「せやで。付き合った1カ月記念にプレゼントを渡そうとしていた相棒に『実は罰ゲームでしたぁ~♪ ざんねぇ~ん☆』って言いながら、クラスメイト達が居る前でこっ
「ば、バカにしたって?」
「う~ん、そうやなぁ……。『お前みたい馬鹿なヤツと付き合う女なんていねぇよ!』って笑いながら相棒を
「ひ、酷い……」
ムッ! とした表情になる洋子。
人を喰い物にするような
「相棒も本気で月宮はんに惚れてたからのぅ。フラれた当初は、そりゃもうメチャクチャ落ちこんどったわ。まぁただアイツは
なんせ、と元気は呆れた調子で口を開いた。
「自分を騙した女を助けに行っちゃうくらいアホやから、アイツ」
「助けにって……えっ? 月宮さんを?」
「なにがあったんですか?」
「ちょっと悪さが過ぎたんやろうなぁ。当時、地元で有名なカラーギャングに月宮はんとそのお仲間たちが目をつけられてのぅ。襲われて、病院送りにされた事があるんや。んで、まぁその敵討ちといいますか、そのカラーギャング共を相棒が壊滅させたんや」
その件を境に、相棒は『喧嘩狼』なんて呼ばれるようになったワケや。
と、苦々しい表情で昔のことを語る元気。
「ワイは止めたんやで? 相棒を騙した
確かに、俺は騙されたよ。
カラスちゃんが俺に向けてくれた愛情は、嘘っぱちだったかもしれねぇ。
それでも、この胸に芽生えた気持ちは本物だ。
今行かなかったら、この気持ちを嘘にしちまう。
だから行ってくる。
「――言うて、1人で乗り込みに行ってもうたわ」
元気は「ハァ……」とため息を溢しながら、
「感謝されるワケでもないし、悪評しか広まらん。メリットなんて何もない。それでも相棒は、惚れた女のためなら身体を張ってしまう。そんな男なんや。ほんまバカな男やで」
「……なんか、ししょーらしいね」
「そうですね」
大神士狼は、中学でも『大神士狼』だったらしい。
何度騙されようが関係ない。
何度裏切られようが知ったこっちゃない。
騙されようが、裏切られようが、自分は絶対に裏切らない。
例え賢い選択じゃなくとも、大神士狼は迷わずソレを選択してしまう。
だってソレが『大神士狼』なのだから。
「アタシのときも『そうだった』もんね。ほんとバカな男なんだから……」
「うん? 何か言ったかい、古羊はん?」
「いいえ? なにも」
ニッコリ♪ と笑みを顔に張り付けながら、小さく首を横に振る芽衣。
芽衣は胸の内に芽生えた温かい気持ちを知られないように、いつもより強固に笑みを顔を顔に張り付けていると、横から洋子が「そ、それで?」と元気に声をかけた。
「し、ししょーとツキミヤさんは、その後どうなったの?」
「別に? 何も変わらんで? 相変わらず相棒は女子にバカにされるわ、月宮はんは完全完璧に無視するわで、散々な中学生活を
まぁ本人は『はっは~ん? さては強めのツンデレだな? デレはどうしたぁ?』って、その状況を楽しんどったけどな。
と、続ける元気。
その実に士狼が言いそうなアホな台詞に、ちょっとほっこり♪ してしまった姉妹は、もう末期なのかもしれない。
「やから意外やったわぁ~」
「意外? 何がですか?」
「月宮はんが森実高校に進学したのがや。なんせ当時の月宮はんの成績は、下から数えた方が早いうえに、毛嫌いしとる相棒と同じ高校に進学するんやから。そんなにこの学校に行きたかったんかいのぅ?」
う~む? と不思議そうに首を傾げる元気。
どうやら彼は、いまだに士狼とカラスに接点があることを知らないらしい。
そんな科学部長を尻目に、芽衣と洋子は目を見合わせた。
間違いない、彼女がこの森実高校を選んだ理由はただ1つ。
それは――
「まぁ、もうワイらには関係ない話や」
ガハハハハッ! と笑う元気を前に、芽衣も洋子も上手く笑うことが出来なかった。