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第3話 出会っちゃいけない『運命』のアイツ

「ブハッ!? ごほっ、えほっ!?」

「うわわっ!? だ、大丈夫、ししょーっ?」

「なにやってんのよ、士狼?」




 芽衣が月宮カラスと遭遇して2時間後の古羊家のマンションにて。


 彼女が口にした『月宮カラス』の名前は、士狼がすすっていたお味噌汁を拭き出させ、洋子にティッシュで口元をぬぐわせるという、新婚さんプレイをさせることに貢献した。




「ど、どうして? どうして、その名前を知っている、おまえ?」

「……どうしてそこまで動揺してるの、士狼?」




 芽衣は自分の中で不快感と疑念が膨れ上がっていくのを感じながら、持ち前のポーカーフェイスで話の続きを口にした。




「別におかしな話じゃないでしょ? 同じ学校の生徒なんだから」

「いやまぁ、そうなんだけどさ……」

「??? ねぇ2人とも、その『月宮カラス』さんって、一体誰なの?」




 イマイチ事態が飲みこめていない洋子が、不思議そうに小首を傾げる。


 そんな彼女を尻目に士狼はお茶を飲もうとするのだが、指先が震えてビチャビチャッ! とお茶の水滴が顏を濡らすばかりである。


 動揺し過ぎでしょ、コイツ?




「それにしても珍しい名前よね『カラス』って」

「あぁ、それは鳥類学者の親父さんが、カラスが大好きだったから付けた名前らしいぞ。本人はその名前すっごく嫌ってるけど……あっ」

「へぇ……そうなんだぁ?」

「……なんでそんなに詳しいの、ししょー?」




 まさに『語るに落ちる』を地でいく大神士狼スタイルに、芽衣と洋子の口角がヒクッ!? と震えた。


 ここに来てようやく、洋子も事の重大さに気がついたらしい。


 古羊姉妹が静かにアイコンタクトを飛ばし合っている間に、士狼は言い訳でもするかのように慌てて口をひらいた。




「だ、だからまぁ、アレだ! 俺に聞いても役に立つ情報なんか得られんぞ?」




 たった数秒で相当に貴重な情報を聞かされた気がしなくもなかったが、芽衣はその事にあえて触れず、士狼の表情から答えを読み取る事にした。




「なにっ? 中学の同級生なの、アンタ?」

「さ、さぁ? どうだったかなぁ?」




 キョロキョロと忙しなく、士狼の瞳が左右に揺れる。


 どうやら正解らしい。




(メイちゃん)

(分かってる)




 古羊姉妹は小さく頷きながら、疑惑の視線を士狼に向けた。


 月宮カラス……。


 県立森実高校でも異彩を放つギャルにして、2年D組のクラスカーストトップに君臨する女王。


 そんな女王さまとバカ丸出しのこのバカ士狼は、なにか因縁があるらしい。


 しかも何か隠さなければいけない因縁が。


 はてさて、どう切り出したものか?




「あぁ~……その、芽衣?」

「んっ? なぁに士狼?」

「もしかして何だけどさ? カラ――月宮ちゃんに何かされた? そのあからさまに敵視されたとか、嫌な態度を取られたりとか、不幸な手紙を渡されたとか……」

「……なに彼女? そんなあからさまなテンプレ悪役令嬢みたいな事をするの?」

「いや、普段はイイ子なんだよ。ただ、キレるとナニをするか分からないだけで……」

「「…………」」

「えっ? な、なに? ど、どうしたよ? 2人してそんな怖い顔して……?」

「「べっつにぃ~?」」




 流石は姉妹というべきか、芽衣と洋子の鬼のように冷たいバイノーラル音声が士狼の耳朶を叩いた。


 突然周囲の温度が氷点下まで一気に下がり、いつものようにオロオロと怯えだす士狼。


 そんな士狼を前に、洋子は思った。


 ししょー、隠す気あるのかな? と。




「ほんとに何でもないのよ? 直接話したこともないし。ただ……」




 芽衣の方は自分が体験した今日の出来事をしっかりと隠蔽いんぺいしながら。




「この前ね、偶然にも士狼と月宮さんが仲良くお喋りしている所を目撃しちゃったから、つい気になっちゃってね」




 と、別のアプローチを試みてみることにした。


 だが。




「おっとぉ? カマをかけようとしても無駄だぞ、芽衣。その手には乗るかっ!」

「……あら、バレちゃった?」




 先ほどとは違い、士狼はあからさまな反応を返すことはなかった。


 芽衣の牽制球を『ありえない!』と豪快に笑い飛ばす士狼。

 どうやら、このアプローチ方法は失敗――




「あたぼーよっ! だってアイツ、学校じゃ絶対に俺に話かけに来ることなんてねぇもん。話かけるにしても、人気の居ない場所か、休日に呼び出すし。この間なんか隣町まで呼び出されて、映画代をおごらせられたしなっ! ったく、観たい映画があるなら地元の映画館でもいいだろうに。なぁ?」

「「…………」」




 もうワザとやっているんじゃないか? と思わせるほどの、あからさまな態度に、古羊姉妹の口元がヒクヒクッ!? と戦慄わなないた。


 アプローチ大成功である。


 大成功ではある、が……。




「ふ、ふぅぅぅ~ん? そうなんだぁ~?」

「ず、随分と月宮さんと仲がいいんだね、ししょーっ?」




 自分たちから仕掛け、大成功を収めたにも関わらず、芽衣と洋子は理不尽にもイラッ☆ としていた。


 なんせ知りたくもない情報を、一気に知ってしまったのだ。




 その1.月宮カラスと大神士狼の間には、何か因縁がある。

 その2.2人は同じ中学校の出身である。

 その3.2人は休日にデートをするような仲である。




 そこから導き出される結論は1つだ。


 なぜ今日、月宮カラスが自分に突っかかって来たのか?


 それは古羊芽衣の人気が気に入らなかったから……とかではなくて。


 古羊芽衣の美貌びぼうが気に入らなかったから……でもなくて。


 自分が大神士狼と仲良くしている女の子だからという、本当に、ただそれだけの理由で……。




「あ、あれ? どうしたの2人とも? 笑顔が怖いよ……?」




 士狼はガタガタッ!? と揺れるリビングと、薄笑いを浮かべる古羊姉妹を交互に見返しながら、青い顔を浮かべる。


 だが芽衣も洋子も、自分をおさえるのに必死で、それどころではなかった。




「べっつにぃ~? アタシ達は『いつも通り』よね、ねぇ洋子?」

「そうだね、メイちゃん。アハハッ! ししょーは『いつも』おかしなコトを言うなぁ♪」

「……あ、あの? もしかして、怒ってます?」

「「怒・っ・て・い・ま・せ・ん」」

「嘘だっ!? 絶対に怒ってるよ、ソレ!?」

「「嘘はお互いさまよねだよね?」」




 ニッコリ♪ と威圧的に笑う古羊姉妹を前に、士狼は何も言えなくなった。

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