クラスメイトのほとんどが帰宅し、誰も居なくなった
「はい、カラスの負けぇ~っ! 今日の罰ゲームはカラスに決定ね~♪」
「イェ~イッ! ばっつゲ~ム♪ ばっつゲ~ム♪」
「うげぇ……マジ?」
そう言って眉根を寄せたのは、クラスどころか学年カーストの上位に君臨する陽キャの化身、
美人で可愛く、人生勝ち組一直線のギャル系女子達のリーダー格だ。
家に帰ってもやることがなく、仕方なくダラダラ教室でお喋りしながら、トランプの大富豪で遊んでいた3人。
普通に遊ぶのも退屈なので何か罰ゲームでもつけるか? という話になり、始まったゲームではあったが……まさか自分が負けることになるとは。
カラスは小さく溜め息をこぼしながら、持っていたトランプを机の上に放り投げた。
「ハァ……罰ゲームって確か、
「ギャハハハハっ!? 自分の運の弱さを恨むんだな!」
豪快に笑う友人『リンリン』を尻目に、カラスはこれでもかと言わんばかりに顔を歪めた。
なんせ広辞苑で【バカ】という単語を引いたら、一番最初に【大神士狼】という言葉が出てくるんじゃないか? と生徒達の間でまことしやかに囁かれているくらいの大バカ野郎だ。
この間の調理実習なんか、とくにそうだ。
先生に『グラタンを作れ』と言われたクセに、なにをどうクリエイティブしたのかパエリアを作って小首を傾げていたほどだ。
これで顔が良ければ、まぁ許してやらん事もなかったが……残念ながら顔も論外であるから腹が立つ。
正直、冗談でも付き合いたいとは思えない。
というか生理的にムリだ。
「ねぇ、ほんとに大神に告白しないとダメ? 別の人にしよ~よ?」
「ソレじゃ罰ゲームにならないっしょ? 罰ゲームなんだから、1番嫌いなヤツに告白しないとっ!」
「で、でもぉ~」
なおも言い
「練習だと思って、ちゃちゃっと告白しちゃいな」
「嫌だっ! あたしはマッちゃんみたいに薄汚れた恋愛なんかしないっ! 常に本番の本気の恋しかしないのよ!」
「おいこらアバズレ? 誰が薄汚れた偽りの恋しかしてこなかったって? あぁん? テメェの無駄にデケェ乳首を引き千切るぞゴルァ?」
「はいはい、喧嘩しないの」
リンリンはエキサイトし始める2人を宥めながら、底意地の悪い笑みをカラスに向けた。
「とりあえず1週間だけ付き合えばいいから。そのあとは勝手に別れるなり、続けるなり、カラスの好きにしたらいいよ」
「続けるとかありえないから。いやマジで?」
そう言ってカラスはもう1度ため息をこぼした。
しかし、月宮カラスは知らなかったのだ。
この大神士狼との出会いが、彼女の人生を大きく変えてしまうことに。