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もう1つのエピローグ オオカミを狩るモノ

 ――私立九頭くずりゅう高校。


『名前を書くだけで合格できる』と噂されるほどのいわく付きの高校だが、この九頭竜高校は【ある分野】においては県内はおろか県外ですら名を轟かせる有名校であった。


 名前を書くだけで合格できる。


 それはつまり、どんなヤツでも名前さえ書いてしまえば合格できるということ。


 結果、全国の厄介者が流れ着く不良どもの流刑地るけいちとなり果て、日々校内はそんな血の気の多いケダモノたちの罵声と暴力により、喧嘩と抗争に事欠かなかった。


 必然的に『男を上げたい』『自分の腕っぷしを証明したい』という負けず嫌いたちを呼び寄せ、今や日本1の超風紀最低校である。


 そんなケダモノたちが巣食う九頭竜高校を誰が言い出したのか頭文字をいじくって、こう呼んだ。




りゅうの集まるクズ高校」と。




◇◇


 本来であれば立ち入ることの出来ない……いや許されない九頭竜高校の屋上。


 そこには顔や体に傷をつけた4人の男と、その男たちと対面して座る男が1人。




「キサマら……自分がナニをしでかしたのか、分かっとるんやろうなぁ?」




 4人の男をジロリッ! と一瞥いちべつしながら彼――鷹野たかのつばさはゆっくりと立ち上がった。


 自分たちより一回りも小さい鷹野に、4人の男たちは顔をうつむかせ、ただ嵐が過ぎるのを待つ子どものように黙っているだけ。


 そんな4人に翼は、




「カツアゲなんてチンケなマネして、そのくせ喧嘩に負けてノコノコと帰ってくるたぁ……よくもワシの顔に泥を塗ってくれたのぉ。おぉん?」

「す、すいませ――うっ!?」




 1人ずつ腹に拳をめりこませ、その場でうずくまる男たち。


 その小柄な身体の一体どこに収まっているのか分からないパワーが、的確に4人のみぞおちを貫き、息が出来なくなる。


 翼はそんな男の1人の髪の毛を乱暴に掴んで、無理やり顔を上げさせると、ぎ澄まされたナイフのような鋭い瞳を向けて言った。




「このままじゃ九頭竜高校のメンツが丸つぶれや。しゃーないから報復措置をとる。誰にやられたんや? 言え」

「も、森高の大神士狼って男です……」

「森高? 森高って、確か進学校の……。おいおい? おまえら、そんな坊ちゃん野郎に負けたんかいな? 情けない、実に情けないのぅ。それでも九頭竜高校の男か、キサマら?」




「チッ」と本格的に鬱憤うっぷんたまり始める翼。


 だがその鬱憤も、次の瞬間には綺麗さっぱり吹き飛んでいた。




「い、いえ……。じ、自分たちは喧嘩狼にやられました……」

「あぁ喧嘩狼ね、喧嘩狼――てっ!? お、おい今っ!? 喧嘩狼って言うたか!?」




 先ほどの怒り狂った姿とは一転、鬼気迫る表情で翼は男たちに詰め寄った。


 こんな慌てふためく翼を、今まで1度も見たことがなかったのだろう。


 男たちは驚きながらも、何度も頷いてみせた。




「つまり喧嘩狼は今、森実高校に居るんやな!? その情報に嘘はないな!?」

「は、はい。間違いないです……。そ、その……鷹野さん? どうしたんですか?」

「くくくっ……そうか、そうか! でかしたで、おまえら! 今回の件は特別に不問にしちゃるわ」

「えっ!? い、いいんですか!?」




 あぁ、と短く答える鷹野。


 その唇はニッチャリと喜悦に歪んでいた。


 ――見つけた、やっと見つけた。


 この1年間、一体どこに雲隠れしているのか分からなかったが、あの野郎そんなところに居やがったのか。




「どうりで探しても見つからないハズや。あの喧嘩狼が進学校に居るとは……そりゃ盲点やったわ」




 くっくっくっ! と笑みをこぼす鷹野を4人の男たちは不思議そうに眺め続ける。


 が、そんなこと鷹野には関係なかった。




「会いたかったぜよ、喧嘩狼」




 もう逃がさない。


 鷹野の瞳に危ない光が灯った。


 それはまるでオオカミを狩る鷹の姿を彷彿とさせた。

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