「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~んっ!? 鹿目ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~んっ!?」
カッコよく鹿目ちゃんたちと別れ、生徒会室へと帰ってきた俺は、自分の机に突っ伏して盛大に号泣していた。
「チクショウ、鹿目ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~んっ!?」
「なるほどねぇ。僕とネコちゃんが居ない間に、そんな面白いことが起きてたんだねぇ」
「面白いかはさておき、まぁ大変な1週間でしたよ?」
「……生徒会の恥め。勉強しろ、勉強」
「そ、そんなコト言っちゃダメですよ、ネコセンパイっ!? ほ、ほらっ! 落ち着いて、ししょー? ジュースでも呑んで、元気だしてよ!」
生徒会の打ち上げも終わり、午後7時ちょうど。
星たちが騒ぎ出すこの時間。俺は生徒会役員全員に見守られながら、わんわんっ!? とみっともなく泣き続けていた。
苦笑を浮かべる芽衣。
わくわく♪ と言った様子で目をキラキラさせる廉太郎変態。
侮蔑の眼差しを向けてくる羽賀先輩。
そして泣きじゃくる俺をフォローする大天使よこたん。
生徒会は今日も平常運転であった。
「あっ! あそこを歩いているアイツ、今、俺を見て笑ったぞ!? あっ、アイツもっ!? ソイツもっ!? どいつもっ!? こいつも!? み、みんな笑ってる……お日さまも笑ってる!? る~るるるっる~♪」
「ししょー、案外余裕ない?」
お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけるどころか、全裸でデストロイしかねない気分に浸っていると羽賀先輩が「……うるさい」と迷惑そうに顔をしかめた。
「……女なんて星の数ほど居るんだ。たかが1人にフラれた程度でピーチクパーチク
「まぁ星には手は届かないんだけどねっ! どんまい、シロちゃん♪」
「ちょっと待って、ししょーっ!? なんで窓から身投げしようとしてるの!? ここ3階だよ!? 洒落にならないよっ!?」
「離せ、よこたんっ! もう俺はこの世界で生きていける気がしないんだ! さっさとこの人生に見切りをつけて、異世界へと転生し『ロリ』『ジト目』『無愛想』3つ揃えばパーフェクトな家庭教師とキャッキャウフフ♪ な『おねショタ』ライフを満喫してやるんだぁぁぁぁぁっ!」
俺が無職のまま異世界へと転生するべく窓から身を乗り出そうとするが、ソレを何故か必死に食い止めようと俺の腰に抱き着く爆乳わん
えぇい、邪魔だ! 離せ!?
ロリっ
「ハァ……。士狼が生徒会に入部してから、毎日が騒がしいですね」
ワーキャー騒ぎ続ける俺たちから1歩距離を取っていた芽衣が、呆れたように肩を
「どうせ士狼のコトですから、あんなカッコいい事を言っておきながら、心の底では『もしかしたら、鹿目ちゃんが俺に惚れ直してくれるかも!?』とか思っていたんじゃありませんか?」
「思ってたぁぁぁぁぁぁっ!『ワンチャンあるかな!?』って思ってたぁぁぁぁぁぁっ! 60%位あるんじゃないかなって思ってたぁぁぁぁぁぁっ!」
「こ、降水確率なら100%だったね」
よこたんの謎のフォロー(いやこれフォローか?)を受けながら、おんおんと涙をポロポロ。ついでに思い出もポロポロ。
いやだってさ? あの流れは完全に俺に惚れる流れじゃん?
俺に『ほ』の字になって、ホテルへ直行の流れだったじゃん?
「チクショウッ!? なんで俺を追いかけて来てくれなかったんだぁ!? なんで『やっぱり
「未練タラタラじゃないですか」
「しょ、しょがないよ、ししょー。だってシカメさんは彼氏さんのことが大好きだから。だからししょーのことを騙していたワケだし……」
「……つまり最初からチャンスなんて無かった」
「くぅぅぅぅっ! 聞きたくない情報が湯水のようにぃぃぃぃっ!」
慰めるフリをして俺の心に深い傷を与えていく生徒会シスターズ。
もしかして彼女たちは俺を脱水症状で殺そうとする、どこかの刺客だったりするのだろうか?
俺は大雨洪水警報を発令している顔面のまま、酔っ払いが喚き散らすように。
「やっぱりこの世の中、俺のことを好きでいてくれる女の子なんていないんだぁぁぁぁっ!」
「そ、そんなことないって! ししょーのことを好きな女の子は必ずいるよ!」
「じゃあここに連れて来てみろよ! 今すぐに!」
「荒れていますねぇ」
くそったれめ! 俺の未来のマイワイフ☆ は、一体どこに居るんだよ!?
俺はいつでも受け入れ態勢万全だというのにっ!
「どこに居るの? 俺の運命のマイワぁぁぁ――イフッ!?」
「あ、案外すぐ近くに居たりして……なんて」
「あらっ、洋子? 顔にお菓子がついていますよ? 取ってあげますね?」
「えっ、ほんと? ありがとう、メイちゃ――痛い痛いっ!? 痛いよ、メイちゃん!?」
えへへっ、と恥ずかしがる大天使よこたんの顔を、ハンカチでグリグリと乱暴にこする芽衣。
なんかよく分からんが、よこたんの言葉が芽衣の癪に触ったらしい。
暴君かな、アイツ?
そんなことをしていると、コンコンッ! と生徒会室のドアがノックされた。
瞬間、すぐさま生徒会長モードの外行き
そしてやや遅れて重苦しい音を立てて扉が開くと、マッチョ限定『としまえん』の異名を持つヤマキティーチャーがズカズカッ! と中へ入ってきた。
「やはりここに居たか大神。まだ帰ってなくて安心したぞ」
「先生? どうしたんすか、こんな時間に?」
「なぁに、ちょっとおまえに用件があってな」
俺に用件? と首を傾げていると、先生は本当に心の底から申し訳なさそうな顔を浮かべて。
「一応、おまえの保護者には先に伝えてあるんだが……」
「なんですか? そんなモジモジして? 可愛くありませんよ?」
そこには大きな巨体をモジモジさせ、言いづらそうに口をモゴモゴさせる筋肉の塊がいた。
あの、先生? そういうのは美少女がするから可愛いのであって、筋肉モンスターの先生がすると化け物にして見えませんよ?
と俺が口を開くよりも速く、ヤマキティーチャーは覚悟を決めたように、まっすぐ俺を見つめて。
「なぁ、大神よ。おまえが入学して1年と少し、色んな事があったよな?」
「急にどうしたんですか、先生?」
ヤマキティーチャーは遠い目をしながら、まるで青春時代を思い起こすかのように小さく吐息を溢した。
「入学2日目にして放送室を
「放送室占拠って……『アレ』ししょーの仕業だったんだ……」
「いやぁ、お恥ずかしい♪」
「褒めてませんよ?」
古羊姉妹の冷ややかな視線を一身に浴びながら、ヤマキティーチャーの言葉に耳を傾けていく。
「校長先生に至っては、もう地獄に1番乗りする気マンマンのおまえの行動を見て『とんでもないバカが入学してきちまった……』と職員会議で愚痴っていたよ。校長先生に変わって、謝罪させてくれ。あのときはバカにして本当にすまない」
「すげぇ。こんなムカつく謝罪をされたのは生まれて2度目だわ……」
謝っているフリをして俺を
なんでこんな人が教職員なの?
もっとマシな人材が居ただろうに……。
俺が現代の教育現場の闇に触れている間に、ヤマキティーチャーは手に持っていたテストの回答用紙を俺の机の上にそっと置いた。
「でも先生、思うんだ。どんなバカでも、子どもは無限の可能性を秘めた財産なんだって。『落ちこぼれ』だろうが『優等生』だろうが、どんな生徒にも必ず長所はあり、ソレを発見し、伸ばしていくのが我々教師の役目であると」
「や、ヤマキ先生……」
まるで熱血教師のように熱いことを言ってくる筋肉ダルマ。
なんでそんな急に優しいことを言うのだろうか?
ヤンキー母校に帰るのだろうか?
そんなことを考えていると、開けっ放しにした窓から湿った風が生徒会室を駆け抜けて行った。
「喜べ大神。今日、おまえの長所がハッキリと分かったぞ」
途端に桜吹雪が舞うように、俺の机に置かれていたテストの回答用紙がハラハラと宙を舞う。
そして俺の足下を狙っていたとしか思えないベストポジションを持って、不時着するソレ。
俺はソレを拾い上げ、点数の確認をする。
そこには俺の名前と、
「おまえの長所は――勉学ではないらしい」
名前の横に、