倉庫に飛び込むなり、いきなり鹿目ちゃんが男に押し倒されていてビビった。
ビビりすぎたので、つい勢い余って鹿目ちゃんに覆い
まぁ身体も小刻みに痙攣しているし大丈夫だろう、うん!
自分を無理やり納得させ、残りの男共の数を確認する。
ひぃ、ふぅ、みぃ……3人か。
「ど、どうして? どうして、センパイがここに……?」
「ちょっと待ってな。すぐ終わらせてくるからよ」
「へっ?」
呆けた声をあげる鹿目ちゃんの脇を通り過ぎるなり、3人の男のうちの1人が、怒声を上げながら突っ込んできた。
「ふざけんじゃねぇぞ、ゴラッ!?」
「ふざけてねぇよ」
振り抜いた拳を紙一重で躱し、無防備になった右のレバーに左の中段回し蹴りを叩きこむ。
そして痛みで顔が前に出て来たところを、右足の上段回し蹴りで蹴り飛ばす。
地面に倒れ込む男と入れ替わるように、もう1人が拳を振り抜いてきた。
それを鼻先寸前で躱し切り、左の下段蹴りを放つ。
体勢が崩れたところで、再び右の上段回し蹴りを男の側頭部に叩きこむ。
男が膝から崩れ落ちるのを確認し、最後に残った1人を睨みつけた。
「テメェで最後だ」
「うぐっ!? なんだコイツ!? マジ
俺に睨まれて体が強ばる男。
その隙を縫うように、とっつぁんメガネが鹿目ちゃんのもとまで駆けだした。
「ま、窓花! だ、大丈夫だったか!?」
「う、うん。ワタシは大丈夫……。でも、どうして大神センパイが、ここに?」
「そんなのいいから、今は逃げるのが先だ!」
「ま、待ってダイちゃんっ!? ……こ、腰が抜けて立てないの」
2人のやりとりを耳にしながら、1歩、また1歩と男との距離を詰める。
その瞬間、男がツバを吐き散らしながら、脅すように俺に向かって叫んだ。
「お、おまえっ!? 俺らがクズ高だって分かって、手ぇ出してんのか!? こんなことして……2度とこの町を歩けると思うなよ!? 必ず俺らの仲間が、おまえに報復するからな!」
「やってみろや。俺は森高の大神士狼だ。テメェらがどこのどいつかなんざは知らねぇが、俺の
ドンッ! と男の
激しく咳き込みながら、その場でうずくまる男の髪を掴んで持ち上げる。
そのまま吐息がかかりそうなほど男に顔を近づけると、俺は念押しするように口をひらいた。
「いいか、よく聞けよ? もし今度、俺のダチに手ぇ出したら、その面で2度とこの町を歩けないようにしてやるからな。分かったか? 分かったなら返事は!?」
「わ、分かった……。もうコイツらには近づかねぇよ……。だ、だから、もう勘弁してくれ……ください……」
言質を取ることが出来た俺は、男の髪の毛から手を離してやった。
そんな光景を見て、とっつぁんメガネが「すげぇ……」と小さく声を漏らす。
俺は転がっている男共の屍を無視して、鹿目ちゃんたちの方まで歩み寄ると、俺にビビっているとっつぁんメガネに向かって1つだけ忠告してやった。
「おい兄ちゃん。こういう奴らはな、1度でも美味しい思いをすると際限なく調子に乗るから、
「は、はい! き、肝に銘じておきますっ!」
「大神センパイ……どうして? どうして、助けに来てくれたんですか? わ、ワタシ、あんなに酷いことしたのに……」
気がつくと、鹿目ちゃんはポロポロと涙を流していた。
「泣かないでくれよ鹿目ちゃん……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……ワタシ、ワタシ……っ!」
「いいんだよ、別に。こういうことは慣れたもんだからさ」
それに、と満面の笑みを浮かべて俺は彼女に言ってやった。
「惚れた女の好きな男くらい、守ってやるのが男ってもんだろ?」
「――ッ! あ、ありがとう……ございます……っ!」
泣きじゃくる鹿目ちゃん。
俺はその隣にいるとっつぁんメガネに、目線だけで語りかける。
あとはおまえの役目だぜ?
俺の意図を汲んだのか、とっつぁんメガネはコクンと小さく頷くと、鹿目ちゃんの震える肩をそっと抱きしめた。
そんな2人を尻目に「じゃあな」と短く別れの言葉を告げ、倉庫を後にする。
夏空の下、俺は俺の帰りを待っている仲間のもとへと歩き出す。
愛しき人に背を向けて。
今度こそ、本当にさようなら鹿目ちゃん。
……俺の大切だった人。