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第3話

 先々月の企業説明会までは井浦教授を「カーネルサンダース、だっさ」とさげすんでいた女子生徒たちだったが、濃灰のスーツ姿に「カーネルサンダース、イケオジじゃん」と目の色を変えた。以来、惣一郎の研究室教授の個室には入れ替わり立ち代わり下心満載の生徒たちがやって来てはその扉をノックした。


<不在>


「えーーー、またいないの」

「出張なんじゃない」


 肩を落とした生徒たちは各々の制作室へと戻って行ったが、実はカーテンを閉め電灯を消した研究室の中では。夏季休暇を数日後に控えた暑い日、昼の時間も姿の惣一郎が私を愛撫した。


ちゅぱ ちゅぱ


「んっ」

「しっ、静かに」


 私は惣一郎の太腿の上に座らされた。


ぎしっ


 回転椅子が軋む。私は惣一郎の胸板の厚さを感じながら舌を絡め、口腔内を舐めまわし、互いの唇を軽く噛み合った。


(ーーーあ)


 惣一郎の股間は熱をもって形を変えているのに、私の首筋に口付ける事もなければ胸に触れる事もなかった。


(ーーーなんだか試されているみたい)


 惣一郎が一線を越えない理由がなにか、私には皆目分からなかった。


そして私は課題を提出し自由の身となった。然し乍らそれは惣一郎と理由がなければ会えないという事を意味していた。


(ーーーだって)


 そもそも自分たちの関係をどう表現したら良いのだろう。私自身、惣一郎に「好きだ」と告げた事はない。惣一郎からそういった言葉を聞いた事もない。昇降口で蟻の巣を眺め、いつの間にか私的な関係に発展していた。


(セックスフレンドとは少し違うか)


 どこまでの性行為を以てセックスフレンドと定義づけるのか曖昧でよく分からない。


キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン


 最終日、最後の授業のチャイムが鳴り前期が終了した。


「おい」

「なに」


 大垣光一から一緒に海に行かないかと誘われたがそれは丁寧にお断りした。


「なんでだよ」

「海は嫌いなのよ」

「海はいいぞーー、バイクで千里浜海岸ちりはまかいがん走ろうぜ」

「その千里浜で溺れかけたの!」

「いつ」

「小学生の頃!」

「生きてて良かったな」

「だから海は嫌いなの!」


 賑やかしく階段を降りると惣一郎が研究室から顔を出し、私に手招きをした。ベージュの帽子、扉には<在室>が掲げられカーテンが開け放たれていた。電気も点いている。姿の惣一郎だった。


「じゃ、俺、行くわ」

「うん」

「千里浜行きたくなったらLINEな」

「絶対、それはないと思う」


 惣一郎の部屋の扉をノックすると回転椅子に座った姿が机に片肘を突いて物憂げな目で微笑んでいた。


「七瀬ちゃん、僕ののモデルをやってみないかい」


 私は即答した。



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