駅前に社屋を構える辻崎株式会社は創業者である
そして辻崎株式会社の2階には社員の福利厚生施設として喫茶軽食を扱うパティスリーがあった。
「はぁ、疲れた」
「今日も忙しかった〜!」
「ここに来るとホッとするわ」
「いやぁ、果林ちゃん林檎の美味しい季節になったね」
「タルトタタン(りんごケーキ)、焼き上がったところです」
「おっ、じゃぁ頂こうかな」
パティスリーに果林の笑顔が咲き誇る。果林はApaiserのオーナー兼パティシエールだ。
「果林さん!先月の売り上げを超えましたよ!」
「これから寒い季節になると甘いメニューが沢山出るからね!大変だけど頑張ろうね!」
「はい!オーナー!」
「まぁーた来てんの」
「悪いか」
「悪いよ、副社長の業務はどうしたんだよ」
「午前中に全部片付けた」
宇野は観葉植物と同化している副社長の姿に呆れた顔で腕組みをした。
「残念だな、そんなおまえに客だよ」
「そんなアポイントメントは無い!」
「弁護士だよ
「そんな店はもうない!しかもあいつはオーナーでもなんでもない!」
「はいはいはい」
宗介は名残惜しそうに
「この度はご足労頂きまして」
「こちらもご報告が遅くなりまして」
「立ち話もなんですから」
2人は総務課会議室の扉を開けた。
「さて、
「杉野恵美」
「杉野恵美さんに関しては家庭裁判所での話し合いで賠償請求額は50万円という事になりました」
「ちっ、少ねぇな」
「血?」
「いや、なんでもありません」
「杉野恵美さんは夫から慰謝料を請求されましたので裁判所は支払い能力に欠けると判断し50万円を言い渡したようです」
「杉野恵美は離婚したのか」
「
「ザマァ」
「様?」
「いや、なんでもありません」
弁護士は指先を舌で舐めるとファイルを数枚まくった。
「さて、
木古内和寿は果林の元雇用主、菊代はその母親である。
「で、支払われたのか」
「副社長のご指示通り和寿氏の家屋、家財、菊代さんも同じく家屋、家財、全て抵当に入れました。まぁ、実質退去ですね。菊代さんは市内有数の一等地に土地をお持ちでしたからそちらも手放して頂きました」
「はーはははははは!はーーーーっはははは!」
「ふ、副社長?」
「あ、申し訳ない。背中が痒くて」
「はぁ」
一瞬、素が出そうになった宗介は笑いをグッと堪え和寿の果林に対する付きまといの件について尋ねた。それに関しては警察に被害届出済みで、今後木古内和寿が果林に接触した際は逮捕起訴されると言った。
「ありがとう、助かった」
「いえ、お役に立てて何よりです、それではこれで失礼致します」
弁護士が総務課会議室の扉を閉めると宗介が再び背中が痒いと奇声を発し始めた。
「はーはははははは!はーーーーっはははは!」
これで果林の
14:00
毎日この時間になると
「アフォガートはイタリアでは溺れるという意味だそうですよ」
その男性の名前は辻崎株式会社 副社長
「そうなんですね」
「はい」
「私はもうあなたに溺れていますよ」
そう言って微笑む女性の名前は
了