目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第27話 ぺちゃんこ


 浴槽は俺が独占しているため、仕方なく航太は身体を洗うことにした。

 洗うと言っても、スクール水着の上からだが……。

 ボディシャンプーを手に取り、スポンジに少しかける。


 器用に泡立てていく航太。

 手の平でふわふわと揺れる、大きな泡を見て笑う。


「ははは、見てよ。おっさん、しゃぼん玉が作れそうだぜ」


 そう言われても、視線を彼に向けることを躊躇してしまう。

 また、見てしまいそうだから……。

 今はバスチェアの上に、脚を閉じて座っているから目立たないけど。


 意識しなくても、あの可愛らしい膨らみに、目が行ってしまいそうで怖い。

 俺のことなぞお構いなしに、航太は声をかけてくる。


「なあ、おっさん。一緒に身体を洗おうよ」


 思わず、アホな声が出てしまう。


「は!? い、一緒に洗うだと!?」

「な、なんだよ……別に男同士だから良いじゃん」


 と唇を尖がらせる航太。


 まあ、そう言われたらそうか……。

 俺の考えすぎだ。

 今は、お互い水着を着ているし。間違いなんて起こらないだろう。


  ※


 お言葉に甘えて、背中を洗ってもらうことにした。


「おっさん、気持ち良い?」

「うん……」


 彼の小さな手がとても心地よかった。

 思えば、誰かに背中を洗ってもらうことなんて、経験したことないかも。

 子供の頃も両親は仕事で忙しく、あまりかまってもらえなかったし。


 あいつと付き合っていたころも、一緒にお風呂へ入ることも無かった。

 際どいコスプレとかを着るくせに、そういうところは恥ずかしがり屋で……。

 お互い水着を着ているとはいえ、裸の付き合いってのは、初めてかもしれない。


「おっさん! 背中、洗い終わったからさ。今度は頭をしようよ!」

「え……頭ぐらい、自分で出来るよ」


 恥ずかしさから、断ろうとすると、航太が怒り出す。


「なんでだよ!? 良いじゃん、こういうのもマンガに使えるかもしれないじゃん!」

「うっ……」


 仕方なく、シャワーで身体の泡を流し、今度は頭を洗ってもらうことに。

 頭を洗うと言うのだから、後ろから洗ってくれるのかと思ったが、彼のやり方は違うらしい。

 俺が航太の方に顔を向けて、正面から洗うスタイルだ。


「なあ、洗いにくくないのか?」

「ううん。オレ、いつもこのやり方で母ちゃんの頭、洗ってるもん」

「あ、綾さんと?」

「そうだよ。だって母ちゃん、いつも酔っぱらってるから。オレが洗ってやらないと、髪がバサバサだし」

「……」


 まだ母親の綾さんとお風呂に入っているのか。

 なんだか想像したら、イラっとするな。

 航太じゃなくて、綾さんに。甘えんなよって……。



 それにしても、距離が近い。

 目の前には、スクール水着の胸元が見える。

 白いゼッケンが貼ってあり、前の持ち主の名前『2-A 高砂たかさご 美羽みう』と書いてある。

 しかし、今はそんなこと、どうでも良い。


 航太は、俺の頭を洗うのに集中しているため、気がついてないようだが。

 後頭部を力強く掴み、自身の胸へ俺の顔を擦りつけている。


「う~ん……おっさんて、後頭部がぺちゃんこなんだね?」

「そ、それがどうした?」

「なんていうか、頭の形が悪いなって思ってさ」

「……」


 どうでもいいだろ、そんなこと。

 心臓がバクバクとうるさく、口から飛び出そうだ。

 航太のまな板みたいな、薄い胸板に……興奮している自分が許せない。


  ※ 


 航太に全身を綺麗に洗い流してもらったところで、俺はそろそろ終わりにしようと告げる。


「もう……これぐらいで、いいだろ?」

「えぇ~ まだお風呂に入ってないじゃん」

「俺は入ったよ。先に上がるから、航太だけ入ればいいだろ? どうせ、こんな狭い浴槽じゃ、二人は無理だって」


 すると、航太は唇を尖がらせる。


「なんだよっ!? 一緒に入らないとマンガに使えるか、わかんないじゃん!」

「でも……どうやって、入るんだ?」

「簡単だよ、おっさんが先に入って、後からオレが入るんだよ」

「……?」


 ちょっと彼の言っていることが分からなかった。

 しかし、数分後。俺はお風呂から出れば良かったと後悔する。

 航太の言った通り、先に俺が浴槽へ浸かると……。


 何を思ったのか。航太が俺の股間に跨ってきた。

 水着越しとは言え、小さな尻が腹の上に乗っかっている。

 ヤバい……このままじゃ、”反応”してしまう。


「あ~ 気持ち良い~ ねぇ、おっさん?」

「……そ、そうだな」


 早く言い訳して、ここから逃げないと。

 航太にバレるぞ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?