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第26話 試そうよ


 葵がバスに乗ったところで、ようやく一安心。

 年の離れた妹とは言え、何かと口うるさい奴だからな。

 別れ際に「たまには実家に顔を出せ」とお説教されたし……。


 まあ俺としては、もうあの家に戻るつもりはない。

 親の反対を押し切って、自分から家を出て行ったのだから。

 年収だって不安定だしエロマンガの原作を仕事にしていると言えば、両親は激怒するだろう。

 だから面倒くさい。


  ※


 アパートに戻り、自宅の扉を開けると……。


「あ、おっさん。おかえり」


 頬を赤らめた航太が出迎えてくれた。

 身体をもじもじとさせて、恥ずかしそうにしている。


「おう、ただいま」


 サンダルを玄関に脱ぎ捨て、リビングへ向かうと、ちゃぶ台の上になにか置かれている。

 先ほどまでカーテンレールに掛けられていた、スクール水着だ。


「な、なんでこれが……」


 困惑する俺を見て、航太が慌てて説明する。


「これはさ! 妹の葵さんが言ってたじゃん!」

「え、葵が? 何か言ってたけ?」

「おっさんの部屋に、こんな中学生のスクール水着があったら、変態と思われるってことだよ」

「まあ……そう見られても、仕方ないよな」


 航太はちゃぶ台から水着を持ち上げると、唇を震わせてこう言った。


「だからさ、試そうよ!」

「ん? なにを?」

「ちゃんとさ、資料として使えば、言い訳になるじゃん。だから今からオレが着てみるよ!」

「はぁ?」


 耳を疑った。

 一体どうしたら、そんな発想に至るというのだろう。


 ~30分後~


 航太に言われて、俺は風呂場へ入り、浴槽の隣りにある給湯器のつまみを回す。

 古いアパートだから、”バランス釜”というガス風呂だ。

 バカでかい給湯器が邪魔して、浴槽はとても狭い。

 人がひとり入れば、お湯が溢れてしまう。


 まあ家族がいない俺からしたら、これで十分だが。

 そんなことよりも、今の状況だ。

 真冬だというのに俺は、なぜか海パン一丁でお風呂を沸かしている。

 航太がこれを着てくれと言ったから……。


「おっさんにはスク水を着てくれるような、女子中学生が近くにいないだろ? だから設定を作ろうよ」


 彼が考案したのは、架空の女子中学生と一緒に、温水プールへ入るという設定。

 だからお互いに水着を着て、浴室で遊ぼうというストーリー。

 まったく、なんとも航太らしい。子供の考えそうな幼稚な設定だ。

 本当にこんな事で、エロマンガのネタになるかな?


  ※


 航太はスクール水着に、着替えるのに手間どっているようで、なかなか浴室へ入ってこない。

 ま、男だから女物の水着なんて難しいよな……。

 いくら浴室とはいえ、海パン一つじゃ風邪を引きそうだ。

 仕方なく、お先に浴槽の中へ入ることにした。


「はぁ~」


 こんな狭くてボロい家でも、温かいお風呂があれば最高……と感動していると。

 浴室の扉が開く、音が聞こえた。


「お、おまたせ……」


 頬を赤くした少年が、目の前に立っている。

 久しぶりに見た、スクール水着はとても眩しかった。

 緊張しているようで、胸元から汗が滲み出ている。

 本当にあのツンツンした航太か? と見間違えるほど愛らしい。


 しかし、中学生時代の高砂さんと体型がほぼ変わらないようだ。

 褐色肌の身体にピッタリと、水着が張り付いてる。

 当然だが胸は無い。絶壁だ。


「……」


 彼の姿に見惚れ、言葉を失う。

 そんな俺を見て航太は。顔を真っ赤にして怒り出す。


「な、なんだよ! 何か言ってもいいだろ!?」


 そうは言われても、俺自身。金縛りにあったような、感覚に陥っていた。

 分かっていたはずなのに……いざ、それを見ると興奮してしまう。

 理性でどうにか自分を保っているが、航太のそれに魅力を感じる。


 古いワンピースタイプのスクール水着だから、お尻のラインが強調されているのは当たり前だが。

 俺が気になって仕方がないのは、股間だ……。

 男のシンボルとしては、まだ幼く。可愛らしいものだが、しっかりと膨らみはある。


「いかん!」


 理性が吹っ飛ぶ前に、俺は自身の顔を浴槽に沈めた。

 水中だからよく聞こえないが、航太が何かを叫んでいる。

 でも、今はこれで良いんだ……。


 そうでもしないと俺は、変なことを起こしてしまいそう。

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