目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第25話 パパ活じゃないよ


「おっさん! 女子高生を家に入れて、なにをしてたんだよ! その人泣いているじゃん!」


 そう言うと、ずかずかと音を立てリビングへ入る航太。

 顔を真っ赤にして、セーラー服姿の少女を指差す。

 ちゃぶ台を間に挟み、目の前で正座しているのは俺の妹、葵だ。


 変なところで彼が乱入してきたため、また誤解されてしまった。

 まったく面倒な時に、俺の家へ来たもんだ……。


「航太、待ってくれ。この子はそういうんじゃない。泣いているのも、その……」

「なんだよ!? いやらしいことをして、傷ついたんじゃないのかよ?」


 なんで実の妹に、そんなことをするんだよ。

 葵も、葵で。俺から未来を振ったことにショックを受けているようだ。

 中々泣き止まない。

 両手で顔を隠して、しくしく泣いている。


「ひっく……うぇぇん……」


 その泣き声を聞いて、更に怒りが増す航太。


「ほら見ろよ! この人、傷ついてるじゃん!」

「ち、違うって。俺じゃなくて……まあ俺のことなんだけど」

「おっさんさ! 作品のためなら、なんでもする最低野郎じゃん!」

「……」


 否定はできないか。


 ~10分後~


 涙が枯れたのか、ようやく葵も落ち着いてくれた。

 俺はその間、航太に妹の存在をしっかり説明して、彼も納得。

 逆に妹の葵に失礼なことをしたと、頭を下げていた。



「へぇ~ 本当にあのキッチンとか、部屋を掃除したの、君なんだ?」


 葵にまじまじと見つめられ、緊張してしまう航太。


「あ、あの……はい。オレがやりました」

「すごいねぇ、男の子なのに器用なんだぁ」

「死んだばあちゃんに、色々と習ったんで……」

「ていうか、本当に男の子なんだね? 名前を聞くまで女の子だと思ってたから」


 俺を無視して、二人で会話を楽しんでいる。

 それは良いのだが、航太のやつ。なぜ葵には敬語なんだよ。

 まあ葵は高校生だから、年上だけど。


「ところで翔くん?」


 急に話を振られたので、ビクッと震えてしまった。


「なんだ?」

「あのさ……この家に、久しぶりに入って。綺麗に掃除されていることで、驚いて忘れていたんだけど」


 そう言って、ゆっくり部屋の壁に指を差す葵。

 俺と航太も一緒になって、その指先へ視線を合わせる。

 葵が指した方向にはカーテンがあり、一着の衣装がかけてある。


 高砂さんが送ってきた資料のひとつ。スクール水着だ。


「あれって、誰の?」


 俺と航太は、事前に打ち合わせをしていたわけでもないのに。

 同時に同じ行動を選んだ。

 それは沈黙だ。


「「……」」


 視線を畳に落としているから分からないが、きっと航太も同じ状態のはず。

 火が付いたように、頬が熱い。


「ねえ、聞こえてる? 翔くん? あれってさ、中学生ぐらいの水着でしょ?」


 原稿を書く時、頭の中で航太にスクール水着を着せるため……とは言えないよな。


  ※


 結局、スクール水着のことは何も答えず。

 もう夜も遅いからと、葵を近くのバス停まで送ることにした。


 航太は持って来た圧力鍋に、

 「豚の角煮が入ってるから、おっさん家のガステーブルで温め直したい」

 と、留守番してくれるそうだ。本当に何でもしてくれるな。



 タバコをくわえながら、葵と並んで歩く。

 すっかり辺りが暗くなったため、女子高生をひとりで歩かせるのは、気が引ける。

 特にこの藤の丸ふじのまるという町は、店や街灯が少ないから。


 しかし、妹もデカくなったもんだ。

 こうして並んで歩くのも久しぶりだけど、あまり身長差を感じない。


「ねぇ、翔くん」

「ん?」

「歩きタバコやめなよ……」

「う、悪い」


 注意されるまで、気がつかなかった。

 半纏から携帯灰皿を取り出し、火を消す。

 それを見た葵が「よろしい」と頷く。


「あのさ、航太くんって。本当に翔くんの友達なの?」

「え……そうだけど」

「悪いけど、そんな風には見えないんだよね」


 思わずドキっとしてしまう。


「な、なんでだ?」

「う~ん、うまく表現できないけど。寂しさから翔くんに甘えている感じかな」

「別に良くないか? 子供だし俺に甘えても……」

「そうじゃないんだよ、すごく必死に見えるの。普通の子供らしくない。助けを求めて翔くんにしがみついているような……」


 たった一回しか会っていないのに、すごい洞察力だ。

 多分、母親の綾さんのことを言いたいのだろう。

 しかし葵は、母親に会ってないから、そこまでしか想像できない。


「翔くん、あの子に何かあったら、助けてあげなよ」

「お、おう……」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?