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第17話 資料用だから…


「見た感じ、あれって中学生ぐらいだよね?」


 航太に指摘されたセーラー服やスク水。

 大人の女性が着るには、サイズが小さすぎると彼は言いたいのだ。


「その……あれは今度、書く新作用に編集部から送られてきただけで」

「てことは、エロマンガのモデル?」

「ああ、そうだ」


 皿を洗い終えた航太は、エプロンを脱ぎ、こちらへ振り返る。

 そして頬を赤くしたまま、俺の顔を黙って見つめる。


「……」


 沈黙が続く。気まずい。

 彼は一体、何を考えているのだろう?


「ねぇ、おっさん。その……元カノじゃ、あのセーラー服は無理だよね?」

「へ? ああ、編集からの依頼でな。ロリもの……つまり、未成年のヒロインが良いらしい」

「ふ~ん、じゃあおっさんの周りに、女子中学生はいるの?」

「いや……だから困っているんだ。勝手に送られてきたからな。今度、連絡を取ってちゃんと返却するさ」


 そう言って、カーテンレールからセーラー服を取ろうとした瞬間、航太が叫ぶ。


「待って!」

「え?」


 振り返ると、顔を真っ赤にさせた航太が、目の前に立っていた。

 どうやら緊張しているようで、肩を震わせている。


「お、オレが着たら……ど、どうかな?」

「は?」


 思わず耳を疑った。

 あのツンツンした航太が、これを着るだと?


「おっさんは元カノをモデルにしたんじゃん? なら今回はオレで良くない?」

「!?」


 ちょっと待て……航太は男だぞ。

 それに彼は、女装の趣味でもあるのか?

 航太の顔をまじまじと見つめていると、彼が何かを察したようで、顔を真っ赤にして怒り始める。


「ち、ちげーからな! オレはそんな女みたいな趣味ないぜ!?」

「……なら、どうして?」

「おっさんが困ってるように見えたから……オレと、いつも仲良くしてくれるからだよ」

「それだけで?」

「別に良いじゃん! 友達が困っていたら助けたいって思うのは、普通だろ!?」

「う、うん……?」


 彼の意見を否定はしないが、肯定も出来ない。

 男友達のために、そこまでする野郎は見たことない。

 最近の若い子なら、普通のことなのだろうか?


  ※


 「じゃあ、おっさん。ちょっと着替えてくるから、待ってて……」


 そう言うと航太は、セーラー服を持って、脱衣所に入る。

 脱衣所と言っても薄いカーテンで仕切りを作った簡易的なもの。

 我が家は玄関を開ければ、右手が脱衣所と洗面所だ。


 元々、学生時代に引っ越してきた時は、何もなかった。

 でも“あいつ”と付き合っている時「丸見えだから、何かで隠して欲しい」と設置したものだ。


 もし……俺がカーテンを設置してなければ、今ごろ丸見えだったな。

 って、何を考えているんだ。

 相手は男の子だぞ? 着替えているところを見たいなんて、俺はバカか。

 ちょっと待てよ。その考えなら、別に男同士だから見られても平気なのでは……。


 とひとりで考えている間に、カーテンが開いてしまう。


「ど、どうかな? やっぱりおかしい?」


 頬を赤くして、こちらを見つめる少年は……。

 いや、完璧な少女だ。

 髪がちょっと短いけど、ボーイッシュな女の子って感じ。


 紺色のセーラー服に、赤いスカーフ。

 スカートの丈は長めで、膝下まである。

 だがそこが真面目っぽくて、魅力を感じる。


 その姿を見た俺は、言葉を失っていた。


「……」

「ねぇ、おっさん? どうしたの?」


 距離を詰めて、下から俺を睨む航太。

 身長差があるから、どうしても上目遣いになる。

 大きなブラウンの瞳に吸い込まれそうだ。

 思わず、生唾を飲み込む。


 何を考えているんだ、俺は……。

 この子は航太。男の子だぞ?

 あれかな。もう何年もご無沙汰だから、感覚がおかしくなっているのか。


「ところで、どうなの? おっさん?」


 俺のことなぞ、お構いなしに下から覗き込む航太。


「ああ……すごく、可愛いよ」


 つい見惚れてしまい、本音がポロリとこぼれる。


「え?」


 俺の回答に航太まで驚き、固まってしまう。

 ヤバい、このままじゃ変に思われそうだ。


「いや、そういうんじゃなくてさ。久しぶりにセーラー服を見て、可愛いなって」


 かなり無理のある言い訳だった。

 しかし航太もなにかを感じ取ったようで、慌てて話を合わせる。


「そ、そうだよね! おっさんはもう30歳になるから、セーラー服とか見る機会ないもんね」

「うん。だから嬉しいというか……しばらく見てたいというか」

「え……?」


 また墓穴を掘ってしまった。

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