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第11話 証拠を出せっ!


 人通りの少ない道をひとり歩く。タバコをくわえて。

 口から煙を吐きだしても、誰も文句を言わない。

 すれ違うのは、旧国道線を走る車だけ。

 この時間、歩道にはほとんど人がいない。


 さびれた街と言えば、終わりになるが……。

 しかしこの静けさ。俺は嫌いじゃない。

 近くの店は居酒屋や喫茶店、コンビニぐらいしかないけど。

 それでも、この藤の丸ふじのまるという街は落ち着く。


 ちょっと通りを曲がれば、灯りが少なく暗いため、おっかないところもあるけど。

 俺みたいな作家崩れは静けさこそ、リラックスできる。

 ネタに困った時は、この近所を歩き回るのが一番だ。

 歩きタバコは良くないけど、まあ人と会ったらすぐに消すさ。


『SYO先生、どうか一回で良いので、ロリものに挑戦しませんか!?』


 喫茶店で、担当編集の高砂さんの放った言葉が頭をよぎる。


「参ったな……」


 高砂さんはまだ新人で、打ち合わせをしたのは3回目だ。

 それほど、コミュニケーションが取れていない。

 以前の編集は何も文句を言わない、おっさんだったし……。


 ロリものねぇ。

 書けないこと無いかもしれないけど、俺はそんな趣味ないし。

 それに……今人気のあるムチムチシリーズは、“あいつ”をモデルにしているもんなぁ。

 口が裂けても言えないよ。

 元カノのことをエロマンガのキャラに使っているなんて。



 気がつくと住んでいるアパートが目に入った。

 俺の住んでいるアパートも、灯りが少なくてどこかおっかない。

 所々、錆びているし二階へ昇る階段も何個か穴がある。


 金に困ってなけりゃ、こんなところへ住まないよ。


「あ、おっさん!」

「え?」


 見上げると、二階の柵から細い二本の脚をバタバタとさせる少年の姿が。

 黄色のトレーナーワンピースを着ていて、下から見るとどうしても股間に目が行ってしまう。

 まあ、中身はショートパンツなんだけど。


「おっさん! この前の話、オレちゃんと調べてきたぞ!」

「は? なにを言っているんだ?」


 航太の話を聞きながら、階段を登る。


「ま、前に言ってたじゃん! おっさんはそういう店で童貞を使ったって!」

「……」


 童貞は使うじゃなくて、捨てるものだと思うが。

 なんか良く分からんが相手は、まだ中学生だ。

 思春期だし、色々と考えているかもな。

 話だけは聞いてやろう。


「オレさ、スマホで調べたんだぜ! そういう店で童貞は捧げられないんだって」

「一体どういう……」

「だからおっさんは、素人童貞だっ! 本当の童貞は捧げられてないってことなんだよ!」


 自分の家にたどり着き、ドアの鍵を開けようとするが……。

 頭が真っ白になり、固まってしまう。

 この子は一体、なにが言いたいのだろう?


「お、おっさんはやっぱりモテないんだろ! 変に格好つけんなって。だからエッチな話しか書けないんだ!」


 そう言うと、俺の顔目掛けて、ビシッと人差し指を指す。


「……」


 なんて返したら良いんだ?

 この子、どうしても俺をこけ下ろしたいんだよな。

 きっと自分が童貞だから、俺も童貞であってほしいとか。

 参ったな。変にプライドを傷つけたくないし、どうやって伝えるべきか。


「あのな、航太。確かに俺はピンク系の店で、童貞を捨てた。だけど、そのあと彼女が出来たから。もう世間一般で言う童貞じゃないと思うぞ?」

「はぁっ!? おっさんに彼女がっ!?」


 大きな瞳を丸くして、驚いている。

 俺ってそんなにモテないように見えるのか?

 ちょっとショックだな。


「ああ、もう別れてだいぶ経つけどな……」


 これで満足してくれただろうと、ドアノブを回そうとしたその時だった。


「ウソだっ!」


 航太が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 アパート中に響き渡ったんじゃないだろうか。

 その大声に俺もビクッと震える。


「航太……?」

「ウソに決まってる! そんな毎日ダセェ半纏を着ているような、おっさんを好きになる女なんて、この世にいるかっ!」

「それは……」

「本当にいたって言うなら、証拠を出せっ!」


 なぜここまでこだわるんだ、この子。

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