デスクに座ってすぐに、目の前にある白く、ボタンがたくさんある固定電話が赤いランプを光らせてコールした。
これから、トイレに行って、ストッキングを履き替えて、靴擦れをした踵の絆創膏を貼り替えようと思ったのにと思いながら、片手に受話器を取り、耳と肩で押さえて、電話に出た。
「はい、ネクスト株式会社の沢村でございます」
いつも通りにいつもの声の調子で出る。ちょうど、電話してきたのは、同僚の佐藤だった。
『あ、沢村さん。おはようございます。佐藤です。申し訳ないんですけど、わたし、今日、熱あるので、お休みします。部長に伝えててもらえますか?』
「おはようございます。なんで、ラインしないの? 会社のグループラインあるよね?」
「あ、そうでしたね。でも、嘘ついたって言われたりするの
嫌なので…ゴホゴホッ。電話の方が信憑性あるかなと思って
それに沢村さんが出たから」
「そうですか。分かりました。お大事にしてくださいね」
「……沢村さん、冷たいですね」
「私、今、それどころじゃないのよ。んじゃ、部長に伝えておくから」
「はーい」
佐藤は、すぐに切り替えて、通話終了ボタンを押した。瑞季は、すぐにトイレに駆け出して、ストッキングを履き替えに行った。パーテーションで区切りられている株式会社ネクストは
インターネット通信会社の下請けで電柱や光通信の申請書作りを主に行う会社だった。次々と社員が出勤し始めていた。瑞季は、慌てて、自分のデスクに戻って、荷物を整えると、廊下や、デスクの床周りの掃除を始めた。
女性社員が基本、部屋の掃除や、お茶出しを率先してやるという暗黙のルールがここにはまだ存在している。
瑞季はいわゆるOLを勤めていた。さっき電話で休みの連絡を入れた
1人休むと全部瑞紀がやりこなさないといけない。1人の割に男性社員は10人も存在している。
「おはようございます」
「おはようございます。部長、今朝、電話がありまして、佐藤さん、熱があるということでお休みするそうです」
「あー、そうでしたか。わかりました。佐藤さん、ラインには
連絡ないですよね。電話だったんですね」
「一応、声かけはしたんですけど、電話の方が信じてくれるかなとか言ってました。具合悪そうな声はもちろんしてましたけども」
「なるほどね。そういう意味で。沢村さん、ありがとう。若い人の対応、お疲れ様です」
部長の
さらに、深い関係性でもある。
山下は瑞季の横に行き、 耳打ちで話す。
「今日、大丈夫だから。夜、よろしくね」
「あ、はい。 わかりました」
業務連絡のごとく、作り笑顔で返事をする。