目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第一章 第二十三話 富士薪毅の初めてのキャラクターメイキング

 谷野グループが、グループ全体の勢いを増し、メンバーが大勢増えている時より大分前、谷野工事とその取巻きたちが警備員たちと揉めているところまで遡る。


 竹内凹蔵が一方的にボコられたり、その騒ぎに興味を持って近づいてきた谷野グループが警備員と揉めたりと、騒ぎが続いていた。

 そこから少し離れた場所にビジネスカジュアルの服装をした熟年から初老にかかった男の霊、二人がいた。その内の一人が、七十代後半の富士薪毅ふじまき たけしであり、もう一人が六十代前半の波羅誠はら まことであった。


 二人の男は、ビジネス系経済雑誌の企画で、『災害対策と称し災害対策費の為に国債発行を繰り返すと日本銀行が破産する』というテーマで対談していた。

 二人は、『起きもしない自然災害の為に、国がお金を無駄遣いをして発行し続けた国債を、日銀が買い続けると、国債が暴落し、含み損を大量に抱え、日銀が破産する』と対談で語っており、二人の共通認識であった。

 しかし、実態は日本政府の災害対策費は、自分たちの死により、不足していたことを証明してしまった。

 さらにいうと、日銀は時価会計つまり市場での現在の価値をみる会計ではなく、簿価会計つまり帳簿上の金額のみで価値をみる会計なので、含み損で破産することはないのだ。

 二人は、まったく間違った経済理論を信じていたのだが、その頓珍漢な対談をしている途中に大地震が起き、対談が行われたビルで火災が発生し、結果的に逃げ遅れて死亡した。

 突然、事故等で死んだのではなく、火災のビルの中を逃げ回り、死の恐怖を散々味わって死んだので、二人には死の自覚があった。


「死んでまで騒がしいなあ。何があったんだ?」

 富士薪が言った。

「あっちで霊と警備員たちが揉めているみたいですね。行ってみましょう」

 波羅が言った。

「君は好奇心旺盛だね」

「まあ、生前は新聞社の一員でしたからね」

 そう言うと波羅は笑う。

 とは言え、富士薪も暇を持て余していたのは事実。

「暇つぶしに行ってみるか」

 二人は騒ぎの方へ行ってみる。

 近くまでくると騒ぎの中から男が一人出てくる。天野である。

 「これはなんの騒ぎなんだい?」

 富士薪が天野に聞くと、天野は異常なほど驚く。

 富士薪も波羅も、穢れ塗れだったからであるが、天野は当然理由を言わないし、自分自身想像もしていない。

「すまない。驚かすつもりはなかったんだよ」

「こっちこそすまない」

 そう言うと天野は、ニッコリ笑う。

「この騒ぎがなんだか教えてくれないか?」

「あちらの集団にゲーム端末を配ろうとしているんだけど、どうも上手く警備員と折り合いがつかないみたいでもめているんだよ」

 富士薪は、天野にジッと見られていることに気付く。

「俺の顔に何か付いているか?」

「いや。あなたは富士薪さんですよね?」

 富士薪は口に指を当てて静かにのジェスチャーをする。

 御用学者に対する否定的な噂が流れていた。自分自身も災害対策費を出すことに否定的な論説をしていたので、自分たちも御用学者とみなされて攻撃の標的にされるかもしれないと思ったからだ。

 天野は、富士薪と波羅の穢れに後退りする。富士薪と波羅は、自分たちが穢れ塗れであることを知らないので、天野の行動の理由が分からなかった。

 そこに、天野と富士薪、波羅の間に警備員が間に入り、これ以上話しかけられなくなる。

「これは、なんの騒ぎなんだい?」

 富士薪は、天野が遠くにいる警備員と話しかけているのを横目で見ながら警備員に尋ねた。

「亡者同士のトラブルがあっただけだ。首をツッコむな。それに騒ぎはもう収まった」

 にべもない警備員の対応に戸惑っていると、他の警備員がゲーム端末を持ってやって来る。

「ゲームをやりませんか? これがゲーム端末です」

 後から来た警備員が言った。

「これが先ほどアナウンスで説明のあったゲームか」

 富士薪は戸惑う。

「ゲームをやると、地獄行きの方は軽い地獄へ、天国行きの方はより上位の天国へ行けるようになる特典がもらえるかもしれませんよ」

 ゲーム機を二人に渡した警備員が言った。 

「特典もあるみたいだし、やってみませんか?」

 波羅が言った。

「君がそう言うならやってみるか」

 富士薪と波羅はゲーム端末を受け取る。


 富士薪と波羅は、ゲーム端末を見たが、どこが電源を入れるスイッチか分からず戸惑う。

 スイッチの場所を二人が探していると、波羅が見つける。

「ありましたよ。右上の端です」

 波羅が言った。

 富士薪は端末の右端を見る。

「こんなところにあったのか。判り辛いな」

 そう言いながら、富士薪は端末の電源を入れる。

 ゲームのロゴが表示された後、初期メニューが表示される。

「どうするとゲームが始められるんだ?」

 富士薪が聞く。

「どうも、プレイヤー登録してから開始するようですよ」

 波羅がヘルプを見ながらいった。

 二人は登録を済ませると、キャラクターメイキングを開始する。

 種族メニュー画面になると、

『人間』

『ニキト』

『エルフ』

『ドワーフ』

『ノーム』

『フェアリー』

『モンスター』

 の項目があった。しかし、『人間』『ニキト』『エルフ』『ドワーフ』『ノーム』『フェアリー』の項目は無効になっており、選べないようになっていた。唯一有効になっていたのは『モンスター』だけだった。

「なんでモンスターしか選べないんだ?」

 富士薪が聞いた。

「私もモンスターしか選べませんね」

 波羅も答える。

 二人同時にモンスターしか選べないようになっていたので、モンスターしか選べないことにこれ以上疑問に思わなかった。

 富士薪も波羅も、モンスターを選ぶとモンスターメニューになり、

『オーク』

『ミノタウロス』

『オーガー』

『ゴブリン』

『コボルト』

 の項目があった。

「モンスターを選んだらこんなメニューになったぞ」

 富士薪は波羅に見せる。

 しかし、波羅も同じメニューになっており、どれを選んだら良いのかわからなかった。

「私もこんなゲームをやったことないので、どれを選んだら良いのか、わかりませんね。警備員が何か知っているかもしれません。聞いてみましょう」

 近くをたまたま通り掛かった警備員を呼び止めると、メニューでモンスターしか選べないこと、モンスターのメニューの何が良いのかわからないことを説明し、どれが良いか富士薪が聞く。

「選べるモノの中で気に入ったモノを選ぶのが良いんですけど。一つアドバイスすると、初心者はミノタウロスかオーガーがおススメですね」

 警備員は、おススメを聞かれたらどう答えたら良いのか、出回っているマニュアル通りに答える。

「どうして、その二つがオススメなんだい?」

 富士薪が聞く。

「初心者は、序盤で死にやすいんですよ。だから基礎能力の優れていて、低レベル時点ではこの二つの種族が優秀なんです」

 警備員は淀みなく答える。

「高レベルになると他より弱くなるのか?」

 富士薪はしつこく質問する。

「いえ。そうではないです。この二つの種族は、強い分レベルが上がり難いんです。つまり使い続けると結構なレベル差が出ます。レベルが変わると、種族が変わってもレベルが上の方が強いですからね」

 警備員がニコニコしながら言った。

「なるほど」

 富士薪は納得する。

「つまり序盤を生き残る術を、ミノタウロスやオーガーでマスターして、運悪く死んだら、レベルが上がり易いオークやゴブリンに変えていくと攻略しやすくなるって訳ですよ」

 警備員の説明に富士薪は少し唸る。

「つまり、プレイヤーが慣れるまでは、ミノタウロスかオーガーが良くって、慣れてきたら、オークやゴブリンが良いってことだな?」

 富士薪が聞いた。

「そう言うことです」

 そう答えると、警備員は行ってしまう。

「それでは、アドバイス通り、ミノタウロスかオーガーで行こう。でも、どっちにしようか?」

 富士薪が言った。

「オーガーってどんなモンスターか良くわからないし、ミノタウロスにしてみませんか?」

 波羅が言った。

「ミノタウロスもよくわからないぞ」

 富士薪が顔を顰めながら言った。

「ミノタウロスは、ギリシャ神話にも出てくるモンスターですよ。牛の頭と人間の体のモンスターですよ」

 波羅は、昔読んだギリシャ神話を思い出しながら言った。

「そんなに有名なのか?」

 富士薪は怪訝な顔をする。

「それはどうだかわかりません。私もギリシャ神話を読んだのは大分昔です。そもそもギリシャ神話の読者がそんなに多いかどうかもわかりません」

 波羅は、多くのファンタジー小説にミノタウロスが登場していることを知らなかった。

「どっちにしろ。俺には わからん。君が知っているならミノタウロスで良いだろう」

「私も、ギリシャ神話に出て来て、神話の中の英雄に殺されるという程度のことしかわかりませんけどね」

 二人はミノタウロスを選択すると、クラスメニューが表示された。

『戦士』

『闘士』

 の項目しかなかった。

「まだ、ゲームがスタートしないなあ」

 富士薪は愚痴る。

「ここは戦士を選んでおきましょう」

 波羅が言った。

 二人とも戦士を選ぶ。

 すると、二人ともお花畑から姿を消す。



 富士薪は、地面と天井だけが延々と広がっている、亜空間に居た。当然ながら、波羅はいない。

 富士薪達は、別々の同じような亜空間にいる。

 ”ゲーム内では、ゲーム内だけの名前を使っても良いですし、本名をそのまま使っても良いですがどうしますか?”

 ゲームシステムから問いかけられる。

「どうしたもんだろうか? 考えるのも面倒だ。本名でいいよ」

 富士薪は悩みながら言った。

 しばらく沈黙が漂う。

 ”ゲーム名、『富士薪毅』で登録いたしました”

 ”市街地ステージからスタートします”

 ”善行を行うとカルマが良くなり、カルマゲージは青が広がります” 

 ”悪行を行うとカルマが悪くなり、カルマゲージは赤が広がります” 

 ”ステータス画面のカルマゲージの全体が青くなると市街地ステージクリア、真っ赤になるとゲームオーバーとなります”

 ”次に注意事項を説明します”

 ”人間を攻撃するとカルマが悪化します。ただし、自衛のための攻撃つまり反撃はセーフです”

 ”ちなみに、人間とはヒューマンだけでなく、エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーも含まれるのでご注意ください”

 ”モンスターを攻撃するとカルマが改善します”

 ”攻撃を受けダメージを受けるとカルマが改善します”

 ”他の生き物を殺さないと食料が得られません。また、他人が生き物を殺した場合でも食料にできます”

 ”カルマゲージは毎日リセットされますが、前日の結果で青くなりやすくなったり、赤くなりやすくなったりします。つまり前日の結果は無駄になりません”

 ”ゲームをスタートしてもよろしいですか?”

「そろそろ、スタートしてくれ」

 富士薪がそう言うと、視界が真っ白になり、何も見えなくなる。


 富士薪はゆっくり目を開くと、洞窟のような場所に出た。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?