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第一章 第二十二話 谷野工事のグループメンバー内での分業制

 谷野は、弓兵の仲間が定着しないことを悩んでいた。

 ゴブリンの巣の中で会議というのも、気になったので、市街地に出て会議を開けそうな場所を探した。すると、公民館をみつける。

 公民館の入り口を叩き壊し、なかに入って行くと、二十五人全員が入って会議が出来そうな会議室を見つけた。そこに谷野グループの全員が集まった。

 その会議室には、元から折り畳み式の長机が八個、折り畳み式のパイプ椅子が二十五人全員が座っても余るぐらい大量にあり、すべて折りたたまれて会議室の端にまとめて置かれていた。

「このゲーム。人が住んでいないのに、こういうところはやけにリアルだな」

 川中が言った。

「ここなら、会議が出来そうだ。椅子と机を並べて会議ができるようにしよう」

 谷野が言った。

 谷野グループのメンバーは、テキパキと動き始め、机と椅子を四角に並べてその机の外側に椅子を並べていく。十分ほどで、会議ができるように並べられる。

 前方中央に谷野が座り、その両隣に川中と西尾が座った。それ以外の席には適当に全員座る。

 全員が座ると、会議を始まる。

「せっかく、仲間になった弓兵のスギ―も殺されてしまった。弓兵を仲間にして、定着させる方法がないか、検討したい。誰かアイデアがある者はいないか」

 進行役の川中が言った。

 会議室は静まり返ったままだった。

「誰も意見もないのか!」

 川中は、会議室を見回す。

「それじゃあ。岸田。お前何か言ってみろ」

 川中は、岸田に無茶ぶりな振りをする。

 岸田は、なんでいきなり俺を指名するんだと言いた気な雰囲気を醸し出す。

「アイデアではなく、一つの提案なんですが、まず、なぜ弓兵を仲間にしたいのかから、見返してみたらどうでしょう」

 岸田は苦し紛れに言った。

 川中は、想定外の回答に考え込む。

「誰も今のところ意見がないようだ。アイデア出しの為に見返して見てもいいだろう」

 谷野が言った。

「なぜ、弓兵を仲間にしたいのか覚えている者」

 川中が言った。

 すると、西尾が手を上げる。

「それじゃあ、西尾」

「元々は失った仲間を埋め合わせるため、仲間を増員するのが目的だった。その際、戦略の幅を広げる為、弓兵と盗賊を仲間にしたらどうかと、物知りゴブリンからアドバイスを受けたことが始まりだ」

 グループメンバーはそれを聞くと、腕組みをする。

「確かに当初は、三十一人で始まった。まず、グループから一人減った。次に五人減り、いま二十五人になったわけだ。誰もグループから抜けたい者はいないだろうが、望まない理由でグループから抜けることになる者も今後出てくるだろう。今すぐに増員が必要ではないと思うが、減ってから増員しても、元からいたメンバーと同じ働きは新人には難しいと思う。だから、なるべく速やかに仲間を補充しておきたい」

 谷野がそう言うと、グループメンバーたちは、口々に弓兵と盗賊が必要だと言い出す。

「補充する為のアイデアのある者はいないか」

 川中が騒がしくなった会議場を鎮めるために言った。

「今まで、弓兵や盗賊が仲間にならなかったわけじゃない」

 西尾が言った。

「だが、育つ前に死んでしまったじゃないか」

 川中が抗議するように言った。

「問題点はそこだ」

 西尾は大きめの声で言った。

「どういうことだ?」

 川中が聞く。

「仲間になる弓兵や盗賊は、レベルが低い事が多い。なので、レベルが低い間は大事に育てる」

「何当たり前のことを言っているんだ」

「だが、具体的なアイデアがある者はいるか?」

 西尾が聞くと、皆黙り込む。

「俺にはある」

 西尾が力強く言った。

「説明してくれ」

 谷野が言った。

「まず、具体的な方法を述べる前に、弓兵と我々戦士の違い、盗賊と戦士の違いについて説明しよう」



 戦士と弓兵は、使える武器種が戦士の方が多く、弓兵が使える武器は全部戦士も使える。

 弓以外は、戦士の方が命中補正およびダメージ補正が大きい。その為、弓以外は戦士の方が強い。

 弓は、弓兵の方が命中補正およびダメージ補正および射的距離も弓兵の方が大きい。弓を使った戦闘は弓兵が強い。

 戦士と盗賊は、使える武器種がことなる。盗賊は大型武器が使えず、その代わり盗賊にしか使えない特殊武器がある。また、盗賊にしかできない武器の特別な使い方ができる物も存在する。

 同一の武器が使える場合、戦士の方が命中補正およびダメージ補正が大きい。その為、戦闘では戦士の方が強い。

 盗賊で重要なのは、戦闘以外にある。罠感知や罠解除、罠設置、鍵開け、壁登り、隠れるなどのスキルに大きな補正があることだ。戦士でもチャレンジはできるが、ほとんど成功は絶望的に難しい。



 西尾がここまで説明を終えた。その間、みんな大人しく聞いていた。

「成功率や威力に影響あるが、弓兵や盗賊のスキルは戦士でもできるというわけだな」

 谷野が言った。

「それでは、戦士がいれば、弓兵や盗賊は要らないってことになるんじゃないのか?」

 川中が言った。

「残念ながらそうはならない」

 西尾は断言する。

「もったいぶらずに理由を説明しろ」

 川中がイライラして言った。

「我々が武器を入手する方法は、主に物知りゴブリンに頼んで模擬戦を行う必要があるが、戦士は物知りゴブリンに頼んでも、弓を入手する模擬戦をさせてもらえないし、盗賊用の道具も同じだ」

 西尾が淡々と説明した。

「そうだったのか!」

 川中が大声を上げる。

「だが、弓兵は一レベルであっても弓を入手する模擬戦を受けられるし、盗賊は一レベルであっても盗賊用の道具を入手できる」

 全員が感心する。

「これらの情報を踏まえて提案だ。一レベルの弓兵や盗賊を仲間にしたら、まず、食料調達へ同行させて、優先的に腹いっぱいにさせたら、すぐ巣に連れ帰る。そして、我々剣士では入手できない弓や盗賊用の道具を入手する模擬戦をさせて、グループメンバー分も入手させる。空腹になったら、食料調達へ同行させて、を繰り返す。食料調達以外はリスクがない。おそらくかなり安全にレベルを上げられるだろう」

 西尾はグループメンバーを見回しながら言った。

 グループメンバー全員が、シーンとしている。

「他に意見がある者はいるか?」

 川中が言った。

「西尾のアイデア。良いじゃないか」

 谷野がそう言うと、他のメンバー全員が、西尾のアイデアに賛同する。



 西尾のアイデアに従って一レベルの弓兵一人と一レベルの盗賊を仲間にする。

「来る日も来る日も模擬戦ばかりで良いのかな」

 弓兵のシーザーが言った。

「西尾さんの指示だぜ。良いに決まっているだろ。ところでシーザーは何を入手する模擬戦をしているんだ?」

 盗賊のゴエモンが聞いた。

「俺は弓をひたすら入手しているよ」

 シーザーが言った。

「それで合点がいった。俺が矢をひたすら入手している。弓も持っていないにと思ったら俺たち二人でワンセット分を集めているようだな」

 ゴエモンが言った。

「俺たち実践でほとんど役に立っていないし」

 シーザーは、そう言うと溜息を吐く。

「食事のときだけしか、実践に参加していないしな。でも、一レベル、二レベルの間は死にやすいから安全な模擬戦でレベリングしたいたいう理由だと、西尾さんが言っていたじゃん。俺たちがアイテムの確保をするから先輩たちが活躍できるんじゃないか」

 ゴエモンは勇気づけるように言った。

「先輩たちじゃなくて俺が活躍したいんだよ」

 シーザーは悔しそうに言う。

「それじゃあ、少しでも早くレベルアップするんだな」

 ゴエモンは、呆れながら言った。



 しばらくすると、シーザーとゴエモンが三レベルになった頃、谷野グループの初期メンバーは五レベルにレベルアップしていた。

 谷野グループは、装備やアイテムの確保するために積極的に模擬戦を利用した。

 レベルが低い者には、簡単に手に入るアイテムを入手させたり、レベルが上がってくるとレベルの高い者しか入手できない装備やアイテムを入手するという分業制を始めた。

 シーザーとゴエモンのがんばりにより、弓と矢や盗賊用ツールなどが谷野グループメンバーに行き渡った。装備とアイテムが充実し始めた谷野グループは、強さの底上げに成功した。


 強さの底上げの成功は、市街地での実戦に影響が現れた。

 強力な装備をつけたミノタウロスやオーガーなどと遭遇しても、フル装備に近い五レベルゴブリンが二十五人いるグループはまったく恐れる必要なく、遭遇したモンスターたちをあっさり片付けていく。

 そして、弓兵や盗賊は後衛なので、そもそも死に難いので、シーザーとゴエモンもモンスターとの戦闘で死ぬこともなく、順調に強くなっていく。

 もちろん、レベルが上のミノタウロスやオーガーと正面から戦ってはたしかにさすがの谷野グループでも厳しいが、弓を使った遠距離攻撃や盗賊用ツールを使った罠を設置し、追い詰めたり、おびき寄せたりし、罠にハメたりと戦術を駆使し、頭角を現していった。

 頭角を現していくと、スカウトしなくても、仲間になりたい希望のゴブリンが集まり始める。レベルが低い間は、模擬戦による装備やアイテムの集める係となるため、死に難くなり、無事三レベルまでレベルアップできるゴブリンの人数が増えた。

 その為、一度入ったメンバーが減るリスクも減り、メンバーはさらに増えていく。その為、ゴブリンの一大勢力へと成長していった。



 谷野グループは、とうとう六十人になった。

 そこで、初期のメンバー二十五人をまず、三つのグループに分けた。

 谷野の下に十四人、川中の下に四人、西尾の下に四人に分けた。そして、初期メンバー以外の三十五人は、クラスを加味したが、ある程度、メンバー自身の希望も踏まえてグループ分けした。

 谷野チーム配下に十人、川中チーム配下に十人、西尾チーム配下は、二レベル以下が多く、十五人にチーム分けした。

 このチーム分けはさらに当たった。

 谷野グループ全体が大きくなっても統制が利いているため、さらにグループ全体の勢いを増すことになる。グループ全体の勢いが増すと、仲間になりたがるゴブリンも増えさらにメンバーを増やしていった。

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