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第一章 第二十一話 谷野工事の市街地ステージでの内紛

 谷野グループの初期からのメンバー二十五人は、全員四レベルに、新たに加わった二人は、二レベルになっていた。

 まずは、初期メンバー全員が五レベルになることを目指している。谷野グループは、順調にレベルアップしていた。

 これらは谷野グループが所属している巣のゴブリン全員に知れ渡った。




 東京圏には、日本語がしゃべれない外国人が大勢いた。当然、東京に住んでいる住人に、地震と台風は平等に死を与えた。外国人であろうと、日本の地で死ねば、日本の霊界へ行く。

 信仰する神や宗教によってアレンジされた見た目に変わることはあっても、日本の霊界のルールに従わされることになる。自分たちが住んでいた世界での倫理観や正義感に反していなくても、日本での倫理観や正義に反していると当然地獄へ行くことになる。

 もちろん外国人だからと言って地獄に落ちるわけではない。郷に入っては郷に従えが出来ていれば、世界のどの国に居ても、その国の霊界の天国へ行ける。それだけの事である。

 今、カルマプルガチオで、市街地ステージをプレイしているプレイヤーは、ほぼほぼ地獄行きが決まっている霊だ。

 そんな五人組の外国人霊がプレイしているゴブリン五人組がいた。そのゴブリンたちは、自分の祖国の国の言葉を霊界のお花畑やこのゲーム内でも使っていた。その他、声の音は外国語なのに、霊界の作用により、意味が翻訳されて、聞こえる。同じ言葉を使うもの同士で会話するとそのままだが、その言葉を知らない者が聞くと、言葉が二種類混ざって聞えた。そして、二種類混ざって聞えるのに、意味はちゃんと聞き取れた。


 そんな、外国人プレイヤーの言語の仕組みを知らない谷野グループの西尾に、外国人のゴブリン五人組が、話しかけた。

「「俺たちの仲間にならないか?」」

 西尾は、二重に聞こえる声に戸惑う。

「俺の一存では決められない。お前たちの人数とレベル、そしてクラスはなんだ?」

 西尾が答える。

「「なんでそんなことを聞く。俺たちが外国人だからか!」」

 外国人プレイヤーのゴブリンの一人、カラムが言った。

「お前はこの巣のゴブリンじゃないのか?」

 西尾は身構える。

 西尾は、からむが『俺たちが外国人だからか!』と言ったので、この巣以外の巣からやって来たゴブリンと勘違いした。

「「い、いや。この巣の住人だが、そうじゃない。俺たちプレイヤーが外国人だからかと聞いている」」

「お前たちが外国人プレイヤーかどうかなど知らん。そもそも、ゲームの中に居て、プレイヤーの情報はどこにもないだろ。肝心なのは、信頼できるゴブリンかどうかだ。同じ巣のゴブリンであろうと、得体のしれない奴は仲間にはできん。それに今、募集しているのは、クラスが弓兵と盗賊の奴だ」

 西尾は面倒臭そうに言った。

「「我々は日本語が話せない。だから、声が二重に聞こえる」」

 カラムが言った。

「あ、さっきから変な風に聞こえるのはそのせいか。ゲームシステムが勝手に翻訳してくれるのか。すごいな」

 西尾は勘違いしていた。翻訳をしているのは霊界の作用で、お花畑でも同様なことが起きる。

「「お前が、俺たちを仲間にするか決められないのなら、リーダーに会わせろ」」

 カラムが言った。

「なら、お前たち全員の名前とレベル、そしてクラスはなんだ?」

「「なんでそんなことを聞く」」

 カラムは不満気に言った。

「俺たちのリーダーに会いたいのだろう? 名前も知らない、レベルも知らない、クラスも分からない。そんな相手を紹介できるわけないだろう。名乗りたくないのなら、仲間になる話もなしだ」

 西尾はそう言うと、物知りゴブリンのいる方へ行ってしまう。

 カラムたちは歯ぎしりして悔しがる。そして、別のメンバーにも近づくことにする。


 谷野グループの元からいるメンバーは、ガードが固いことを理解するのに、大して時間はかからなかった。そこで、谷野グループに仲間入りしたばかりのメンバーに接触した。

「「俺たちの仲間にならないか?」」

 カラムが言った。

「俺に聞いているの? 俺は谷野グループのメンバーだから、またな」

 新人のスギ―は言った。

「「お前たちのメンバー全員で俺たちの仲間にならないか?」」

 そう言うと、カラムはニヤリとする。

「そんな事、俺の一存で決められるわけないだろ」

「なら、お前たちのリーダーに会わせてくれよ」

 スギ―は、少し考える。

「紹介するだけだからな」


 スギ―は、カラムたちを連れて谷野たちの元へやって来る。谷野は幹部たちと会議していた。

「先生。こいつらが仲間になりたいそうです」

 スギ―が言った。

 谷野は幹部たちはスギ―をみる。

「で。そいつらの名前、レベル、クラスはなんだ?」

 幹部の一人、川中が聞いた。

 その様子をみた西尾が、顔を顰める。

「本人たちに聞いてください」

 スギ―が答えると、川中は烈火のごとく怒る。

「事前にそんなことも確認できないのか!」

「す、すみません」

 スギ―は慌てる。

「スギ―は、まだ新人だ。仕方あるまい」

 谷野が言った。

「新人の教育は誰がやっている」

 川中のボルテージはさらに上がる。

「それは、俺だ」

 西尾が言った。

「に、西尾か……」

「西尾にはいろいろ働いてもらっている。新人教育は、別の者に頼んだ方が良いかもしれないな」

 谷野が言った。

「「取り込み中、申し訳ないが、そろそろ俺たちの相手をしてくれないか?」」

 カラムが言った。

「待たせて悪かったな。我々が探している仲間は、弓兵と盗賊だ。よって、貴殿らは我々がもとめる仲間ではない」

「「なぜ、名前もきかず、クラスを聞かず。求める仲間じゃないと言える?」」

 カラムが不満そうに言った。

「弓兵なら弓を持っておらず、剣を腰に差しているのはおかしい。盗賊にしては、装備が重装備過ぎだ。見た目で分かる」

 谷野が言った。

「「なるほど。頭は切れるようだな」」


 実はカラムたちが西尾に接触したときに、西尾がカラムたちのことを谷野に報告していた。そして、谷野は、カラムたちを調査するように取巻きたちに指示していた。

 調査した結果、名前もレベルもクラスも素行が悪い事も分かっていた。


「だから、希望には添えられない」

 谷野は素っ気なく言った。

「「俺たちが外国人だからか!」」

 カラムが怒った感じに言った。

「理由は述べたはずだ。弓兵でも盗賊でもない奴は要らん」

 谷野がハッキリ言う。

 カラムたちは、舌打ちするとスゴスゴと立ち去る。


 谷野グループは、食料調達のために市街地にでる。

 早速、ミノタウロス一体と遭遇すると、谷野は、スギ―の弓と他のスリングで攻撃をするように指示する。

 スギ―の一射目は、ハズレたが、スリングが何発か当たったので、二射目の攻撃をしようとすると、そこにカラムたちが勝手に加わる。

 スリング攻撃で弱っていたミノタウロスを五人でタコ殴りすれば、倒すのは難しくない。

「我々の獲物を横取りとは、どういうつもりだ?」

 川中が不愉快そうにカラムたちに聞く。

「「横取りしたかったわけじゃない。仲間に入れて欲しかっただけだ」」

 谷野が少し考える。

「良かろう。我々の仲間に相応しいか確かめるテストのために、しばらく我々と一緒に行動することを許そう。その代わり、俺の指示には絶対に従う事が条件だ」


 カラムたちは、谷野グループに加わり、食料調達を行う。

 戦術は、弓やスリングで体力を削り、弱ったところを剣で倒すというシンプルな物だった。

 谷野グループが圧倒的に有利な時に、カラムたちは無理やり参加しようとし、相手が手ごわそうなときは逃げ回っていた。

 カラムたちは自分勝手に振舞い、協調性がまったくなかった。


 谷野グループは、さらに食料を求めて市街地で活動していると、オーガー三体と遭遇する。

「あのオーガー三体を討伐するぞ。弓やスリング攻撃で弱らせた後、カラムたち五人でオーガー三体を仕留めろ」

 谷野がカラムたちに言った。

「「なぜ。俺たちが仕留めるんだ」」

 カラムが不満気に言った。

「チーム内の連携を覚えて早く覚えてもらわないと困る。あのオーガーどもは、装備からレベルはあまり高くないだろう。しかも数的優位でもある。さらに、接敵するころには、弓やスリングで弱っているはず。このぐらいはできなくてはな」

 谷野は淡々と言った。

 実際、谷野グループの元からいるメンバーには、難しい指示ではない。

「「弓やスリングで弱っていなかったらどうするんだよ」」

「仲間を信用しないのか。俺の指示に従えないのなら、グループの下っ端になってもらうぞ」

 谷野は溜息を吐いた後、淡々と言った。

「「俺たちが外国人だからか!」」

 カラムが怒った感じに言った。

「ここには、ゴブリンしかいないだろ。次それ言ったら、お前たちはグループから追い出す」

 谷野が不愉快そうに言う。

 カラムは、苦虫を嚙み潰したような顔をすると、四人の仲間達と顔を見合わせる。

「「やっちまえ」」

 カラムたちが一斉に谷野に襲い掛かる。

 すぐ傍にいた川中がカバーに入り、盾で攻撃を受ける。他の近くにいたメンバーも異変に気付き戦いに加わる。

 少し離れた場所にいた西尾も駆けようと走っている。

 谷野がカラムを含む三人の攻撃を受け、一人の攻撃は盾で受けたが、他の二人を攻撃を受けてしまう。

 スギ―は、谷野を攻撃しているカラムの仲間の一人に矢を命中させる。

「やった!」

 スギ―の攻撃を受けたカラムの仲間は、矢の命中で動きが一瞬とまったところを近くにいた谷野グループのメンバーに倒される。

 カラムは、谷野を制圧したら、どうにかなると思っていた。完全に計画は失敗した。

 仲間の一人が死に、谷野を制圧するのは無理そうである。

「「撤退だ!」」

 カラムが叫んだが、川中と戦ていた一人が、川中に倒される。

 スギ―は、たまたま乱戦から飛び出した、カラムに矢を命中させる。

「やった!」

「「この悪ガキが!」」

 カラムは攻撃されたことに逆上し、スギ―へ一直線に走って行く。

「スギ―。剣で身を守れ」

 西尾がスギ―の方へ走って行く。スギ―は武器の持ち替えにもたついている間に、カラムに斬られ、倒れる。

 スギ―を斬ったカラムを西尾はあっさり斬り捨てる。残ったカラムの仲間も谷野グループの他のメンバーに倒される。


 谷野グループの被害は、新人のスギ―だけであり、カラムたちは全滅した。

 カラムたちの死体は、谷野グループのメンバー全員で食べた。

「また、弓兵の集め直しだな」

 谷野がポツリと言った。

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