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第一章 第二十話 谷野工事の市街地ステージの仲間募集

 谷野たちは、仲間を募集することにした。

 取巻きたちが、巣の中にいるゴブリンたちを勧誘したが、すぐに断られてしまう。


 仲間が増えれば、戦闘時の生存確率は多くなるが、その分多くの食料を確保する必要が出てくるので、確保そのものが難しくなる。つまり一回の戦闘での生存確率が多くなっても、戦闘回数を増やさないと十分な食料が確保できなくなるのでトータルでみた場合、本当に得かどうかは怪しい。

 仲間になるゴブリンが、谷野たちよりレベルが下の場合、得することもあるだろうが、谷野たちよりレベルが上のゴブリンの場合、お荷物を背負うことになるので、メリットが少ないわけである。


 仕方ないので、物知りゴブリンに相談してみる。

「だったら、一レベルか二レベルで、一人でいる奴を仲間にすると良い。そう言う奴が大体一人で困っているからな」

 物知りゴブリンが言った。たしかにそれなら勧誘に応じるかもしれないと思った。

「そんな奴、仲間にしてもお荷物じゃないか」

 谷野が言った。

「お前たちよりレベルの高い奴は、同様にお前たちにそう思っているってことだ」

 谷野は黙り込んでしまう。

「一レベルの奴はすぐに二レベルにアップするし、二レベルの奴はお前たちが三レベルから四レベルへアップするかしないかぐらいには三レベルになるだろう。お前たちが四レベルから五レベルにアップする前に、そいつは三レベルから四レベルにレベルアップし、レベル的には追いつく。お荷物なのは今の内だけだ。仲間にして育てればちゃんと追いつく」

 物知りゴブリンは力説する。

「なるほど。わかった。レベルの低そうな奴に声を掛けるようにしてみる」

 谷野は言った。




 新しくキャラクターを作ってやって来た新人らしいゴブリンに、取巻きの一人が話しかけ仲間になるように説得してみると、あっさり仲間になった。

「二十五人もいるんだ。スゲーな。俺、イットクと言います。クラスは弓兵です。よろしくお願いいたします」

 新入りが自己紹介する。


 全員と自己紹介すると、イットクは弓を手に入れるために模擬戦をする。他のメンバーは、スリングの玉を入手するための模擬戦を行った。

 全員、目的のアイテムを入手でき、早速市街地に食料を調達に行く。


 谷野たちの狩場へ行ってみると、オーク五体と遭遇した。距離があったので、イットクは弓で、それ以外はスリングで一斉に攻撃する。いくつか命中し、オークたちにダメージを与えたが、構わずオークたちはこっちに迫って来る。

 イットク以外は接近戦に備えて武器を持ち帰る。イットクは弓で攻撃を続ける。

 接近戦が始まり、乱戦状態になる。そうなると、やっぱり数の暴力で谷野たちが有利に運ぶ。

 オークが一回攻撃する間に、五人のゴブリンから計五回の攻撃を受ける。オークたちは徐々に体力を削られ、あっさり谷野たちが勝った。

 するとみんなでオークを公平に分ける。

「皆さん。強いんですね」

 イットクが、オークを食べながら、感心して言った。

「まだまだだよ。俺たちでも歯が立たないモンスターが出現する時もある」

 谷野の取巻きの一人、西尾が言った。


 今回は、人間と遭遇することはなく、モンスターを狩り、食料を確保した。そのついでに、イットクは二レベルになっていた。

 イットクは、さらに模擬戦をやり、新たに使えるようになった武器、揃えていない防具を入手した。

「イットクが二レベルになって、装備も整ったことだし、市街地へ行きませんか?」

 西尾が言った。

 イットクがどのぐらい強くなったのか知りたかったからである。


 谷野たちは再び市街地にでると、コボルト五体と遭遇する。

 イットクは距離がある間に弓で攻撃する。他のメンバーはスリングで攻撃する。スリングの玉が何発が命中するが、イットクの矢は一発も当たらなかった。コボルトは三体倒れたところで、残りの二体は逃げて行った。

「二体逃げられちゃいましたね。追いかけないんですか?」

 イットクが谷野の取巻きの一人に聞く。

「いや。無理に追いかけて、罠だったりしたら藪蛇だ。ここは、苦労せず三体倒せたことを良しとするんだ」

 聞かれた取巻きは答えた。

「そうっすか。せっかくレベルアップして装備も良くなったんだから、活躍したかったす」

 イットクを含むメンバーは、コボルト三体を分けて食べる。

 このあと、モンスターとミノタウロス二体同時と、オーク三体同時とコボルト十体同時と計三回遭遇したが、ほとんどがスリングでの遠距離攻撃で勝負が決まった。

 谷野たちは倒したモンスターを仲良く公平に分ける。

「腹いっぱいになったことだし。今回はこのぐらいで巣に帰るぞ」

 谷野が言った。

「谷野さん。もう少しモンスターを狩りませんか? もっと戦いたいっす」

 イットクが言った。

「もう、スリングの玉もお前の矢も残り少ない。俺たちが食料を簡単に手に入れられる理由は、遠距離攻撃である程度ダメージを与えてから接近戦に持ち込めているからだ。玉が半分を切ったら、無理せず帰って模擬戦をして玉を補充するんだ。とにかくこのゲームはシビアだ。舐めたらいけない」

 谷野が言った。

 イットクは少し不満であったが、自分は初心者だから何か知らないことを谷野たちが知っているのかもしれないと思い素直に従う。




 巣に到着すると模擬戦を各自やり始める。スリング用の玉を運ぶ袋なども、模擬戦で手に入れ必要がある。

 イットクが矢をもらうための模擬戦を終え、矢を二十本もらう。

 すると西尾も模擬戦を終えて、戻ってきた。

 谷野のメンバーの中に、強い奴と弱い奴がいることは、イットクも薄々気付いていた。西尾はエース級に強いメンバーだというのも気付いていた。

「西尾さん。話を伺っても良いですか?」

 イットクは西尾に話しかける。

「俺に答えられることならな」

「なんか、慎重過ぎると思うんすよ。どうして、ガーッと行かないんすか?」

 イットクが言った。

「狩りの事を言っているのか?」

 西尾が聞き返すと、イットクは頷く。

「俺たちは、最近、ミノタウロス三体に大敗して、仲間を五人失ったばかりだからだ」

 西尾の説明にイットクは絶句する。

「失った仲間の分を埋め合わせる新しメンバーもまだ補充できていない。あと四人も必要だ」

 イットクは少し考える。

「でも、俺を入れて今二十六人もいるじゃないですか。それでも不足ですか? 遭遇するモンスターは多くても十体じゃないですか」

 イットクは言った。

「それは、戦ってみないと分からないな。相手が一体でも少ない場合もあるだろうし、相手が百体でも多い場合もある」

 イットクは不満そうにする。

「それじゃあ、俺は次の模擬戦をやるから」

 そう言うと西尾は模擬戦を申し込むために、物知りゴブリンに話しかける。そして、模擬戦をやる会場へ行ってしまう。

 イットクは、物知りゴブリンに話しかけようとする。

「何だい。何か用かい」

 物知りゴブリンの方から話しかける。

「モンスターと戦う際、なんて言うか、みんな慎重な気がするんだけど」

 イットクは言った。

「それは良い傾向だと思うぞ」

 物知りゴブリンは、さも当たり前であるかのように言った。

「良い傾向なの?」

 イットクは聞いた。

「まだ、三レベルのグループだしな。それに二レベルのあんたもいる。無理をすると弱い奴から死ぬ。」

 物知りゴブリンが、サラリとダークなことを言った。

 イットクは思わず身震いする。

「俺のせいで慎重な戦い方をしているのか!」

 イットクは、複雑な気分になる。

「それだけでもないだろうな。三レベルぐらいで大胆に振舞うのはまだ早い。最低でも五レベルにならなくてはな」

「ご、五レベル!」

 イットクは驚く。

「なんでそんなにレベルを上げないといけないんだ?」

 イットクが聞いた。

「敵の攻撃で運悪く、一撃で死ぬ確率が大分低くなるのが、五レベルだ。一撃で死ななくなるわけではないけどな」



 しばらくの間、谷野たちのグループは上手くいっているかのようだった。しかし、イットクがグループを抜けると言い出した。

「どうして抜けるるんだ」

 西尾が聞いた。

 イットクは、しばらく俯く。

「この前、エルフを狩ったじゃないですか」

 イットクが訴えるように言った。

「そうだな」

「その後、カルマゲージが滅茶苦茶悪化したんですよ」

 イットクはそう言うと、横を向く。

「そうか。ゲームオーバーしたら大変だもんな」

 西尾は寂しそうに言った。

「せっかく三レベルまでレベルアップしたんだ。無理するなよ」

 西尾が言った。

 西尾たちは四レベル、イットクは三レベルにレベルアップしていた。

「あ、ありがとうございます」

 そして、西尾は仲間たちの元へ戻る。

 イットクは引き留められるのではないかと思っていたが、あっさり引いたので拍子抜けする。


 イットクは、谷野のグループから脱退してから、しばらく一人で活動していた。

 一人での活動は、食料の確保は一人分しかしなくて済むので、大分楽だった。場合によっては、集団戦闘で、大勢が死んだが、生き残った者だけで、食べ切るのが難しく、結局、その場に廃棄されりする。そのような余りものにありつければ、食事に困らなかった。

 それでも、戦闘になるので定期的に模擬戦をして、矢を仕入る必要はあった。

 模擬戦を終えて休憩をしていると、知らないゴブリンが話しかけてくる。

「あんたがイットクさんかい?」

「そう言う、あんたは誰だい?」

「俺は、マックスと言うだ。あんた三レベルだと聞いて、俺も三レベルなんだが、仲間にならないかと思って声を掛けたんだ」

「確かに三レベルだが、最近、戦闘らしい戦闘はしていないぞ」

 イットクは、不機嫌そうに言った。

「でも、模擬戦はやっていたんでしょ」

「模擬戦をやらないと、矢の補充やロープなどの備品も補充できないからな。でも、模擬戦と実践は違う」

 イットクが言った。

「確かに模擬戦と実践は違うというのはその通りだ。だけど、食料を確保するために危険は冒しているのだろう?」

 マックスが聞いた。

「それは、そうだけど。モンスターを倒さないと、レベルもカルマゲージも良くならない」

「レベルは人間を狩っても上がるが、カルマゲージは悪化する。だから、谷野さんのグループから抜けたんだろう?」

「どうして、それを知っている?」

「俺も谷野さんのグループから抜けたんだよ。人間をあのグループは狩るから、カルマゲージがどんどん悪化していく。やってられないよ」

「そうだな。あと、俺たち以外にも同じような理由で谷野さんのグループから脱退した奴いるんだってよ。探して仲間にしないか」

 イットクとマックスは仲間を集めることにした。




 イットクとマックスのグループは、五人になっていた。

 全員、弓兵の三レベルであったが、なんとかなっている。

 その状況を心穏やかでなく見ていた者がいた。谷野グループの西尾である。

「どうしたら、仲間が定着するんだ」

 西尾は呟いた。

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