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第一章 第十九話 谷野工事の市街地ステージの挑戦

 谷野たちは、空腹になると狩りをして、腹いっぱいになると巣に戻り、模擬戦をする。それを繰り返した。

 スリングの玉は、その辺に転がっている石でもいいのだが、案外市街地には石は転がっていない。だから、スリングの玉は模擬戦である程度、揃えておいた方が良いのだ。

 それを繰り返していると、谷野たちは三レベルにアップする。レベルアップすると、また装備が強化できるので、武器を強化するために模擬戦を行う。

 そして、空腹になると狩りをして、腹いっぱいになったら巣に戻り、模擬戦をするを繰り返した。全員分の装備が再び今のレベルでは最強のところまで強化できた。

 三レベルになり、装備が充実してくると自分たちが強くなったと勘違いする者たちが出てくる。谷野の取巻きにもそう言う者が出てきた。

「これだけ強くなったんですから、そろそろ、次の段階にいきませんか」

 取巻きの一人、高田が言った。

「次の段階とはなんだ?」

 谷野が聞いた。

「今、人間の狩場に使っている場所があるじゃないですか。あの辺から他のモンスターを追い払いませんか?」

 高田が言った。

「それはどういうつもりだ。他のモンスターを追い出した後をどうするつもりだ」

 西尾が言った。

 ちなみに西尾は、谷野の取巻き中で、戦闘能力の優れた十人の内の一人だ。高田はその他である。

「そんなの、人間を狩るのを独占するに決っているだろ」

 高田はさも当たり前であるかのように言った。

「人間をいつまでも狩っていたら、このゲーム、いつまで経っても攻略できないぞ。そろそろ、人間狩りを止め、モンスターだけを狩るように方針転換するべきだ」

 西尾が言った。

「先生はどちらの案を採用されますか?」

 高田でもない、西尾でもない、他の取巻きの一人が言った。

 谷野は、いきなり二つの案を振られ考える。


 たしかに、人間の狩場を独占し、弱くて美味しい人間を狩り放題狩れればそれは良い。しかし、それではゲーム攻略どころか、下手したらゲームオーバーになる可能性がある。

 かと言って、人間狩りを止め、モンスターだけを狩るというのは、戦闘能力が弱いメンバーにはキツイし、何より人間の味を知ってしまったら、モンスターの味は美味しいとは言えない。

 谷野にとっては美味しい人間が食べられなくなるのは、とても寂しく感じられた。


「どちらを採用するにしても、肝心なことだが、そもそもあの狩場から他のモンスターを追い払うことが可能なのか? モンスターを狩るだけで、飢えをしのげるだけの力が我々にあるのか? わからないな」

 谷野は、もっともらしい事が言えたと、心の中で思った。

「さすが、先生。ごもっともです」

 高田、西尾のどちらでもない取巻きが言った。

「それでは、どちらの案が現実的か、判断するために早速市街地に行ってみませんか」

 高田が言った。




 谷野たちは、人間の狩場へ来ていた。

 コボルト五体と遭遇したが、コボルトたちは谷野たちをみると一斉に逃げ出す。これだけの人数差である。逃げて当然である。

 さらに歩いているとミノタウロス三体が跋扈しているのに遭遇した。

 向こうもこちらを睨みならが歩いて来る。

「スリングで先制攻撃だ」

 谷野が指示すると、皆でスリングで攻撃を始める。

 使い始めたばかりの武器である。やっぱり命中精度は良くない。ほとんどがハズレ、命中しそうになっても盾で弾かれ、何発が当たっているが効いている感じがしなかった。三体のミノタウロスはそのまま突っ込んでくる。

 あっと言う間に接近戦に持ち込まれてしまった。

 戦闘能力が優れた十人でさえも、五人掛かりで一体を抑えるのがやっとだった。つまり、一体がフリーとなる。高田がミノタウロスバトルアックスで頭を真っ二つにされて即死する。

 戦闘能力が劣ったメンバーたちにとっては二十人掛かりでも一体の相手をするのは無理だった。

 フリーのミノタウロスが、バトルアックスを振る度に一人の仲間が倒される。

 三人目が殺されたところで、さすがにヤバイとわかった谷野は、「撤退だ」と叫ぶ。




 谷野たちは、何とか撤退に成功したが、結果的に五人の仲間を失った。今回のダメージはそれだけではなかった。戦闘能力が優れたメンバーの中にも、大ダメージを負った者が出たことである。

 戦闘力が劣ったメンバーから五人死亡。谷野を含む十五名が大ダメージ。

 戦闘力を優れたメンバーから五人が大ダメージ。五名が中ダメージ。

 この大敗により、谷野は自分たちがまだ他のモンスターを追い払うだけの力がなかったことに気付く。

 それで、方針転換はせず、今までのやり方で食料の確保とレベルアップを目指すことにした。


 これだけのダメージを負った状態から、良好な状態に戻すのに、結局人間を狩ることにする。

 市街地の人間の狩場へ行くと、身長三メートルぐらいある、巨大な人間、巨人がいた。その巨人はミノタウロスより大きかった。

「何だあれは。モンスターだよな?」

 谷野が言った。

 谷野たちは、巨人を見たのは初めてであった。

 そもそも、キャラクターメイキングで巨人や小人を選ぶプレイヤーがほとんどいないので、こうやって遭遇する確率が低い。

「いえ。キャラクターメイキングの際、モンスターのメニューの中に巨人はいません。たぶん、あれは人間と同じ扱いの存在だと思います」

 冷静な取巻きの一人が言った。

「モンスターでも人間でも良い。今は食料の確保優先だ。スリング攻撃を始め」

 スリングで一斉に攻撃を始めると、標的が大きいせいか、良く命中した。そして巨人が谷野たちの近くにまで近づいて来る頃には、大分ダメージを与えらた。接近戦になってからは、ダメージの少ない者たちで取り囲み攻撃した。

 苦労したかいもあり、巨人を倒す。

 倒したあと、みんなで仲良く分けて食べたのだが、何気に食べでがあった。その為、ダメージが少なかった者たちは、ケガが全回復し、大ダメージを負っていた者たちも大分ダメージが軽減した。

「引き続き、狩りを続けるぞ」

 食事が終ると、谷野が言った。


 三十人から二十五人へと減っただけで、谷野たちメンバーの戦闘力が落ちたように、谷野は感じた。

 攻撃力および戦闘継続力が単純計算で十七パーセントも減少しているので、一割以上減ったのだ。戦闘力が落ちたように感じて当たり前である。

 メンバーが減ったことで確保しなければならない食料の量も減ったので、戦闘自体は大変になったが、その分早くお腹いっぱいになった。


 谷野たちは腹いっぱいになると、巣に帰る。真っ先に物知りゴブリンのところへ行く。

「モンスターに殺された仲間ともう一度合流する方法はないか?」

 谷野は、戦力ダウンしたことをやっぱり気にしていた。

「あれ。前にも説明しませんでしたっけ。合流できませんよ。キャラクターが死にお花畑で合流して、同じ種族、同じクラスを選んで同時にキャラクターメイキングをするとほぼ同じフィールドに出ます。それ以外の方法で合流する方法はありません」

 物知りゴブリンが言った。

「我々が死なないままで交流したいのだが」

 谷野が言った。

 物知りゴブリンは少し考える。

「死んだ仲間が他の種族を選んだ場合、同じフィールドで偶然ばったり会うこともあるかもしれませんが、異種族で仲間であることに気付いて合流するのは難しいかと。少なくとも巣が別々なので、巣での協力ができませんしね」

 物知りゴブリンが言った。

 谷野は不満そうだ。

「前にも言ったと思いますが、仲間は巣の中から探す方が現実的ですよ。皆さん、戦士ですよね。できれば盗賊を一人以上、弓兵も数人いた方が、役割分担ができるし、全体としては有利になると思いますよ」

 物知りゴブリンが追加で言った。

「役割分担とは? 具体的に教えてくれないか?」

 谷野が聞いた。

「役割分担は、役割分担さ。盗賊は罠感知や住宅の扉の鍵開けとかな」

「住宅って、市街地の建物のことか?」

「それ以外にはないだろう。斧とかで壊して中に入れるが、壊して入ると自分たちが中にいることを知らせるようなもんだ。隠れ家として使うなら盗賊に鍵開けをさせるのが良いって訳だ」

 物知りゴブリンが得意げに言った。

「盗賊にそんな使い道があったとは知らなかったよ」

 谷野が言った。

「盗賊の本業だぞ」

 谷野は、生前の泥棒のようなことをするのが盗賊の仕事だと思っていたので驚く。

「盗賊クラスのゴブリンが少ないので貴重だし、仲間にするのは大変だぞ」

 物知りゴブリンが言った。

「どうして盗賊は少ないんだ?」

 谷野が聞いた。

「理由は盗賊をやりたがるプレイヤーが少ないからだ。どうして盗賊をやりたがらないのかは、こっちが聞きたいぐらいだ」

 物知りゴブリンは、そう言うと肩を竦める。

 物知りゴブリンが一生懸命に教えてくれたが、谷野には盗賊が必要だと思えなかった。


 実はこのゲーム攻略の上で非常に役に立つクラスなのだが。


「ところで弓兵はどうやって使うんだ?」

 谷野が聞いた。

「それは盗賊より簡単だろう。弓を使って戦うだけだ。遠くの敵を倒すのに向いている」

「我々はスリングを持っているぞ」

「スリングより、弓の方が小回りが利く。慣れれば、スリングより命中率が良いぞ」

 谷野は「うーん」と唸りながら考え込む。

「敵に与えられるダメージはどっちが大きいんだ?」

 谷野が聞く。

「一撃一撃は、あまり変わらないな。だが、連射はどっちが速くできるかと言うと弓だな。与えるダメージは、使い手のレベルの影響の方が大きいからなんとも言えないな」

 物知りゴブリンが、苦笑いを浮かべながら言った。

「あと、模擬戦でもらえる玉と矢では、矢の方が多くもらえる点も利点の一つかもしれないな」

 物知りゴブリンが、付け加えて言った。

「とりあえず、戦力ダウンしたのが確かだ。仲間を増やすよ。盗賊や弓兵を増やすかどうかは、わからないが」

 谷野が言った。

「一応言っておきますけど、盗賊や弓兵を前衛にして戦わせてはダメですよ」

 物知りゴブリンが、困ったような顔をして言った。

「前衛にして戦わせるってどういう事だ?」

 谷野は首を傾げながら聞いた。

 谷野は前衛後衛の概念から分かっていなかった。

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