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第一章 第十八話 谷野工事の市街地ステージでのセカンド武器の入手

 谷野たちは、朝起きると食料を確保するため、出かけることにする。出かけてみると、人が住んでいない生活感がまったくない家々が建ち並ぶだけで、うろついている人間はまったく見かけることはできなかった。

 人間を見かけることはできなかったが、モンスターはいろいろ見かけることができた。

 数が多いとみて、すぐに逃げ出すモンスターもいたが、ゴブリンと侮って襲ってくるモンスターもおり、襲ってくるモンスターを数の暴力で倒していく。そして、仲間達で仲良く分け食べる。

 それをただ繰り返す。



 朝、人が市街地をうろついていないのは、人間は安全地帯に居るだけで朝食が手に入るからだけでなく、腹を空かせたモンスターが多くうろついているから、人間は危険を感じて外出を控えているからである。逆にモンスターは食料を確保するため、うろつく時間帯でもある。

 その為、カルマを悪化させないために、モンスターのみを襲うモンスターにとっては、都合の良い時間帯であるが、通常人間はモンスターより弱いので、弱い人間を食料にしようとするモンスターにとっては獲物が見つかり難い時間帯でもある。



 単独行動や少人数で行動しているモンスターを狩り、腹ごしらえを終える。累積的にダメージを負った仲間もおり、巣に帰る。

 やっぱり、戦闘能力が優れている者とそうでない者と出てくる。最初に装備を整えた十人は、ほとんどダメージを負わないか、負っても、食事で回復してしまっていた。その為、巣に帰ってすぐに引き続き模擬戦にチャレンジできた。

 しかし、他のメンバーは食事をしてもダメージが残り、戦闘を繰り返すごとにダメージが増えていく。その為、ダメージ回復の休憩をとる必要があった。

 谷野は、模擬戦をしているメンバーを横目に、物知りゴブリンに質問をする。

「どうして、こんなに能力差があるんだ?」

 谷野が突然質問した。

 谷野にとっては、自分たちのメンバーの事だけを考えていたかもしれないが、物知りゴブリンにとっては、谷野の仲間の能力差など、範疇の外である。

「能力差と言うと?」

 物知りゴブリンが、質問の意図が分からず聞き返す。

「いま模擬戦をやっている者と俺は同じチームだ。狩りに行くのもずっと一緒に行動して、しかもレベルも同レベルなのに、なぜかあいつらの方が強いように感じるのだが」

「なるほど。答えは至って簡単だ。戦闘系スキルが彼らの方が高いんだろ」

 物知りゴブリンが、言った。

「戦闘系スキルとはなんだ?」

 谷野は初めて聞く言葉について聞いた。

「戦闘系スキルとは、剣で攻撃したり、盾で守ったり、攻撃を避けたりするスキルだ。全員にあるぞ。ゲーム端末でカルマゲージが表示される画面で確認できるぞ」

 物知りゴブリンが言った。

 谷野はゲーム端末を出し、確認する。剣での攻撃スキル一レベル、盾での防御スキル一レベル、攻撃の回避スキル一レベルだった。

「集団戦闘だと、戦闘に貢献している者ほど戦闘系スキルのレベルが上がって行く。逆に戦闘に貢献していない者は戦闘系スキルのレベルが上がり難くなる。モンスターを倒すことによって入る経験値はそのパーティの均等割りになるが、戦闘系スキルは、自分自身の行動のみで決まり、仲間に分割されることはない」

 物知りゴブリンが教えてくれる。

「あと、もう一つ重要なことがある」

 物知りゴブリンは、少し間を置いたあと言った。

「重要?」

「もし今のキャラクターが死んで、他のキャラクターを作り直し、チャレンジし直しても、戦闘系スキルに限らず、すべてのスキルが継承されるという事だ」

「それってつまり、今強くなって置くと、不慮の事故で死んでも強いまま生まれ変われるという事か?」

「うーん。若干語弊があるな。キャラクターを作り直すとほとんどの場合、レベルが下がるから、やっぱり弱くなる。ただ、元のキャラクターで身に付けた能力は使えるという事だよ」

 物知りゴブリンが説明したが、谷野は理解していない様子だった。

 スキルのレベルは、死んでも元のままと言うことなのだが、ゲームの感覚が分からない人には、とことん理解できない。

「いま忍び足の練習をして上手くなったとしよう。そうすると、キャラクターを作り直しても忍び足が上手いままだということだ」

「なるほど。そう言う風に説明してくれたら、分かり易いんだが」

 谷野はそう言ったが、ゲーム世代には、逆に判り辛い。




 しばらくすると、メンバー全員の武器とヨロイ、盾がそろう。

「全員分の武器と防具がそろったところだし、そろそろ食料を確保しに行きませんか?」

 模擬戦チームの一人が、谷野に提案した。

 谷野は少し考え込む。

 戦闘系スキルに差があるとしても、そもそも、装備の性能の差もあったのだ、装備がそろった今、その違いを見るのも丁度いいかもしれないと考えた。

「そうだな。空腹だと休息していてもケガは回復しない。まだ、戦闘に参加できないメンバーもいるが、良いだろう」

 谷野の言葉で全員動き出す。



 今は、ゲーム内時間内で午後二時ぐらい。朝と違って、人間も活動をしている時間帯だ。逆に朝に食事を終えたモンスターにとっては休息しているモンスターも少なくない。つまり、人間と遭遇しやすくなり、モンスターと遭遇が少なくなる時間帯である。

 そのせいか、すぐにノーム五人組と遭遇した。

 谷野は、相手が人間だろうが、モンスターであろうが、関係なく戦闘の指示をする。レベルが低い間は、レベル上げのために人間を襲うのは、理に適っていると考えていた。

 どうしてそのように考えているかと言うと、人間を倒す以上にモンスターを倒せば、カルマの悪化はないと考えていたからである。実際、朝は人間を見つけることができなかったから、モンスターしか食べていない。つまり、トータルでは人間よりモンスターの方を多く殺していた。トータルで人間よりモンスターを多く殺して居れば大丈夫だと考えていたのだ。

 しかし、その考えが甘かったと分かるのは、大分先の事である。

 谷野も取巻きたちも、人間を殺しても見た目でわからないほど少ししかカルマゲージが悪化しない。生前にマイナスのカルマをいっぱい稼いでいたためだ。

 しかし、谷野たちは肝心のモンスターを倒した時のカルマゲージの改善の度合いも、ほとんど見た目で分からないほど少ししかカルマゲージが改善していないことを見落としていた。

 このゲーム内でマイナスのカルマを稼ぐことの怖さを谷野たちは分かっていなかったのだ。


 谷野の指示であっさりノームを倒し、食事にする。

「結構美味いな。これ朝食べたモンスターより美味い」

 谷野が言った。

「どうも、人間の一種だと美味いみたいですね」

 取巻きの一人が言った。

「それじゃあ、人間ばかり食った方が良いんじゃないか。しかもモンスターより弱いしな」

 谷野は言った。

「人間ばかり食っていたら、ゲームオーバーしちゃいますよ。これからはしばらくモンスターしか食えないですよ」



 このあと、ミノタウロスやオーガーなどのモンスターを狩り、食べた。腹いっぱいになるまでモンスターを狩り続けた。

 腹いっぱいになったので、再び巣に帰る。取巻きの一人がレベルアップしていないことを確認した。腹いっぱいになるために結構戦ったはずなのに、レベルアップしていないことに落胆する。

 レベルアップしていないので、装備の強化できないことは分かっていた、何かしら強化できないか物知りゴブリンに聞いてみる。

「今の装備を強化できないか?」

 取巻きの一人が聞いた。

「今のレベルで使える装備の中で最強になっている。模擬戦ではなく、戦闘訓練が良いんじゃないか?」

 物知りゴブリンは考えながら言った。

「何かしら強化はできないか?」

 横から谷野が言った。

 物知りゴブリンはしばらく考え込む。

「どうしてもと言うのなら、飛び道具か、セカンド武器ぐらいだな」

 物知りゴブリンは言った。

「飛び道具?」

「二レベルならスリングが使える。スリングは威力があるが、使い勝手が悪いし、慣れないと命中精度が悪い。だが、攻撃の幅は広がるぞ」

 物知りゴブリンが言った。

「それじゃあ、セカンド武器は?」

「メインの武器が壊れたり、落としたりしたときに使う武器だ。持ち運びに便利で投げて使うこともできるダガーなどだな」

「ダガーなどという事はダガー以外もあるのか?」

「レベルが上がればね」

「どっちがオススメなんだい?」

「経験値稼ぎのためならどっちでもいい。けど、人数が多いんだろ。だったらスリングを使ってみるのも手だと思うぞ」

「なら、そのスリングで良い。スリングを人数分揃えよう」

 谷野がそう言うと、スリングを人数分揃えることになる。その為の模擬戦を挑むことになった。


 模擬戦をやると人数分簡単に揃えられた。

 しかし、スリングは連射が出来ない上、練習しないと玉の飛んでいく方向さえも合わせるのは難しかった。

「スリングだと、乱戦で使うと、味方に当たってしまう可能性があって使えないな」

 谷野が残念そうに言った。

「戦闘中の仲間の援護で使うならダガーを投げて使う方が良いな」

 物知りゴブリンが言った。

「なるほど」

「あと、言い忘れていたが、戦闘に関係ないアイテムを入手したい場合も模擬戦をしてもらうぞ」

 物知りゴブリンは思い出したかのように言った。

「戦闘に関係ないアイテム?」

「モノを持ち運ぶのに便利な背負い袋とか、ロープとか、火を熾すための道具とかな。欲しがる奴がいないので忘れていた」

 物知りゴブリンは、テヘペロをしている。

「欲しがる奴がいない物を手に入れる意味あるのか?」

 谷野は胡散臭そうに聞く。

「巣の外は市街地だ。一見戦闘に関係なさそうなアイテムだって使い道はいろいろある」

「例えば、どんな?」

 谷野は疑わしそうに聞く。

「うーん。そうだな。足元にロープを張って置いて、敵をおびき寄せて足を引っかけて転んだところをフルボッコしたりとか」

 物知りゴブリンは苦笑いを浮かべながら言った。

「あまり有用ではないが、そう言うモノも手に入るというわけだな」

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