警備員の姿をした鬼が、竹内凹蔵に「オーク、ゴブリン、コボルトの方がレベルを上げやすいからオススメですよ」と言われるより大分前、竹内凹蔵がお花畑で他の亡者に一方的に殴られていたところまで遡る。
「なんか騒がしいな」
キッチリしたスーツを着ている男たち三十一人の集団の一人、谷野工事が言った。
「行ってみますか? 先生」
取巻きの一人が言った。
「そうだな。様子を見に行ってみよう」
一団はぞろぞろとそちらに進む。すると、他の野次馬から距離を取り、騒動の様子を観察している男、天野を谷野は発見する。
「あの男にこの騒動の事を聞いてこい」
谷野がそう言うと、取り巻きの一人が、天野に近づいていく。
「おい。お前。先生が気になっているから教えろ。その騒ぎはなんだ?」
天野は思わず引く。穢れが見えなければ、穢れの集団もなんともないかもしれない。しかし、天野は穢れが見えるのだ。穢れ塗れの集団がいればそうなる。
「乱闘があったんだよ。でも警備員によって収まったようだよ。ところで先生って何者?」
「お前。谷野工事先生を知らないのか!」
天野は、少し驚く。
「あの谷野論文の?」
天野は思わず聞く。
「知っているのか?」
「読みましたので」
「お前、見所があるじゃないか」
取巻きがそう言うと、天野は複雑な表情をする。
谷野は、天野が自分の論文の読者だとしり、他にも質問しようと近づく。
すると警備員が立ち塞がる。その為、谷野の取巻き達が警備員に詰め寄る。するとさらに警備員たちが集まって来る。
「ゲーム端末を皆さんに配布いたしますので、他の方に近づくのは極力やめてください」
そう警備員の一人が言うと、ゲーム端末を配り始める。
その頃、天野は谷野たちから遠ざかるために立ち去ろうとすると、二人組の穢れた男たちに声を掛けられ、驚いていた。
警備員は、谷野にゲーム端末を渡す。
「ゲームをやりませんか。暇つぶしになるだけでなく、いろいろ特典がありますよ」
警備員が言った。
「特典とはなんだ」
谷野は高飛車に聞く。
「マイナスのカルマが大きければ軽減し、プラスのカルマが大きければそれを強化します」
警備員が言った。
谷野は考え込む。そもそも、マイナスのカルマとか、プラスのカルマとか、それの意味が分からない。チンプンカンプンだった。
「マイナスのカルマとか、プラスのカルマとか、どういう意味だ」
谷野は、顔を顰めて聞く。
警備員は少し唸る。
「まあ、詳しく話すと時間が掛かりますので端的に言うと、ゲームをすると、未来が良くなるという代物です」
警備員は軽くまとめる。
「なるほど。それはおもしろそうだな」
谷野も興味を持った。
別の警備員たちも、谷野の取巻き達にゲーム端末を配っている。
最初は全く興味を示さなかったのに、谷野が興味を示すと、突然欲しがり出す者までいた。
しばらくすると、谷野の取巻きたちにもゲーム端末が行き渡る。
「それでは、全員でゲームを始めるか」
谷野が言うと、取り巻きたちは誰一人として異議を唱える者などいなかった。
谷野はゲーム端末を見る。スイッチのありかが良くわからなかったのだ。
ゲーム端末の上側にスイッチがあるのに気付き、電源をオンにする。
ゲームのロゴが表示された後、初期メニューが表示される。
メニューには四つの項目
『プレイヤー登録』
『キャラクターメイキング』
『カルマプルガチオの世界』
『プレイデータ』
があり、『キャラクターメイキング』以外が選べるようになっていた。
「これはどうすると、ゲームを始められるんだ?」
谷野がゲームのメニューを理解できずに言った。
「どうもプレイやー登録する必要があるようです」
取巻きの一人が言った。
谷野はプレイヤー登録のメニューを選択する。
画面上に出てくる必要な項目を入力していき、完了ボタンを押す。
すると、元の画面に戻るが、『プレイヤー登録』のメニューが消えて、一番下に『プレイヤー情報』が追加されていた。
「プレイヤー登録が終了すると、キャラクターメイキングをするみたいです」
取巻きの一人が言った。
「なるほど」
そう言うと、谷野はキャラクターメイキングのメニューを選択する。
キャラクターメイキングの画面に切り替わると、種族メニューがあった。
種族メニューには、
『人間』
『ニキト』
『エルフ』
『ドワーフ』
『ノーム』
『フェアリー』
『モンスター』
の項目があった。しかし、『人間』『ニキト』『エルフ』『ドワーフ』『ノーム』『フェアリー』の項目は無効になっており、選べないようになっていた。唯一有効になっていたのは『モンスター』だけだった。
「なんでモンスターしか選べないんだ?」
谷野は、取り巻きたちの様子を見る。
「私も、モンスターしか選べません」
取巻きの一人が言った。
「モンスター以外を選べる者はいるか?」
谷野が聞いたが誰もいなかった。
「そう言うモノなのかもしれないな」
生前の行いで選択肢が決められるのだ。つまり、ここにいる谷野を含む取巻きたち全員、同じ穴の狢であったのだ。
谷野は、モンスターの項目を選ぶと、モンスターメニューになり、
『オーク』
『ミノタウロス』
『オーガー』
『ゴブリン』
『コボルト』
の項目があった。しかし、『オーク』『ミノタウロス』『オーガー』の項目は無効になっており、選べないようになっていた。選べるのは『ゴブリン』『コボルト』だけだった。
「今度は、ゴブリンとコボルトしか選べないのだが、他に選べる者はいるか?」
谷野が取巻きたちに聞いたが、誰一人として答える者はいなかった。全員、ゴブリンとコボルトしか選べないのだ。
「そう言うモノかもしれないな」
まったく情報集めをしない。自分たちの狭い世界しか知ろうとしないと、不条理な状況でも「そう言うモノかもしれない」と思ってしまうモノである。
「先生。ゴブリンとコボルト、どっちにいたしましょう。この際ですから、全員同じ種族を選びましょうよ」
取巻きの一人が言った。
「そうだな。だが、いままでこういうゲームをやったことがない。どっちを選んだらいいのかわからん」
谷野が言った。
同じ穴の狢どうし、やっぱり全員どっちを選んだら良いのかわからなかった。
「だったら、先生が適当に決めてください。それなら、誰も文句を言いません」
取巻きの一人が言った。
谷野はしばらく一人考え込む。取巻きたちは、その様子を見守る。
「悩んでも仕方ない。わからないモノはわからん。まずはゴブリンを選んでみて、ダメらならコボルトにしよう」
谷野がそう言うと、全員それに従う。
全員はモンスターメニューでゴブリンを選ぶと、 クラスメニューが表示された。
『戦士』
『盗賊』
『弓兵』
『シャーマン』
の項目があった。しかし、『シャーマン』の項目は無効になっており、選べないようになっていた。
また、戦士、盗賊、弓兵の選択肢がある。
「戦士、盗賊、弓兵が選べて、シャーマンは選べないようになっている。違う者はいるか?」
谷野が聞くと、全員同じであった。
「我らが盗賊をするというのは、おかしいからな。全員戦士で行こう」
谷野がそう言うと、誰も異議唱えなかった。
全員、戦士のボタンを押す。
すると、全員お花畑から姿を消す。
谷野は、地面と天井だけが延々と広がっている、亜空間に居た。当然ながら、取り巻きの三十人はいない。
取巻き達は、別々の同じような亜空間にいる。
”ゲーム内では、ゲーム内だけの名前を使っても良いですし、本名をそのまま使っても良いですがどうしますか?”
ゲームシステムから問いかけられる。
「なぜ、偽名など使う必要がある。本名に決まっている」
谷野は眉根を寄せて言った。
しばらく沈黙が漂う。
”ゲーム名、『谷野工事』で登録いたしました”
”市街地ステージからスタートします”
”善行を行うとカルマが良くなり、カルマゲージは青が広がります”
”悪行を行うとカルマが悪くなり、カルマゲージは赤が広がります”
”ステータス画面のカルマゲージの全体が青くなると市街地ステージクリア、真っ赤になるとゲームオーバーとなります”
”次に注意事項を説明します”
”人間を攻撃するとカルマが悪化します。ただし、自衛のための攻撃つまり反撃はセーフです”
”ちなみに、人間とはヒューマンだけでなく、エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーも含まれるのでご注意ください”
”モンスターを攻撃するとカルマが改善します”
”攻撃を受けダメージを受けるとカルマが改善します”
”他の生き物を殺さないと食料が得られません。また、他人が生き物を殺した場合でも食料にできます”
”カルマゲージは毎日リセットされますが、前日の結果で青くなりやすくなったり、赤くなりやすくなったりします。つまり前日の結果は無駄になりません”
”ゲームをスタートしてもよろしいですか?”
「はあ、何を言っているのだ、意味がわからん」
”もう一度説明いたしましょうか?”
「分かり易く説明してくれ」
谷野が言った。
”市街地ステージからスタートします……”
システムは、結局同じ説明を繰り返した。なので、谷野はちゃんと詳しく説明しろと怒る。
ゲームシステムは同じ説明を繰り返すだけで、谷野の期待するような説明をしない。そして、二度目の説明の後、ゲームは勝手にスタートする。
すると、視界が真っ白になり、何も見えなくなる。
谷野はゆっくり目を開くと、洞窟のような場所に出た。
他に大勢のゴブリンたちがいたが、谷野の取巻きたちではなかった。
取巻きがまったくおらず、不安を感じ始めと、谷野すぐ傍に緑色の肌に牙を持つ、醜い小鬼が現れる。
「な、なんだ」
谷野はとてもビビる。
「先生。谷野先生ですか!」
突然現れたゴブリンが谷野に話しかける。
「そ、そうだが」
「良かった。私です。佐藤です。良かった。はぐれないですんで」
そんな感じで、谷野の取巻きたちは、一人、また一人と集まって来る。そして、谷野を含む三十一人全員が同じ場所に集まる。
「やりましたね。先生。一人も欠けることなく全員集まりましたよ」
取巻きの一人が言った。
「そ、そうだな」
そうは言ったが、醜い小鬼に囲まれている状況は、微妙であった。この時、まだ本人がその醜い小鬼になっていることに気付いていなかったからだ。