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第一章 第十四話 竹内凹蔵の市街地ステージでの人間の巣の周りの攻防

 人間の巣とゴブリンの巣を発見した翌日。

 早速、竹内たちは、人間の巣へ行ってみる。すると、人間たちが出てくるのを待ち構えているゴブリンたちを発見する。

 しかも、巣から出て来た時の、逃げ道になりそうなところへ一人から二人ぐらいずつ配置されている。巣から出てきた人間を追い詰める布陣だが、竹内たちが各個撃破するのにもちょうどいい形である。


 竹内たち三人は、他のゴブリンたちから見え難い場所に配置されているゴブリンから襲う。

 人間の巣の方へ神経を集中させているため、ゴブリンはこっそり背後から近づく竹内たちに全く気付かない。そこに、三人で一斉に襲うので瞬殺である。

 しかし、これは瞬殺に失敗し、騒がれて仲間を呼ばれたら、逆に竹内たちが逃げなければならないリスクもあった。竹内たちはそこまで考えてはいなかったが。

 それを今いるゴブリンたち十体全員にしていく。最初の内は慎重であったが、徐々に雑になって行くが、後半の方が徐々にリスクは減って行くので問題はなかった。そして、ゴブリンたちを全滅させた。


 竹内たちは、倒したゴブリンを腹いっぱいになっても食い散らかした。

「傷も回復したし、腹もいっぱいになったな」

 竹内は満足して言った。

「そろそろレベルアップしたんじゃないか?」

 渡辺はそう言うとゲーム端末を出し、レベルを確認する。

「やった! レベルアップだ」

 渡辺がそう言うと、竹内や工藤も一緒に確認する。

「おお、本当だ。新しい武器と防具をもらいに巣に戻ろう」

 工藤が言った。

「だが、人間が巣から出てくるのを監視していたんじゃないか。このゴブリンたち」

 竹内が言った。

「殺して食べるのが目的なのか?」

 工藤が言った。

「そんな事したらカルマゲージが赤くなってゲームオーバーするんじゃないか?」

 渡辺が顔を顰めながら言った。

「人間を殺しても、それほど赤ゲージは増えなかったぞ」

 竹内は言った。

 実は、竹内と工藤や渡辺のカルマゲージの変化の仕方は違っていた。

「いやいや。大分赤ゲージが大きく増えて驚きましたよ」

 工藤が言った。

「そして、今ゴブリンたちを大分倒したのに、青ゲージが増えにくくなった。人間を殺してからだよ」

 このゲームは、人間を殺すと、いったん大きく赤ゲージが増え、その翌日からカルマゲージの増減が少なくななってしまう仕組みなっていた。

 工藤と渡辺は、今回それを経験したわけだが、竹内の場合は違った。

 竹内は、工藤と渡辺と比べて、元からのマイナスのカルマが大きかった。そのせいでカルマゲージの変動が、工藤や渡辺と比べて、元からかなり小さかったわけである。そして、人を殺したからさらに小さくなっていた。

「人を殺すと、このゲームは極端に攻略が難しくなるということだよ」

 渡辺が言った。

「だが、ゴブリンより人間の肉の方が美味いだろ」

 竹内が強い口調で言った。

 竹内は人間の肉の味に魅了されていた。

「そんなこと言っていたらこのゲームクリアできないだろ」

 渡辺が言った。

「まあ、まあ、まあ。とりあえず、レベル上がったんだし、巣に帰って装備を強化しようぜ」

 工藤が宥める。

 竹内は、人間を食べることに執着していた。味が美味いからだ。

 人間の肉を食べる為なら、ゲームの攻略もどうでも良いみたいな感覚になっていた。

 このゲーム自体が、モンスターが食べた時、モンスターの肉より人間の肉の方が美味しく感じるように作られていた。しかし、美味しく感じる度合いは、人によってまちまちで、生前の行いによって影響を受けるようになっている。つまり、竹内の生前の行いは、人間の肉がとても美味しく感じる行いだったわけである。

 それを理解し、改善しないと地獄行きは確実だった。

 ちなみに、人間のキャラクターも人間の肉やモンスターの肉も食べることはできる。しかし、人間のキャラクターでは、人肉もモンスターの肉もまずく感じるようになっている。

 そんな竹内に対して、渡辺は人間の肉は美味しく、モンスターの肉も不味くはないが、人間の肉程ではないことも理解していた。しかし、渡辺は人間の肉に執着するほど美味いとは思っておらず、人間を殺すことはゲーム攻略の妨げになることを理解していたので、自分で殺してまで食べたいとは思わなかった。

 渡辺は、自分が天国へ行けると信じて疑っておらず、さらに上の天国に行くため、このゲームにチャレンジした。だから、ここで、カルマを悪化させる可能性のある人殺しはしたくない訳である。

 しかしながら、残酷な現実は、このままでは確実に地獄行きと言うモノだった。


 竹内たちは、オーガーの巣へ急ぐ。途中、モンスターとの遭遇もなく、無事巣に戻れる。

 巣に入ると、早速物知りオーガーの元へ行き、話しかける。

「新しい武器が欲しいんだが」

 渡辺が言った。

「ほう。もうレベルアップしてきたのか。大したもんだ」

 物知りオーガーが感心する。そして、武器を与えるための模擬戦を竹内たちにやらせる。

 竹内たちは武器をもらうと、すぐにヨロイをもらうための模擬戦も行う。模擬戦が終ると、ヨロイをもらい、戦闘訓練を行う。

「三レベルになると、一レベルの頃に比べると、戦闘力も大分強くなり、できることも大分増えただろう。だが、三レベルは無双できるような強さじゃない。ゆめゆめ自分の能力を過信するんじゃないぞ」

 物知りオーガーが親切にも忠告してくれる。


 実際、モンスターは、低レベルの間は、種族ごとの強さが基本能力値の影響の為、ほぼほぼ決まっている。


 コボルト<ゴブリン<オーク<オーガー<ミノタウロス


 その為、低レベルの間は、レベルが同一の場合、ミノタウロスが一番強い。

 しかし、レベルが低い間はレベル差による強さの差も大きいので、一レベル変わるだけで、強さの関係がひっくり返ったりする。

 そして、レベルの上がり易さも決まっている。


 コボルト>ゴブリン>オーク>オーガー>ミノタウロス


 つまり、基本能力が劣る種族はレベルが上がり易く、基本能力の優れた種族はレベルが上がり難いのだ。その為、レベルが低い間は、オーガーやミノタウロスでも、高レベルのゴブリンやオークに倒されてしまうこともしばしばあった。


 竹内たちは、物知りオーガーの忠告を胸に刻みむ。


 竹内たちは、武器をそろえると人間の巣に向かう。途中、モンスターと遭遇することもなく、無事に人間の巣の近くに到着する。

「どうして人間の巣に来たんだ?」

 渡辺が言った。

「この巣はゴブリンたちに狙われている。俺たちはそのゴブリンを狙う。それでいいでしょう。先生」

 工藤が言った。

「ゴブリンたちに人間を殺させて、ゴブリンを殺して、人間を食う。これならカルマは悪化しないし、いいだろう」

 竹内が言った。

「それなら良いけど」

 渡辺は渋い顔をする。

 工藤は周りを見回すと、もし、敵がいたらすぐに見つかってしまい、奇襲を受けやすい場所にいることに気付く。

「そんな事より、適当なところに隠れないか?」

 不安そうに工藤が言った。

「ゴブリンだって単体なら大したことないが、複数で取り囲まれると厄介だ」

 工藤はさらに言った。

 実際には、複数でなくても、高レベルのゴブリンがやって来ても厄介である。

「それなら、この辺の建物の中に入って、二階から様子を見るというのはどうだ?」

 竹内たちは、拠点にする建物を物色し始めた。




 人間の巣を監視しやすい位置に建っている建物を見つける。

「ここなんてどうだ?」

 渡辺が言った。

 敷地の中に入ると建物の周りをグルッと回る。ガラス戸を見つけると、渡辺が持っている金槌でガラスを割る。割った穴を広げると手を中に入れ、カギを開ける。

 あっさり中に入ると、家の中を一通り探索する。家の中からはペンチが出て来た。

 いつか何かの役に立つかもしれないと思い渡辺が持つことにする。


 二階の窓から人間の巣や、道路を警戒したら、何もないまま時は過ぎた。しかし、暗くなってくると、人間の巣から光が漏れてきた。ここ人間が住んでいるのは確かだと確信する。

「ところで、何で人間たちは巣から出てこないんだ? 腹は減らないのか?」

 竹内は言った。


 竹内たちは、人間の安全地帯では、食料が配布されていることを知らない。その為、いずれ空腹を満たすために出てくると思っていたのだ。


「交代で寝て、人間の巣を見張ろう」

 竹内、工藤、渡辺の順番で人間の巣の番をして、番をする者以外は寝ることにする。

 しかし、人間の巣からは誰も出てこなかった。そして、夜が明ける。

 小腹が空き始めたころゴブリンの大群がやって来た。

「隙をみて、奴らの数を減らしていこう」

 竹内が言った。

 しばらくして、ゴブリンたちが配置をつく。大体の位置を確認する。一階へ降りると、昨日ガラスを割って入ったガラス戸を見ると、いつの間にか修復されていた。今回は内側にいるので、カギを開けると外に出る。

 表から出ると、ゴブリンたちに見つかってしまうので、裏口から外へ出る。個別に動いているゴブリンたちを各個撃破を始める。

 そして、三体目を倒そうとゆっくり背後にまわると、そのゴブリンに気付かれてしまう。竹内たちは、一気に倒しきるが、他のゴブリンが湧いて来る。

 竹内たちは、最初はゴブリンたちを次々に倒していくが倒す以上にゴブリンが増えていく。背後にまで回られ、四方八方から次々に攻撃を受ける。

「一匹でも多く道連れにしてやるぞ!」

 竹内が叫ぶ。

 しかし、ゴブリンたちは、仲間の死体の山が高くなっても気にせずに、竹内たちを攻撃した。竹内たちは、小さなダメージの一撃一撃を喰らい続ける。

 そして、とうとう竹内たち三人組は殺されてしまう。




 竹内たち三人は、気が付くとお花畑に戻って来ていた。

「お早いお帰りで」

 前回、ミノタウロスとオーガーを勧めた警備員が、まだ近くに居て言った。

「お前のオススメのオーガーを選んだらこうなったんだぞ」

 竹内が抗議した。

「ミノタウロスもオーガーも初期値が良いので初心者向きなんですよ。慣れてきたら、オーク、ゴブリン、コボルトの方がレベルを上げやすいのでオススメですよ」

 警備員はサラリと言った。

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