竹内たちは、親切な通りすがりののオーガーが倒したミノタウロスを食べ、腹いっぱいになる。
レベルアップしたので、巣に帰って、新しい武器と新しいヨロイをもらいに行くことにする。
巣に到着すると、早速物知りオーガーのところへ行く。
「どうしたんだい。ものすごくご機嫌だね」
物知りオーガーは言った。
「レベルアップした。新しい武器。もらえるなら新しい防具が欲しい」
渡辺が言った。
「なるほど、それでは模擬戦を受けてもらおう」
竹内たちは、武器をもらって戦闘訓練を受けた後、巣を出る。
「巣の近くにある家の中に入ってみないか?」
渡辺が言った。
「入口とか破壊しても、翌日には修復されているというのを試す為か?」
工藤が質問する。
「それもある。だけど、建物の中ってどうなっているのか興味ないか?」
渡辺が聞いた。
竹内も工藤も興味なかったが、巣の真ん前にある家の中に入ることにした。ドアはカギがかかっており開かなかった。それで、竹内たち三人は、玄関を破壊し、中に入る。すると目の前の空中にウィンドウが現れる。
『この世界の建物には基本住人はいませんので、ご自由にお使いください。
ただし、建物の構造によってはモンスターであるあなたには入れないこともあります。
その場合、備品や壁を破壊したりして、お入りください。ただし、壊し過ぎにはご注意ください。
建物自体が崩壊することもあります。
また、あなたがこの建物に入れたという事は、別の個体も入れるということです。
建物のなかで眠ったりしたら寝首を掻かれることもありますのでご注意ください。
なお、建物の中にモンスターにとって役に立つアイテムが保管されている場合があります。気兼ねなくお使いください』
このように書かれていた。
「つまり、いままで宝があるかもしれないところをずっと素通りしていたってことか」
渡辺が言った。
竹内たちは、建物の中を探索したが何も出てこなかった。
アーケードを避け、別の地域を竹内たちは、歩いていた。
たまに、人間と遭遇してもすぐに逃げて行く。腹は減っていないので、無理に追いかけない。
しばらく歩いていると、オーク三体を発見する。物影に隠れて様子を伺う。
「あいつら、人間を襲おうとしているな」
工藤が気付いて言った。
「あいつらに、人間を殺させて、それを横取りしないか?」
竹内が言った。
「人間を攻撃したり、殺したりしたら、カルマゲージが悪化する。でも、殺すのをあいつらにやらせて、食べるだけなら俺たちのカルマゲージは悪化しないだろう」
竹内はさらに説明した。
「なるほど。それはいいなあ」
工藤が言った。
「でも、他人のモノを奪うのは、カルマゲージが悪化するんじゃ。他種族でも悪化するのか、わからないけど」
渡辺が言った。
「では、横取りするんじゃなくて、あのオークどもを倒して、その後にいただくのはどうだ?」
竹内が言った。
「それなら、泥棒にはならないと思うが……奴らこちらに近づいてくるぞ」
渡辺が言った。
竹内と工藤もオークたちを認識する。
「やっちまえ」
竹内の掛け声で一気に戦闘が始まる。竹内たちとオークたちの戦闘音で人間たちは逃げていく。
激しい戦いは、竹内たちの勝利で終わった。しかしながら、人間どもには逃げられてしまい、竹内たちは大ダメージを負ってしまった。
竹内たちは、オークを一体ずつ食べお腹いっぱいになったが、ダメージは全回復しなかった。
「無駄な戦いだったうえに、ダメージが残ってしまった」
渡辺がカルマゲージを確認する。
「無駄ではなかったようですよ。いまカルマゲージが、ほんの少しですが青が優勢だ」
渡辺が言った。
「だが、ダメージが残っている状態で巣の外をうろつくのは危険だろう」
工藤が言った。
「いったん巣に戻って物知りオーガーに意見を聞こう」
竹内たち三人は無事、特にモンスターと遭遇することもなく、巣に戻って来れた。
物知りオーガーが言うには、お腹いっぱいの状態で巣で安静にしていると、傷が少しずつ回復すると教わる。だから、今は休息をとるように勧められた。
翌朝、竹内たちは目を覚ますとケガは全回復していた。
「食事に行こうか」
竹内が言うと、工藤と渡辺は同意する。
市街地にでて、しばらく彷徨っていると、人間五人を見つけた。
竹内には、その五人がとても美味そうに見える。
「あの五人を食べよう」
竹内が言った。
「親切な通りすがりのオーガーは、人間を絶対に殺してはいけないと言ってた。やめましょう」
渡辺が言った。
「どうせ三十日連続で青が多い状態を維持すれば、クリアしやすくなるんだろ。今はまだ昨日一日だ。明日からやり直せばいいじゃないか」
竹内が言うと、工藤も竹内に賛同する。
「どうせ、一人殺したら、その分一体のモンスターを倒せば良いんだよ」
工藤が言った。
渡辺は大きく溜息を吐く。
「今回だけですよ」
この時の判断が、間違いだったと気付くのは大分先の話であった。
竹内たちは、人間たちが進む方向を予測して物陰に隠れる。
人間五人は、ゆっくり竹内たちが隠れている方へ近づいていく。
竹内たちは、息を殺し、近づいて来るのをジッと待つ。そして、物陰のすぐ近くまで人間が近づいて来たので、竹内たちは一気に斬り掛った。一人一殺、三人を倒す。残りの二人は、慌てて剣を抜こうとしているところを、渡辺と工藤が仕留める。
「とても美味そうに思えて仕方ないのだが」
竹内が言った。
「まずは一体ずつ食べて、他の二体は三人で分け合って食べましょう」
三人は一人ずつをあっという間に食べてしまう。
そして、残りに二人を三人でどうやって分けるか話し合っていると、ミノタウロス二体がやって来るのを見える。
「この美味そうな人間の死体をエサにしておびき寄せ、あのミノタウロス二体を退治しようぜ」
ミノタウロス二体は、人間の死体に近づく。
「すげー。美味そうだな」
一体のミノタウロスが言った。
「誰も来ない内に食べちゃいましょう」
もう一体のミノタウロスが言うと、死体の前にしゃがみ食べようとすると、二体のミノタウロスの前に竹内が立つ。
「誰が食って良いと言った?」
竹内が言うと二体のミノタウロスは驚き、立ち上がろうとする。そこに工藤と渡辺が背後から袈裟懸けに斬る。
驚きと痛みで二体のミノタウロスは動きが止まる。
動きが止まったミノタウロスを三人で滅多切りにし、あっさり倒す。
残っている人間の死体とミノタウロスの死体を三人で仲良く分け食べた。竹内たち三人は、腹いっぱいになり、ケガも全回復する。
「腹いっぱいだが、ケガもしていない。何かしたいことある?」
渡辺が聞いた。
「とりあえずは、経験値稼ぎだな」
工藤が言った。
「経験値稼ぎをするにしても、いろんな選択肢があるだろ」
竹内が言った。
「まずは、この辺を探索しないか?」
渡辺が言った。
「ここで立ち話しているよりは経験値が入りそうだ。でも、どうして、この辺の探索何だい?」
工藤が聞いた。
「未来への投資だよ。例えば、敵に襲われた時、逃げたり、隠れたりするのにちょうどいい場所などを予め決めておくんだよ」
渡辺が言うと、竹内と工藤も納得する。
この辺の探索をすることになる。
しばらく、歩いた後、手近の二階建ての建物の入り口を壊し中に入ってみる。建物の中を探索してみると、金槌が出てきた。釘とかは出てこなかったので、これ単体では何かを組み立てることはできそうにないが、何かを叩いて壊したりはできそうである。しかし、戦闘には使えそうにない。
渡辺は、二階の窓から外を眺めていると、建物の前の道をゴブリン八体がぞろぞろと歩いて行くのを発見する。
「ゴブリンの集団が歩いているぞ」
工藤は窓から外を見ようとすると「腹いっぱいだし、放って置け」と、竹内が言った。
「うーん。でも人間の跡を付けているみたいだよ」
渡辺と一緒に窓の外を見た工藤が言った。人間は三人だった。
「それなら、ゴブリンどもの跡を付けよう。上手くすると、人間と戦闘して疲弊したところを叩けば経験値稼ぎやゲージの回復になるぞ」
竹内が言うと、工藤、渡辺も同意する。
竹内たちは、ゴブリンの跡を慎重に付けた。
そしてゴブリンたちが人間相手にしかけるのを辛抱強く待つ。明らかに人間を襲うチャンスだと思われる状況でも、襲わずにゴブリンたちは人間を付けていく。
「なぜ、人間を襲わないんだ?」
竹内は呟く。
すると人間たちは建物の中へ入って行った。
ゴブリンたちは、人間が入って行った建物の周りをしばらく調べたあと、一ヶ所に集まる。
「なぜ、あの建物を襲わないんだ?」
竹内は悩む。
「あの建物が人間の住処なんじゃないか?」
渡辺が言った。
「もしかすると他にも人間が住んでいるのかもしれないな」
工藤が言った。
ゴブリンたちも、引き上げていく。
「この場所はこの場所で覚えておこう。今はゴブリンたちを付けよう」
竹内はゴブリンたちが気になっていた。
ゴブリンたちは、八体もいるので、さすがになかなか隙がない。
結局ゴブリンたちの目的地ゴブリンの巣の洞口までやって来た。
「あれは、きっとゴブリンの巣だ」
竹内が言った。
「人間の住処に、ゴブリンの住処が分かるなんて、今日は本当にラッキーだな」
工藤が言った。
「人間の巣とゴブリンの巣が分かった。しばらく巣の近くを餌場にするぞ」
竹内が言った。
「待ってください。ゴブリンの巣は良いとして、人間の巣も餌場にするってどういう事ですか?」
渡辺が聞いた。
親切な通りすがりのオーガーの教え、「人間を殺すな」を守りたい渡辺は気になった。
「ゴブリンたちは、人間の巣の場所を確認していたではないか。奴らは人間を狩るために人間の巣を確認していたはずだ」
竹内が言った。
「なるほど。人間を襲おうとして隙を見せているゴブリンや、人間との戦いで疲弊したゴブリンを狩るためか」
渡辺は言った。
「それだけじゃない。ゴブリンが倒した人間の死体を入手できるかもしれない」
竹内が言った。
「人間は、モンスターなんて目じゃないほど美味かった」
竹内たちは、人間の死体の美味さを思い出す。