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第一章 第十二話 竹内凹蔵の市街地ステージでの経験値稼ぎ

 竹内はゆっくり目を開くと、林のような場所に出た。

「ここがオーガーの巣か?」

 竹内の隣にオーガーが出現する。

「竹内先生ですか? 工藤です」

 出現したオーガー、工藤が言った。

 するとさらにオーガーが出現する。

「お前は、渡辺か? 俺は工藤だ」

 工藤が聞く。

「渡辺だ。良かった。また一緒だな」

 三人は再開を喜ぶ。

「それにしても、オーガーの巣は洞窟じゃないんだな」

 竹内が言った。

 三人は林の中を見回す。

「物知りオーガーがどこにいるか知らないか?」

 通りすがりのオーガーに、渡辺が聞く。

 通りすがりのオーガーは丁寧に教えてくれる。見かけは厳ついが、中は普通の人間のプレイヤーなのだ。個人差はあっても、悪党はそれほど多くない。


 物知りオーガーは、ミノタウロスの時の物知りミノタウロスと同じでフレンドリーで話しかけやすかった。

 掟やルールを聞くと、ミノタウロスの時と同じだった。

「まず、最初は何をしたらいい」

 竹内が聞いた。

「まずは、模擬戦をやって武器を入手、戦闘訓練までやったら、食料の確保だな。最初は自分で無理に入手、つまりモンスターを倒すことを考えるな。誰かの食べ残しとかが見つかったら、それを恥ずかしがらずに食うことだ。レベルは模擬戦や戦闘訓練でも上がる。モンスター狩りはレベルが上がってからで十分だからな」

 物知りミノタウロスは丁寧に教えた。



 竹内たちは、三人とも剣を手に入れ、戦闘訓練を終えると、食料の確保へ行く。

 市街地を歩いていると、シャッター通りに出る。

 アーケードになっており、細かい横道が多かった。三人は、アーケードを道なりに進むと、ゴブリンとコボルトが戦っていた。ゴブリンもコボルトも、竹内たちを見ると戦闘を途中で止め逃げていく。

 上手い具合に、ゴブリン三体とコボルト三体の死体が残った。

 ゴブリン一体、コボルト一体ずつ食べると、竹内たちはお腹いっぱいになって巣に帰った。


 早速、アーケードで戦わずに食料を得たことを物知りオーガーに話す。

「それは良かっな。だが、気を付けろよ。アーケードはいろんな種類のモンスターが集まって来るからな」

 物知りオーガーが言った。

「なんでいろんな種類のモンスターが集まって来るんだ?」

 渡辺が聞いた。

「それは俺が教えてやろう」

 通りすがりのオーガーが勝手に割り込んできた。

「『あのシャッター通りには、レアアイテムがある』という噂がある。残念ながら、その噂が正しいか嘘かは分からない。だが多くのモンスターの種族を跨って、その噂が流れており、その噂を信じている奴らが、あのアーケードを自分たちの縄張りにしたいと考えているようだな」

 通りすがりのオーガーは言った。

「どうして、俺たちにそんな事教えてくれるんだ?」

 渡辺が聞く。

「おっと、ちょっと待ってな」

 通りすがりのオーガーは、ゲーム端末を出すと画面を見る。カルマゲージを見たのだ。

「おっしゃー」

 通りすがりのオーガーは、青ゲージが増えているのを確認して喜ぶ。

「何を喜んでいるんだ?」

「すまん。このゲームの仕組みを分かっていないと意味わからないよな」

 竹内は溜息を吐く。

「このゲーム、市街地ステージをモンスターで攻略する場合、カルマゲージを青にする必要がある。ここまでは知っているよな?」

 竹内たち三人は頷く。

「青ゲージが多い状態で翌日になると、リセットされるが、青ゲージが増えやすくなる。これも知っているよな」

「もちろんだ」

 渡辺が答える。

「つまり、青ゲージが多い状態を毎日維持すると、些細な事でも青ゲージが増えやすくなるんだよ。お前たち三人に正しい情報を提供する。この行動も青ゲージを増やす行為だ。逆にお前たちに教えた内容に誤りがあった場合、青ゲージが増えないけどな」

「青ゲージを増やしたいから、教えたのか」

 竹内は複雑な表情をする。

「でも、青ゲージを増やしたいなら、モンスターとの戦闘が効率的に良いんじゃないのか?」

 渡辺が聞く。

「その通りだ。モンスターを倒しても青ゲージが増えるし、攻撃を受けてダメージを受けても青ゲージが増えるからな。だが、死のリスクが伴う。役に立つ情報の提供は少なくとも死ぬことはない」

 通りすがりのオーガーは淀みなく言った。

「あんたはどのぐらい青が多い日を続けたんだい?」

 竹内が聞いた。

 通りすがりのオーガーは少し考え込む。

「おそらく三十日ぐらいだったと思う。なにぶん、メモを取ったりできないのでな」

 渡辺は「うーん」と唸る。

「ただ、ものすごく青ゲージが増えやすくなったなと、感じたのは十五日を過ぎたあたりだ。だが、これは参考値に過ぎないぞ。人によって違う可能性があるから。まずは自分自身で確認することだ」

「なんだ、結局自分で確認しないとダメなんじゃないか」

 工藤が愚痴る。

「こればっかりは、カルマゲージへの影響は個々人の元のカルマに影響するらしいから、絶対とは言えないんだよ」

 通りすがりのオーガーは苦笑する。


 通りすがりのオーガーからいろいろ教わった。特に人間を絶対殺してはいけないと念を押された。通りすがりのオーガーのアドバイスを受けたあと、模擬戦をするとあまり防御力のない防具をもらえる。

 防具をもらった後、戦闘訓練を受ける。

 しかし、三人とも一レベルのままで、市街地に行くには心もとなかった。

「効率のいいレベルを上げる方法はないか?」

 竹内が聞いた。

「戦闘しかない。だが、忘れるな。レベル上げは手段であって、目的じゃないぞ。レベルが低い間は何かと死にやすいからレベル上げをしたくなるのは分かるけどな。実践程ではないが、相撲や柔道、本物の武器を使った模擬戦でも経験値が入るぞ」

 物知りオーガーが言った。

「仕方ない。模擬戦でもやってみるか」

 竹内が言った。

「本物の武器を使った模擬戦は巣の中ではできないぞ」

 物知りオーガーに釘を刺される。


 竹内たちは、本物の武器を使った模擬戦を一時間ほどしたが、結局レベルは上がらなかった。

 すると、先ほどの親切な通りすがりのオーガーと再会する。狩りから帰って来たのだ。

「何をしているんだい?」

 通りすがりのオーガーが聞いた。

「本物の武器を使った模擬戦をしていたんだよ」

 渡辺が言った。

「危険な模擬戦しているな。物知りオーガーのところの模擬戦よりは経験値は入るかもしれないけど、オススメしないな」

「でも、レベルを上げたいんだよ」

 渡辺が言った。

「レベルはどうすると上がるかは知っているよな?」

「モンスターを倒すとレベルが上がるね」

 工藤が口を挟んだ。

「もちろんモンスターを倒してもレベルは上がるけど、倒さなくてもレベルが上がることがあるよね」

「倒さなくても経験値が溜まればレベルが上がりますね」

 渡辺が言った。

「ただ、効率よく経験値を上げようとすると戦闘が一番効率が良いが、倒されて死ぬリスクが非常に高い。リスクを避けたければ、戦闘を最小限に抑えて、リスクの少ない方法で経験値を稼ぐと良いとなるわけだ」

「その方法を知っているなら教えて欲しいのだが」

 竹内が言った。

 通りすがりのオーガーは、ニヤリとする。

「効率は良くないが、今お前たちは経験値を稼いでいるんだが、その自覚はあるか?」

 竹内たちは、キツネにつままれる。

「安全地帯、つまり巣の外に居るだけで、ほんの少しずつだが、経験値が入る。それよりもほんの少し経験値が多く入るのが巣の外を歩くことだ。つまり歩くだけでも経験値が入る。つまり巣の外に居て行う行動すべてに経験値が入るんだ」

「本当か!」

 竹内が言った。

「疑うんなら、ゲーム端末を巣の外で何か行動する毎にレベルをチェックすると良い。運が悪いと……運が良いのかもしれないが、戦闘後にレベルアップするかもしれないが、戦闘以外の何かをやった後にもレベルアップすることがあるぞ」

「本当かよ」

 渡辺は疑う。

「ちなみにアーケードの建物のシャッターを壊して中に無理やり入った時、レベルアップしたことがあったぞ。ちなみに建物の入口とかを破壊しても翌日には自然と修復されているから気兼ねなく破壊して回っても良いぞ」

 そこまで言うと、通りすがりのオーガーはゲーム端末を出して、画面を確認する。

「レベルでもアップしそうなのか?」

 渡辺が聞く。

「いや。俺はもう少しでステージクリアできそうなんだ」

「「「なんだって!」」」

 竹内たち三人は、口を併せて驚く。

「最後までレクチャーできるか分からないが、アーケードの利用方法を教えてやるよ」




 竹内たちと通りすがりのオーガーはアーケードまで来た。

 通りすがりのオーガーは、いろいろアドバイスをする。歩くときなるべく足音を立てない、小さい横道に敵が隠れていないか注意する、などなどいろいろ。

 突然、通りすがりのオーガーは、立ち止まり、物陰に隠れる。そして、竹内たちにも隠れるように合図する。

「あれは、結構強いミノタウロスだが、俺なら勝てる。でもお前たち三人掛かりでも勝てないな」

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

「武器だよ。武器を持たない格闘家タイプだと武器で判断できないので、ヨロイとかで判断することになるが、武器程分かりやすくないから、リスクが高くなる。」

 竹内たちは納得する。

「お前たちに俺のステージクリアに付き合ってくれたお礼に経験値をプレゼントしよう」

「そんな事できるのか?」

「アイテムをプレゼントするかのようにはできないよ。もちろんリスクはあるよ。方法は……」


 方法は、通りすがりのオーガーが正面から戦うから、ミノタウロスの背後にまわり、一撃を入れる。当たろうとハズレようと即逃げる。それだけで、格上のモンスターを攻撃した経験値とミノタウロスを倒したことで入る経験値の頭割り、四人なので、四分の一ずつ、竹内たちに入るという。


「この方法を応用すると、経験値が簡単に手に入るかもしれない。ただし、経験値泥棒として命狙われるかもしれないけどな」

 そう言って、通りすがりのオーガーは笑う。


 通りすがりのオーガーが、ミノタウロスへ突進して攻撃をする。見事奇襲が成功し、ダメージを与える。

 激しい攻防であるが、通りすがりのオーガーがやや押し気味である。それをみて竹内たちはミノタウロスの背後にまわる。

 三人一緒にミノタウロスを攻撃する。渡辺だけ命中したが、竹内と工藤は攻撃がハズレる。そして事前の指示通り離脱する。

 通りすがりのオーガーがミノタウロスへ止めを刺し、戦闘は終了する。

「戦闘終了まで持って良かった。ゲーム端末でレベルを確認すると良い」

 竹内たちは言われた通り確認すると、二レベルになっていた。

「やった!」

 三人が喜んでいる傍で、通りすがりのオーガーは徐々に色が薄くなっていく。

「レベルアップおめでとう。俺が教えたことを役立ててくれ」

 そう言うと、竹内たちの目の前から消える。



 親切な通りすがりのオーガーは、市街地ステージをクリアした。

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