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第一章 第十一話 竹内凹蔵の二回目のキャラメイキング

 朝になると渡辺が、三人の中で一番先に目覚める。すると、ゲーム端末を出し、カルマゲージを確認する。物知りミノタウロスが教えてくれた通り、リセットされており、左半分が青、右半分が赤になっていた。

 渡辺は、工藤と竹内を起こす。

「さっそく、物知りミノタウロスのところへ行って、アドバイスを聞きましょう。そして今日の方針を決めましょう」

 まだ、竹内も工藤も眠そうにしている。竹内も工藤もなんとか上体を起こす。

「そうするか」

 竹内が言った。

 竹内たちは、物知りミノタウロスに会いに行く。

「腹が完全に減る前に食料の確保をしないとダメだ。完全に腹を減ってしまうと、狩りができなくなるだろ」

 物知りミノタウロスに言われる。


 昨日レベルアップしたので、昨日の内に新しい武器とヨロイをもらうための模擬戦と戦闘訓練を受けていた。

 今日もレベルアップとカルマゲージの改善を目指すことにする。


 まずは、食料を確保することにする。

 市街地へ出て行くと、住宅街を三人は進む。空腹であったが、レベルもアップしているし、武器も強化してもらった。また、あまり性能は良くないがヨロイも手に入った。

 昨日より、戦えるはずだ。

 意気揚々と竹内たちは市街地を進む。

 すると、角が生えている、身長二メートルぐらいの鬼のモンスター、オーガーが一体現れた。オーガーはヨロイはショボかったが、剣はかなりゴツイ丈夫そうな物を装備していた。

 竹内たち三人は、剣がゴツイ作りであることを見落としていた。

 三人一斉にオーガーに斬り掛ったが、ハズレたり、剣で弾かれたりした。そして、渡辺が反撃で袈裟懸けに斬られ、動きが鈍くなったところ、あっさり切り捨てられた。

 三人掛かりでも勝てないのだ、二人になったらあっという間にやられた。


 竹内たち三人は、肉体から魂だけ出たような感じであり、自分たちの死体を眺める感じになる。

 竹内たちはオーガーに罵詈雑言を浴びせるが、当然届かない。

 オーガーは、渡辺の肉を腹いっぱいになるまで食ったが、後は残して立ち去った。




 竹内たち三人は、仲良く一緒にお花畑に戻ってきた。

 まだ、警備員たちが数人いたが、ほとんど騒ぎは収まっていた。騒ぎを起こした霊全員にゲーム端末が行き渡り、全員がゲームを始めたからである。

「お早いお帰りで」

 竹内たちに気付いた警備員が言った。

「どういう事だ。我々はゲーム世界で丸一日いたというのに、こちらでは大して時間が経っていないように見えるのだが」

 竹内も工藤も気付かなかったが、渡辺は気付いて言った。

「良く気付きましたね。そうですよ。それだけマイナスのカルマを持っている人はマイナスが軽減され、プラスのカルマを持っている人はプラスを強化できるように、そのような仕様になっています」

 警備員は、淡々と説明する。

「逆にマイナスが大きくなることはないのか?」

 渡辺は疑問をぶつけた。

 実際、モンスターだと知らないで、ドワーフを殺して食べてしまい、カルマゲージの赤い部分を広がってしまったのを覚えていたのだ。

 渡辺は、ジッと警備員の目を見る。警備員もしばらく渡辺の目を見つめる。

「ゲームのルールを把握したみたいですね」

 警備員は黙っているのを諦める。

「カルマゲージが真っ赤になってゲームオーバーすると確かにマイナスのカルマが悪化します」

 警備員は肩を竦めて言った。

「やっぱり! カルマが良くなるばかりじゃないってどうして言わないんだ!」 。

「それはそうなんですけどね。カルマを悪化させている人はほとんどいませんよ。残念ながら一時的に悪化させてしまう場合もないわけじゃないですがね。モンスターを攻撃して良く、殺してもよいというルールを除けば、生前の倫理観と大して変わらないのです」

 竹内たち三人は絶句する。

「やってはいけないことも生前と大して変わりません。ウソを吐いたり、騙したり、他人のアイテムを奪ったり、空き家に入って空き家にあったアイテムを持ち去るのはOKですよ。あと、一番やってはいけないのは、人間を殺すこと。人間には、ニキト、エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーも含まれますよ」

 渡辺は、警備員が『ニキト』と言ったのを聞き逃さなかった。

 ゲーム内の物知りミノタウロスに人間とみなされる種族としてエルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーを教えてもらったが、ニキトは含まれていなかった。

「ところで『ニキト』ってどんな種族だ? 教えてもらっていないのだが」

 渡辺が聞いた。

「市街地ステージには生息していない種族です。どうしても知りたければ、キャラクターメイキングの時の種族メニューでヘルプを確認してください」

 警備員が懐から手帳を取り出し、見ながら言った。

「でも市街地ステージをクリアして、ダンジョンステージへ行くと遭遇する可能性があるんだろ?」

「ダンジョンステージに到達しても現在は、ゼロパーセントですね。NPCのニキトは存在しておらず、プレイヤーキャラクター以外では存在しないので」

 竹内は、物知りミノタウロスがニキトを教えてくれなかった理由が分かる。

「ちなみに、ダンジョンステージと市街地ステージはルールが違うので、その辺もプレイする時は気を付けてください。ダンジョンステージに到達する直前に再度教えてもらえますけどね」

 警備員は手帳を懐にしまう。

「ゲームを攻略するうえで、オススメの種族を教えてもらえないか?」

 竹内が聞いた。

「どんなキャラクターが選択可能なんですか?」

 警備員は聞き返す。


 竹内は、キャラクターメイキングを開始し、種族メニュー画面を表示する。

『人間』

『ニキト』

『エルフ』

『ドワーフ』

『ノーム』

『フェアリー』

『モンスター』

 の項目で有効なのはやっぱりモンスターだけだった。モンスターを選択し、モンスターメニューを表示する。

『オーク』

『ミノタウロス』

『オーガー』

『ゴブリン』

『コボルト』

 の項目は、すべて有効だった。


 竹内は、警備員に正直に本当のことを教える。

「戦闘に慣れていない間は、ミノタウロスかオーガーがオススメですね。ミノタウロスとオーガーはヒットポイントが多いので、戦闘で死に難いですよ。でもレベルが上がり辛いので、長期間使っていると、他のモンスターの方がレベルが上がり易いので有利になります。序盤の低レベルの時をどうやってやり過ごすのかがカギになります」

「前に聞いた警備員のときは、そんな事教えてくれなかったぞ」

 工藤が愚痴って言った。

 警備員は苦笑いを浮かべる。

「初めからなんでも聞いていたら、面白くないでしょ。ゲームなんだし」

「ゲームで地獄に落とされたらたまらないよ」

 渡辺が言った。


 三人は状況を正しくわかっていなかった。ゲームで良い成果の残さないと確実に地獄に落ちることを。知られないように運営側もやっているからでもあるが。


「もう一つ聞きたい。もし人間のキャラクターが作れたとしたら、人間のキャラクターとモンスターのキャラクターではどちらクリアしやすいか?」

 渡辺が聞いた。

「プレイヤーのカルマにも因るので一概には言えないのですが、市街地ステージだけで言うと、おそらくモンスターですね」

「どうしてだい?」

 渡辺は、理由を聞く。

「それは、市街地ステージのクリア条件が、人間とモンスターでは違っていて、モンスターのクリア条件の方が楽だからですよ」

 工藤と渡辺は顔を見合わせて、頷く。


 人間の場合は、ピンチの人間を助ける、またはそれに類することを十回するというのが一番簡単なクリア条件。

 それに対して、モンスターの場合は、ウソを吐かない、騙さない、盗まない、人を攻撃しない、人を殺さないを守って生き抜けば良いのである。

 しかも、人間のスタート地点はすぐに出ないとモンスターに襲われるのに対して、モンスターは完全に安全な巣からのスタートである。いろいろな面でモンスターが有利にできていた。

 だから大きなマイナスのカルマを持っているプレイヤーは、モンスターのキャラクターしか作れないようになっているのだ。


「ところで、次はどの種族でやりますか?」

 渡辺が聞く。

「戦闘に慣れていない以上、ミノタウロスか、オーガーだろうな」

 竹内が言った。

 何気に警備員のヒントは信じていた。

「ミノタウロスか、オーガーかと言っても、どっちが良いとは決め辛いです。なぜならオーガーを知らないからです」

 渡辺が言った。

「ならば、オーガーをやってみるしかないだろう」

 工藤が言った。

「種族を選ぶ前にニキトを調べておきませんか?」

 渡辺が、気になっていたニキトの事を思い出し提案する。

「えーと、ニキトってたしか市街地ステージには出てこない人間の一種だったよな。今はまだ良いんじゃない」

 工藤が言った。

「ヘルプを見るだけだから」

 渡辺は種族メニューのニキトのヘルプを見る。

『植物の精霊で、人間の女性に半透明の羽を付けた姿をしている。上級者向けのキャラクターであり、ゲーム攻略するのが非常に困難な種族』と書かれていた。

「俺はどっちにしろ選べないから良いんだが、誰か選択する奴がいるのか?」

 渡辺が言った。

 渡辺が気になる独り言を言ったので、工藤が気になりだす。

「どうかしたのか?」

 工藤が聞いた。

「いや。ニキトのヘルプを見たら、誰が好んでプレイする奴がいるのか気になったんだ」

 渡辺がそう答えたので、工藤も結局、ニキトのヘルプを見る。

「確かにニキトを選ぶ理由がわからん。初心者向けと言われているミノタウロスでさえ、プレイが大変なのに、おそらくそれ以上に困難なんてマゾか?」


 渡辺と工藤は、自分たちがニキト以外のメニューが有効なので、考えたことがなかった。中にはニキトしか有効にならないプレイヤーがいることを。


「寄り道はもう良いだろう。キャラクターメイキングするぞ」

 竹内が言った。

 三人がオーガーを選択すると、クラスメニューで止まる。

『戦士』

『剣士』

『闘士』

 の三つの項目があった。

 ミノタウロスの時には、『剣士』は無かった。

「なんだ。剣士と言うのは、戦士とどう違うんだ?」

 竹内が聞いた。

 渡辺がヘルプを見る。

『武器は主に剣を使う。剣を使うと命中とダメージにプラスの補正が掛かる。しかし、それ以外の武器にマイナス補正が掛かるが、使える武器種は戦士と同じ』

 ヘルプの内容を工藤と竹内に説明する。

「試しに剣士をやってみよう」

 竹内が言うと三人とも剣士を選んだ。

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