天野輝が上官鬼からゲーム端末を受け取る時間より遡る。
竹内凹蔵は、自分の取巻き二人、工藤寛平、渡辺四郎と一緒にいた。三人とも、竹内の講演の後の為、ビジネスカジュアルの服装をしていた。
実は、自分が某大学の講堂に自分の取巻き二人と一緒にいるときに、首都直下型大地震に遭い施設の装置が竹内とその取り巻きたちの上に落下し、一緒に死んだ。
しかし、竹内とその取巻きたちは自分が死んだという自覚がなかった。当人たちは講堂に居ると思っているのだ。
実際には、講堂ではなくお花畑であり、我が物顔の大声で話している。それ為、他の霊たちから、悪目立ちしていた。
「あいつ竹内凹蔵じゃないか?」と言った囁き声が聞こえてくる。その囁き声がさらに大きくなっていく。
すると、金のネックレスをして、派手なシャツを着た男が竹内の方へ近づいていく。
「お前が竹内凹蔵だな」
取巻き達が、「竹内凹蔵先生だが、いま先生は忙しい。後にしろ」と言った。
派手なシャツ男は、「多くの人が悲惨な目に遭ったのはお前のせいだ」と言って、突然竹内をグーで殴る。
それを皮切りに複数の人間が竹内殴りに加わって行く。取巻き達は竹内を助けようとするが、男たちに殴られる。
霊体的にも、穢れ的にも、激しくもみくちゃになっており、滅茶苦茶になっていた。
そこに、天野がきて乱闘の様子を呑気な気分で見る。
取巻き達は、自分たちではどうにもできないと悟り、警備員を大声で呼んだ。
「竹内のせいで俺達氷河期世代が酷い目に遭ったんだぞ」
殴っている男の内の一人がそう叫ぶ。
しばらくすると警備員たちがやって来て、竹内と他の霊たちを引きはがす。中には警備員を殴って、そのまま地獄に落ちる者もいた。
鬼たちは、竹内とその仲間と竹内をぼこっていた男たちにゲーム端末を配り始める。そのどさくさに紛れて穢れていない霊も、ゲーム端末をもらおうとしているが、結局後回しにされてもらえない。
「ゲーム端末を渡された方々には、早急にゲームを始め、今後はお花畑で乱闘はしないように頼みます」
警備員の一人が言った。竹内をボコった霊を取り押さえに来て、ゲーム端末を持っていない警備員は帰り始める。
「我々にこんな物でどうしろと言うんだ」
ゲーム端末を渡された取巻きの一人、工藤が言った。
「そのゲームを始めると、とりあえず、ここから離れられるよ。そうしたら一方的にボコられることもなくなる」
警備員の一人が言った。
「ただし、一方的にですが」
さらに追加して言うと、去っていく。
しかし、皮肉めいたセリフを竹内を含む三人は聞いていなかった。
「とりあえず、やってみるか」
竹内が言うと、取り巻きの二人は頷く。
三人は、端末の電源を入れる。
ゲームのロゴが表示された後、初期メニューが表示される。
プレイヤー登録を選び、登録するとキャラクターメイキングを開始する。
種族メニュー画面になると、
『人間』
『ニキト』
『エルフ』
『ドワーフ』
『ノーム』
『フェアリー』
『モンスター』
の項目があった。しかし、『人間』『ニキト』『エルフ』『ドワーフ』『ノーム』『フェアリー』の項目は無効になっており、選べないようになっていた。唯一有効になっていたのは『モンスター』だけだった。
「なんでモンスターしか選べないんだ?」
竹内が言った。
しかし、竹内の取巻き二人は、無効になっているのは、『ニキト』だけだった。取巻きの二人は、自分たちがモンスター以外を選べることを隠す。
「お、おかしいですね。先生」
取巻きの一人が言った。
竹内はモンスターを選ぶとモンスターメニューになり、
『オーク』
『ミノタウロス』
『オーガー』
『ゴブリン』
『コボルト』
の項目があった。
竹内の近くを警備員がやって来る。
「警備員。どういう訳か、モンスターしか選べないんだが」
竹内が近くにやって来た警備員に聞くと、警備員が竹内の前までやって来る。
「選べる種族メニューは、生前の行い、カルマによって変わる仕様になっております」
警備員は、事前のQ&Aに従って答えた。
「どうやると、モンスター以外の種族でプレイできるようになるんだ?」
「今使える種族でプレイして、ゲーム攻略に関する成果を残すと、使える種族が増えることもあります」
「増えることがあるという事は、増えないこともあるってことだよね」
竹内が食い下がる。
「我々は、ゲーム端末を配るように指示されているだけで、ゲーム内容までは知らされていません」
「それなら、ゲーム情報はどこで得られる」
竹内は、ニヤリとしながら聞く。
「簡単な方法は、実際にプレイ済みのプライヤーに聞くのが早いですよ。あと、モンスターキャラクター限定ですが、巣の中に物知りキャラクターがいます。NPCです。いろいろ教えてもらえますよ」
警備員からいろいろ情報を得られたが、竹内は、今何をしたら良いのかわからない。
「人間が選べない。モンスターしか選べないんだが、何を選んだら良い?」
「お好みで選ばれるとよろしいかと。ただ、初心者はミノタウロスがオススメだと、伺っております」
警備員からミノタウロスがオススメだと聞き、ミノタウロスを使うことにする。
「では、ミノタウロスでキャラクターを作ろう」
竹内に言われて、取り巻き二人は固まる。
「え、ええ。ミノタウロスで行きましょう」
二人の取巻きは人間になりたかったが、言われて仕方なくミノタウロスでキャラクターを作ることにした。
三人はモンスターメニューでミノタウロスを選ぶと、 クラスメニューが表示された。
『戦士』
『闘士』
の項目しかなかった。
「戦士と闘士って何が違うんだ?」
竹内が言った。
「どうも、戦士は武器や防具を使えるクラスで、闘士は軽装の防具しか使えない代わりに素手で戦えるクラスの様です」
取巻きの一人、工藤が言った。
「どうして、そんなことが分かった?」
取巻きの一人、渡辺が聞いた。
「画面の端に『?』マークがあるでしょ。それを触ると情報が表示されます」
工藤は答えた。
「それで、とっちを選ぶと良いんだ?」
竹内が聞いた。
また通りかかった警備員に聞く。
「お好みで選ばれるとよろしいかと。ただ、初心者は戦士を選んだ方がプレイしやすいと別の方から伺ております」
三人は、警備員から聞いた情報から、三人とも戦士を選ぶ。
すると、三人ともお花畑から姿を消す。
竹内は、地面と天井だけが延々と広がっている、亜空間に居た。当然ながら、取り巻きの二人はいない。
取巻き達は、別々の同じような亜空間にいる。
”ゲーム内では、ゲーム内だけの名前を使っても良いですし、本名をそのまま使っても良いですがどうしますか?”
ゲームシステムから問いかけられる。
「本名でいいよ」
竹内は特に悩まず言った。
しばらく沈黙が漂う。
”ゲーム名、『竹内凹蔵』で登録いたしました”
”市街地ステージからスタートします”
”善行を行うとカルマが良くなり、カルマゲージは青が広がります”
”悪行を行うとカルマが悪くなり、カルマゲージは赤が広がります”
”ステータス画面のカルマゲージの全体が青くなると市街地ステージクリア、真っ赤になるとゲームオーバーとなります”
”次に注意事項を説明します”
”人間を攻撃するとカルマが悪化します。ただし、自衛のための攻撃つまり反撃はセーフです”
”ちなみに、人間とはヒューマンだけでなく、エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリーも含まれるのでご注意ください”
”モンスターを攻撃するとカルマが改善します”
”攻撃を受けダメージを受けるとカルマが改善します”
”他の生き物を殺さないと食料が得られません。また、他人が生き物を殺した場合でも食料にできます”
”カルマゲージは毎日リセットされますが、前日の結果で青くなりやすくなったり、赤くなりやすくなったりします。つまり前日の結果は無駄になりません”
”ゲームをスタートしてもよろしいですか?”
「ああ、スタートしてくれ」
竹内がそう言うと、視界が真っ白になり、何も見えなくなる。
竹内はゆっくり目を開くと、洞窟のような場所に出た。
「市街地に出るんじゃないのか?」
すると、自分の隣にミノタウロスが発生したので、竹内は驚く。ついでに発生した方のミノタウロスも驚く。
「竹内先生!」
「な、なんだお前は!」
すると発生した方のミノタウロスは、ハッとする。
「もしかして竹内先生ですか。工藤です。工藤寛平です」
「驚いたじゃないか。工藤君か」
するともう一体ミノタウロスがは発生する。発生したミノタウロスは、非常に驚く。
「わ。化け物!」
「お前もな」
竹内が言った。
「渡辺くん。渡辺四郎くんか?」
工藤が、聞く。
「あ、ああ。俺は渡辺だ」
「俺は工藤寛平、こちらが竹内先生だ」
「良かった。はぐれたらどうしようかと思ったよ」
渡辺が言った。
なんてことはない。ほぼ同時刻に同じ種族、同じクラスを選んだから、たまたま同じフィールドの同じ巣に現れたのだ。
発生するステージは、カルマによって固定的に決められるが、フィールドはランダムに決定される。しかしながらランダムと言っても、モンスターの場合、選んだ種族とクラスと時刻でどのフィールドのどの巣からスタートが決定される仕組みになっている。
つまり、竹内たちのように、同じ種族、同じクラスを示し合わせて、ほぼ同時にキャラクターメイキングをすると同じ巣からスタートできるのだ。
ちなみに、人間の場合、残念ながら巣でなく、一室からスタートするので同じ種族、同じクラスであっても同じ部屋からスタートはしない。それでも近くの一室からスタートする仕組みになっていた。
竹内、工藤、渡辺の三人は、無事の再開を喜ぶ。
「それにしても、これからどうしたら良いんでしょうか?」
工藤が聞いた。
「お花畑の警備員が、ゲームの情報は、実際にプレイ済みのプライヤーに聞くのが早いと言っていた。その辺にいる奴に聞いたらどうだ」
竹内が言った。
「その辺に居る化け物がプレイヤーとは限らないんじゃないか?」
工藤が言った。
「とにかく話を聞いてみよう。プレイヤーかどうかはわからないが、突然襲ってきたりしないだろう。それと、工藤。ミノタウロスを化け物と呼ぶな。俺達だってミノタウロスなんだぞ」
渡辺が言った。
工藤は、自分の手足を見た後、これ見よがしにある水鏡に自分の姿を見ると、自分もミノタウロスであることを理解する。
「そうだな」